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752.四人からの言葉
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ハルはそんな皆の反応を、ちらちらと視線だけを動かしてしっかり確認しているみたいだ。
一般に公開されていないから知ってる人が少ないとは言っても、それでもやっぱり知ってる人は知ってるんだよね。俺の予想だと、それこそ領主様の護衛を頼まれた事がある冒険者とか、こまめに情報収集してる人とか、かな。
たぶんハルは今、誰が知っていて誰が知らないのかを見極めてるんだと思う。
「なあ、予定って言ってたけど、それはもう完全に決まってる計画…なんだよな?」
すこし不安そうに俺とハルを交互に見つめながら尋ねてきたのは、ファリーマさんだ。俺はまだ皆を観察してるだろうハルの邪魔にならないようにと、率先して明るく笑って口を開いた。
「はい!ちゃんと直接トライプール領主様から同行の許可を貰ったので、しっかり確定した予定ですよ!」
「えー!?アキト、領主様に直接会ったの?」
大きく目を見開いてびっくり顔で尋ねてきたブレイズに、コクコクと何度も頷きを返す。
「うん、ハルが領主城に呼び出されてね、俺も連れてきてって言われてたから…直接お会いしたよ」
「へー俺も見かけた事ぐらいはあるけど、直接会って話した事は無いんだー」
いいなー俺も会ってみたいなーとつぶやいたブレイズは、好奇心に目をキラキラさせながらこちらを見つめてきた。
「ね、アキトから見てトライプール領主様って…どんな人?」
「え、えっとねー…すごく優しい人だったよ!」
「へー優秀とか頭が切れるとかはよく聞くけど…」
ブレイズはさらりと領主様の評判を口にすると、でも優しいって感想は初めて聞いたかもしれないと俺に視線を向けた。
「そうなんだ?誘ってくれたのは領主様の方からだったんだけどね、ハルと二人でゆっくり相談できるようにってわざわざ席を外してくれんだ」
しかも二人で相談して良いからねとか、時間をあげるよとか、そういう恩を着せるような事は一切言わなかった。俺達が気にしないようにと、むしろ別の用事を思い出したようなふりをしてまで席を外してくれたんだ。一生懸命になってそう説明すれば、ブレイズだけでなく他の皆もそうなのかと感心顔だ。
「仕事も出来るし気づかいも出来るのか…」
ファリーマさんはどこか嬉しそうな笑顔で呟いた。
「それはすごい人だね」
「ああ、拠点にしている街の領主様が立派な人だっていうのは…なんというか良いもんだな」
穏やかに言い合うブレイズとウォルターさんを、ルセフさんは苦笑しながら見つめている。俺の説明で領主様の事を知ってもらえたなら良かったなと満足していると、不意にハルが俺の手をきゅっと握るとくいっと引っ張った。
「ん?」
「アキトはさ、本当に領主様の事好きになったんだね…」
ぼそりとそう呟いたハルは、少しだけ拗ねたような表情でじっと俺を見てきた。何その顔、可愛い。
「そういう意味じゃないって分かってても、目の前で他の人を褒めちぎられたら…ちょっとぐらいは妬くんだからね?」
複雑な顔でそう説明してくれたハルに、俺は繋がれていた手をぐいっと引っ張って思いっきり抱き着いた。ハルが嫉妬してこんな顔してるんだって理解した瞬間、たまらない気持ちになったんだ。もう今目の前にルセフさん達がいるって事すら、頭から消えちゃってたんだよね。
「ごめんね、ハル。領主様はハルの親戚って思ってるから…どうしてもひいき目で見ちゃうんだ」
たまにハルに似てる瞬間があるから、余計にね。恥ずかしい気持ちをぐっとこらえて、俺は続けた。
「誰を褒めたとしても、俺はいつでもハルが一番だからね!!」
「アキト…っ!」
ぎゅーっと抱きしめ返してくれるハルにホッと息を吐いた瞬間、ウォルターさんの困ったような声が聞こえてきた。
「これ俺達何を見せられてるんだ?」
「嫉妬からの仲直りだろうな」
冷静に分析してそう答えたのは、ファリーマさんだ。
「仲が良くて何よりだよねー」
ブレイズは嬉しそうに、伴侶候補なんだから別にこれぐらい良いじゃないと笑っているみたいだ。
「ああ、そうか。ウェルマール家はトライプール家とは遠縁にあたるのか」
ルセフさんだけは、目の前の出来事よりも今知った情報について分析中みたいだ。
