生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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757.【ハル視点】ルセフ達に会いに

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 書類仕事の続きをするという忙しそうなメロウに別れを告げて、俺達はすぐに冒険者ギルドを後にした。もっと引き留められるかと思ったんだが、本当に急ぎの仕事なんだな。

 まあ今日は俺達にもあまり時間の余裕があるってわけじゃないし、ちょうど良いか。

「次はカルツさんと、ブレイズ達の所にしようか」

 そう声をかけてから、俺はアキトの手を引いて迷いなく歩き出した。

 幽霊のカルツさんがいるスラテール商会と、ルセフ達が借りている家はほぼ同じ区画内にあるからな。やはりここは先にカルツさんの方からかな。

 ギルド前の大通りには今日もたくさんの人がいたが、裏路地に入ってしまえば人の流れも穏やかだ。俺は路地に入るなり、アキトに向かって笑いかけた。

「それにしても、メロウに会えてよかったね」
「うん。忙しそうだったけど、挨拶できて良かった」
「ああ、ああいう書類の対応はギルマスよりもメロウの方が得意だろうからな…」
「そっか…それは大変そうだね…」

 心配そうに顔を曇らせたアキトに、慌ててまだメロウにも笑う余裕があったから大丈夫だと思うよと付け加える。

「俺が見た今までで一番忙しそうだった時のメロウは、笑顔なんてかけらも無かったからね」

 いや、なんなら殺気すら放っていたな。用事も無いのに声なんてかけようものなら、何をされるか分からないぐらいの殺気だった。

 こんな事をアキトに言ったら、それこそ後が怖い。だから殺気を出していたなんて言うつもりはないんだが。

 そう思いながら視線を向ければ、アキトはふにゃりと笑みを浮かべていてどこか嬉しそうに見える。 

「アキト、なんだか嬉しそうだね」
「うん。メロウさんが心配してくれて、いってらっしゃいって言ってくれたのが嬉しかったんだ」

 普通に了解しましたで済ませても良かったのに、忙しいのにわざわざ言ってくれたからねとアキトは照れくさそうに続けた。

 あー、可愛いなぁ。この可愛い反応を、独り占めできて良かったとついつい思ってしまった。

「…そうだね。帰ってきたら忘れずにただいまって言いに行こうか」

 微笑みながらそう提案すれば、アキトは満面の笑みを返してくれた。

「うん、絶対に二人で来ようね!」

 ああ、約束する。



 抜け道を通りぬければ、スラテール商会はもうすぐそこだ。だが残念ながら、そこにカルツさんの姿は無かった。

「いない…ね?」
「ああ、でも小道にいるのかもしれないよ」

 この前会ったのは小道の方だったからと二人で店の横の道を入ってはみたけれど、そこにもカルツさんの姿は無かった。

 折角会いに来たのに不在か。アキトが悲しまないと良いんだけど。

「あーここにもいないか…残念だね…?」
「うん、残念だけど…絶対にずっとここにいるってわけじゃないから仕方ないよね」

 心残りから離れられなくなっていた昔はともかく、今のカルツさんなら結構自由に動けるみたいだからねとアキトはあっさりとそう答えてくれた。

 少なくとも悲しんではいないみたいだな。

「後で、もう一度のぞきに来ようか」
「うん、そうしよ」
「それじゃあ、先にブレイズ達の家に行ってみよう」



 黒酒を売っている店の裏側にある細い道に、パーティーで借りているという家はあった。話しを聞いて想像していたよりも、なんだか可愛らしい作りの家だ。いてくれるかなと気配を探ってみたが、中には誰もいないみたいだ。

「アキト…もしかしたらこっちもいないかも…?」

 そう呟いた瞬間、真後ろから声がかかった。家の中の気配を探るのに集中していたせいで、後ろへの警戒がおろそかになっていたらしい。

「あー!アキトだ!会いにきてくれたの?」

 今回はブレイズ達だったから問題は無いが、我ながらだいぶ気が緩んでるな。辺境領に行く前に、もっと気を引き締めないとな。反省しながら視線を向ければ、元気に駆け寄ってくるブレイズの姿が見えた。

 嬉しそうに笑いながら近寄ってくるブレイズに、アキトもニコニコと嬉しそうに笑みを返している。この二人が揃うと、なんだか和むんだよな。

「あ、本当にアキトだ…って、お、ハルもいるじゃねぇか!」

 お前に教わった盾の使い方、最近実戦でも練習してるんだぜと叫んだのはウォルターだ。野営の見張り時に教えた盾の使い方か。すこしでも役に立っているなら何よりだ。

「おおー元気だったかーアキト!新しい魔法覚えたか!?」

 やっぱり気になるのはそこなんだな。魔法馬鹿のファリーマは、今日も相変わらずぶれないようだ。

 皆から矢継ぎ早にかけられる声にアキトと俺が反応するよりも先に、ルセフがウォルターとファリーマの頭をぺしりと叩いた。

「いって!おい、何するんだよ、ルセフ!」

 元気いっぱいに言い返すウォルターの横では、静かに悶絶しているファリーマの姿がある。聞こえてきた音は軽そうだったが、どうやらかなり痛かったようだ。

「お前ら、声がでかいんだよ…近所迷惑だろうが」
「…ブレイズも叫んでたのに…」
「ブレイズのは友達にあえて嬉しかっただけだろ」

 それはひいきだとまたしても大声で騒ごうとしたウォルターとファリーマに、ルセフはぐっと思いっきり拳を握ってから満面の笑みで答えた。

「次は、拳で、全力で、行くからな」

 叫んだらぶん殴ると分かりやすく脅したルセフに、二人はぐっと言葉を飲み込んだ。

 今の迫力はちょっとメロウに似ていたなと、俺は遠い目をしてしまった。
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