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754.【ハル視点】選択肢は二つ
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安心したようにひとつ長い息を吐いたアキトは、じっと俺をみつめながら口を開いた。
「ちなみにハルはさ、領主様の申し出、どう思ってるの?」
ハルの意見も聞いてみたいなと尋ねられて、俺はすぐに答えた。
「うーん、俺達にとっては正直利点しかない申し出だとは思うよ」
所要時間は大幅に短縮されるし、二人だけで移動するよりも各段に安全になるからねと指折り説明すればアキトは納得顔で頷いてくれた。
「そう…だよね」
「でも俺は絶対に魔法陣が良いとは言わないから…あとはアキト次第だね」
顔合わせのためにわざわざ遠方の辺境領まで行くと覚悟を決めてくれただけで、本当に嬉しいんだ。別に移動手段なんて何だって良い。
「俺…次第?」
「うん、アキトが好きな方を選んでくれたら良いよ」
あ、優しいアキトが気にしないようにと、俺は慌てて付け加えた。
「もし同行しないと決めたとしても、両親へは圧力をかけるのを止めろと手紙を出すから、領主様の心配はしなくて良いからね」
二人の仲を深めるために旅行をしながら辺境領に向かうと二人で決めたんだと言いきって、絶対に連れて行くから待っててくれと言えば圧力を止める事はできるだろう。
アキトはぐるぐると色々悩んだようだけど、最終的にはトライプール領主様のご厚意に甘える事に決めてくれた。
その方が絶対に安全だから、俺的には嬉しい選択ではあるな。
話し合いも終わってからしばらく時間が過ぎた頃、領主様はワゴンを押した数人のメイド達を引き連れて部屋へと戻ってきた。
お茶とお菓子の準備だけでこんなに時間がかかるわけがないから、わざとたっぷりと時間をとってくれたんだろうな。
音もたてずに優雅にくるくると動き回るメイド達によって、テーブルの上にはたくさんの菓子が並べられていく。
何も知らないアキトは素直にキラキラと目を輝かせているけど、ずらりと並んだ菓子の種類を見て俺はひっそりと苦笑を洩らした。
入手困難な王都の人気店のプチケーキ、領主様のお気に入りな焼き菓子達、それに辺境領の乾燥果物のスライスまであるな。
アキトが喜んでいるから文句は無いが、これは明らかにアキトのために用意された菓子だな。
そんな豪華なお茶会の用意を終えたメイド達は、優雅に礼をするとするりと部屋から出ていった。
「…さて、決まったかな?」
「はい、魔法陣で移動させて貰いたいです」
俺が即答すれば、領主様はちらりとアキトにも目線を向けた。
「アキトくんもそれで良いんだね?」
「はい、お願いします」
アキトがぺこりと頭を下げれば、領主様は途端にホッとした様子で笑みを浮かべた。
「ああ、これで私も今日の夜は、ゆっくり眠れそうだよ」
あー…睡眠時間まで削られていたのか。申し訳ない気分で、俺は領主様に向き直った。
「…すみません、俺の実家が…いや両親か…?」
「いやいや、遠縁とは言え私の親戚でもあるからね…」
疲れたような表情でそう返した領主様と二人、顔を見合わせて苦笑してしまった。
「それで、いつ出発予定なんでしょうか?」
こちらも予定を立てないと駄目なのでと続けた俺の質問に、領主様はにっこり笑ってあっさりと答えた。
「二日後だよ」
「「二日後…?」」
予想外の日程に、思わずアキトと二人で声を揃えてしまった。
俺達の反応を見た領主様が慌てて説明し始めたんだが、数日前から既に転移魔法陣への魔力補充は始めてもらっていたらしい。アキトと俺が一緒に行くかどうかはまだ分からなかったが、それでも近いうちに辺境領で公務があるのは確定していたかららしい。
ああ、確かにそうなんだが。二日後か。
「無駄にならないから良いかと用意を早めにしていたんだが…まずかったかな?…あ、そんなに早い出発では無理だって言うなら、あと二日ぐらいなら後ろに予定をずらす事もできるよ?」
申し訳なさそうな領主様はそう提案してくれたが、アキトと俺はその申し出は断らさせてもらった。魔法陣を使わせてもらう立場なのに、俺達のために予定を変えて貰うのはさすがに申し訳ない。
だから、出発は二日後だ。
急に決まった顔合わせの日程に、アキトは緊張しているだろうか。恐る恐る視線を向けたアキトは、緊張どころか何故か楽しそうに笑みを浮かべていた。
「アキト、急に日程が決まったけど…動揺とか緊張とか無いの?」
あまりにその反応が不思議で尋ねてみれば、アキトはあまりにあっさりと答えた。
「緊張とかよりもむしろハルが生まれ育った場所をこの目で見れるんだって、ワクワクしてるよ!」
そこでそう言いきれるアキトって、すごいよな。俺は心の底から感心してしまった。
それからはもう、目が回るほどの大忙しだった。
まず初めにしたのは買い出しだ。
