生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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755.【ハル視点】長い買い物

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 いつもの買い出しと違うのは、とにかく色んな店を回る必要がある所だ。

 辺境領に行くならあそこの店の魔法薬が欲しいとか、あちらではよく品薄になる採取袋は必ず多めに用意したいとか色々あるからな。

 普段なら近場にある店だけに絞り込んで他は後日にと計画を立てて買い物をするんだが、二日後に出発となるとそうも言っていられない。

 俺とアキトはトライプールの街中を、手を繋いでうろうろと歩き回る事になった。

 街の端から端まであちこちに連れまわされる形になったけれど、アキトは文句ひとつ言わなかった。この世界に来てすぐの頃ならとっくに動けなくなるぐらいの距離を歩いているんだが、アキトは明るい笑顔すら見せていた。

 体力がついて逞しくなったな。そう感心しながら歩いていたら、うっかり目的地の店を通り過ぎかけてしまった。

「あ、アキト、ここも入るよ」

 ごまかすように声をあげたのは、大通りに面した一軒の小さな店の前だった。

 ここは店の作りがちょっと変わっていて、入口は狭いが中は奥に向かって細長く伸びている。その変わった作りの店内には、様々なテントがずらりと並べられている。

 色とりどりのテントは冒険者用の小さなものから、旅行客用の大きめのものまで種類豊富だ。

 アキトはまじまじと店内を見つめてから口を開いた。

「え、ここって…テント屋さん…?」
「うん、正解だよ。ここはテントの専門店なんだ」
「…ハル、テント買い替えるの?」

 心底不思議そうに尋ねてくるアキトに、ゆるりと首を振って答える。

「いや、あのテントはまだ買い替える予定はないんだけど…今日は魔物避けの種類をいくつか揃えたいからここに来たんだ」
「え…?俺知らなかったけど、魔物避けにも種類とかあるの?」
「ああ、小型にしか効果の無いものから、中型、大型を対象としたものまで色々あるんだ」

 俺達が普段トライプールの近辺で野宿をする時に使っているのは、中型までが対象の魔物避けだ。そもそもトライプールの近くには大型の魔物は滅多に生息していないから、中型用が一般的だからな。

 まあこの前のクリスとカーディさんの護衛依頼の時は、大型まで対応のを使っていたせいでクリスに揶揄われたんだが。

「実はアキトも何度か大型用のも使った事はあるんだけどね」
「そうなんだ…?」
「これが小型用で、こっちが中型、これは大型に対応してる魔物避けだね」

 一つずつ指差しながら説明すると、アキトはまじまじと三つの束を見比べ始めた。

 これは使われている薬草の種類がいくつか違うだけだから、ぱっと見て判断するのはなかなかに難しい。売ってる側を信じて、何も考えずに使っている冒険者が大半かもしれないんだが、アキトは真剣な表情で見比べている。

 こういう所がアキトの良い所だよなと黙って見守っていると、不意に小さな声でぼそりと呟くのが聞こえた。

「ううー…違いが…分からない…」
「いつか香りで分かるようになるから」

 うん、アキトならきっと嗅ぎ分けられるようになるよ。



 その後も買い物は長々と続いた。

 さすがにアキトも疲れた様子だったが、最後まで文句も言わずに付き合ってくれたおかげで順調に予定は済んだ。

「こんなものかな。もし他にも思いついたらすぐに言うね」

 必要だと思ったものはほとんど全部揃ったと思うんだが、もし買い忘れがあったら明日買わないとな。

 そう思いながら声をかけた俺は、次の予定はとアキトを振り返った。

「買い物はとりあえず終了したし、次はアキトが辺境に行く前に声をかけたいと思う人達に挨拶に行こうか」
「えっと…挨拶?」

 誰に?と続ぎそうなアキトの言葉に、俺はぐるりと周りを見渡してからそっとアキトの耳元に顔を寄せる。気配探知によれば近くには誰もいないんだが、一応警戒はしておきたい。

「俺達の使う移動手段については、あんまり詳しく説明できないんだけどね…?」

 さすがに領主城にある転移の魔法陣を使わせてもらえるから、一瞬で着くんだーと告げることはできない。でも魔法陣を使う事を告げずに、ただ領主様と一緒に移動するんだと告げることはできる。

 情報として知っているやつや、依頼の関係で知っているやつが自分で気づく分には問題無いからな。

 そう匂わせた俺の言葉に、アキトはコクコクと何度も頷いた。ちゃんと覚えてたよと言いたげなアキトの素直な反応が可愛すぎて、思わずそっと頭を撫でてしまった。

「でも領主様と一緒に辺境領に行くんだっていうのは、別に隠さなくても良いんだ」
「へーそうなんだ」
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