辺境は危険が多く、街中ですら絶対に安全とは言いきれない。実際に過去には、街中に普通に魔物が出てきたなんて事もある。
だからそのための用意をする必要があるんだ。俺達は領主城の帰り道に、色んなものを買い足して回った。
「ちなみにハルはさ、領主様の申し出、どう思ってるの?」
ハルの意見も聞いてみたいなと尋ねられて、俺はすぐに答えた。
「うーん、俺達にとっては正直利点しかない申し出だとは思うよ」
所要時間は大幅に短縮されるし、二人だけで移動するよりも各段に安全になるからねと指折り説明すればアキトは納得顔で頷いてくれた。
「そう…だよね」
「でも俺は絶対に魔法陣が良いとは言わないから…あとはアキト次第だね」
顔合わせのためにわざわざ遠方の辺境領まで行くと覚悟を決めてくれただけで、本当に嬉しいんだ。別に移動手段なんて何だって良い。
「俺…次第?」
「うん、アキトが好きな方を選んでくれたら良いよ」
あ、優しいアキトが気にしないようにと、俺は慌てて付け加えた。
「もし同行しないと決めたとしても、両親へは圧力をかけるのを止めろと手紙を出すから、領主様の心配はしなくて良いからね」
二人の仲を深めるために旅行をしながら辺境領に向かうと二人で決めたんだと言いきって、絶対に連れて行くから待っててくれと言えば圧力を止める事はできるだろう。
アキトはぐるぐると色々悩んだようだけど、最終的にはトライプール領主様のご厚意に甘える事に決めてくれた。
その方が絶対に安全だから、俺的には嬉しい選択ではあるな。
話し合いも終わってからしばらく時間が過ぎた頃、領主様はワゴンを押した数人のメイド達を引き連れて部屋へと戻ってきた。
お茶とお菓子の準備だけでこんなに時間がかかるわけがないから、わざとたっぷりと時間をとってくれたんだろうな。
音もたてずに優雅にくるくると動き回るメイド達によって、テーブルの上にはたくさんの菓子が並べられていく。
何も知らないアキトは素直にキラキラと目を輝かせているけど、ずらりと並んだ菓子の種類を見て俺はひっそりと苦笑を洩らした。
入手困難な王都の人気店のプチケーキ、領主様のお気に入りな焼き菓子達、それに辺境領の乾燥果物のスライスまであるな。
アキトが喜んでいるから文句は無いが、これは明らかにアキトのために用意された菓子だな。
そんな豪華なお茶会の用意を終えたメイド達は、優雅に礼をするとするりと部屋から出ていった。
「…さて、決まったかな?」
「はい、魔法陣で移動させて貰いたいです」
俺が即答すれば、領主様はちらりとアキトにも目線を向けた。
「アキトくんもそれで良いんだね?」
「はい、お願いします」
アキトがぺこりと頭を下げれば、領主様は途端にホッとした様子で笑みを浮かべた。
「ああ、これで私も今日の夜は、ゆっくり眠れそうだよ」
あー…睡眠時間まで削られていたのか。申し訳ない気分で、俺は領主様に向き直った。
「…すみません、俺の実家が…いや両親か…?」
「いやいや、遠縁とは言え私の親戚でもあるからね…」
疲れたような表情でそう返した領主様と二人、顔を見合わせて苦笑してしまった。
「それで、いつ出発予定なんでしょうか?」
こちらも予定を立てないと駄目なのでと続けた俺の質問に、領主様はにっこり笑ってあっさりと答えた。
「二日後だよ」
「「二日後…?」」
予想外の日程に、思わずアキトと二人で声を揃えてしまった。
俺達の反応を見た領主様が慌てて説明し始めたんだが、数日前から既に転移魔法陣への魔力補充は始めてもらっていたらしい。アキトと俺が一緒に行くかどうかはまだ分からなかったが、それでも近いうちに辺境領で公務があるのは確定していたかららしい。
ああ、確かにそうなんだが。二日後か。
「無駄にならないから良いかと用意を早めにしていたんだが…まずかったかな?…あ、そんなに早い出発では無理だって言うなら、あと二日ぐらいなら後ろに予定をずらす事もできるよ?」
申し訳なさそうな領主様はそう提案してくれたが、アキトと俺はその申し出は断らさせてもらった。魔法陣を使わせてもらう立場なのに、俺達のために予定を変えて貰うのはさすがに申し訳ない。
だから、出発は二日後だ。
急に決まった顔合わせの日程に、アキトは緊張しているだろうか。恐る恐る視線を向けたアキトは、緊張どころか何故か楽しそうに笑みを浮かべていた。
「アキト、急に日程が決まったけど…動揺とか緊張とか無いの?」
あまりにその反応が不思議で尋ねてみれば、アキトはあまりにあっさりと答えた。
「緊張とかよりもむしろハルが生まれ育った場所をこの目で見れるんだって、ワクワクしてるよ!」
そこでそう言いきれるアキトって、すごいよな。俺は心の底から感心してしまった。
それからはもう、目が回るほどの大忙しだった。
まず初めにしたのは買い出しだ。
辺境は危険が多く、街中ですら絶対に安全とは言いきれない。実際に過去には、街中に普通に魔物が出てきたなんて事もある。
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