俺はハルに抱きしめられたまま、そんな事をぼんやりと考えていた。
「あー…皆、悪かったな」
「俺もごめんなさい」
我に返った俺とハルは、二人揃って頭を下げていた。ここは皆の家なのに、嫉妬したとかハルが一番だからとか言い合ったり抱きしめ合ったりと、好き放題をした自覚はある。
「いや気にすんな」
「ああ、別に抱き合うぐらいなら良いって」
「うん、むしろ仲良くて良い事だよねー」
「ほら誰も気にしてないから、二人とも顔あげてくれ」
ルセフさんの言葉に恐る恐る顔を上げれば、四人は本当に優しい笑みで俺とハルを見守ってくれていた。
「ハル、アキト。二人の旅の安全を祈ってるよ」
ルセフさんは柔らかい笑顔と共に、そんな言葉を贈ってくれた。
「最強夫婦が相手でもアキトなら問題は無いだろうよ」
笑顔で断言してくれたのは、ウォルターさんだ。
「気をつけて行ってこいよ。あ、もし辺境領で変わった魔法を見かけたりしたら、絶対俺にも教えてくれよー」
楽し気に笑ったファリーマさんは、やっぱりどこまでもファリーマさんだった。呆れるを通り越して感心するぐらいの魔法好きだよね。
「アキト、ハルさん。思いっきり辺境領を楽しんできてね。それで帰ってきたら、また一緒にご飯食べよう!」
ブレイズはにっこりと嬉しそうに笑いながら、約束だよと念を押してきた。
「うん!約束する!」
ーーーーーーーーーーー
昨年は更新にお付き合い頂きありがとうございました。
皆様にとって良い年になりますように。
今年もよろしくお願いいたします。
一般に公開されていないから知ってる人が少ないとは言っても、それでもやっぱり知ってる人は知ってるんだよね。俺の予想だと、それこそ領主様の護衛を頼まれた事がある冒険者とか、こまめに情報収集してる人とか、かな。
たぶんハルは今、誰が知っていて誰が知らないのかを見極めてるんだと思う。
「なあ、予定って言ってたけど、それはもう完全に決まってる計画…なんだよな?」
すこし不安そうに俺とハルを交互に見つめながら尋ねてきたのは、ファリーマさんだ。俺はまだ皆を観察してるだろうハルの邪魔にならないようにと、率先して明るく笑って口を開いた。
「はい!ちゃんと直接トライプール領主様から同行の許可を貰ったので、しっかり確定した予定ですよ!」
「えー!?アキト、領主様に直接会ったの?」
大きく目を見開いてびっくり顔で尋ねてきたブレイズに、コクコクと何度も頷きを返す。
「うん、ハルが領主城に呼び出されてね、俺も連れてきてって言われてたから…直接お会いしたよ」
「へー俺も見かけた事ぐらいはあるけど、直接会って話した事は無いんだー」
いいなー俺も会ってみたいなーとつぶやいたブレイズは、好奇心に目をキラキラさせながらこちらを見つめてきた。
「ね、アキトから見てトライプール領主様って…どんな人?」
「え、えっとねー…すごく優しい人だったよ!」
「へー優秀とか頭が切れるとかはよく聞くけど…」
ブレイズはさらりと領主様の評判を口にすると、でも優しいって感想は初めて聞いたかもしれないと俺に視線を向けた。
「そうなんだ?誘ってくれたのは領主様の方からだったんだけどね、ハルと二人でゆっくり相談できるようにってわざわざ席を外してくれんだ」
しかも二人で相談して良いからねとか、時間をあげるよとか、そういう恩を着せるような事は一切言わなかった。俺達が気にしないようにと、むしろ別の用事を思い出したようなふりをしてまで席を外してくれたんだ。一生懸命になってそう説明すれば、ブレイズだけでなく他の皆もそうなのかと感心顔だ。
「仕事も出来るし気づかいも出来るのか…」
ファリーマさんはどこか嬉しそうな笑顔で呟いた。
「それはすごい人だね」
「ああ、拠点にしている街の領主様が立派な人だっていうのは…なんというか良いもんだな」
穏やかに言い合うブレイズとウォルターさんを、ルセフさんは苦笑しながら見つめている。俺の説明で領主様の事を知ってもらえたなら良かったなと満足していると、不意にハルが俺の手をきゅっと握るとくいっと引っ張った。
「ん?」
「アキトはさ、本当に領主様の事好きになったんだね…」
ぼそりとそう呟いたハルは、少しだけ拗ねたような表情でじっと俺を見てきた。何その顔、可愛い。
「そういう意味じゃないって分かってても、目の前で他の人を褒めちぎられたら…ちょっとぐらいは妬くんだからね?」
複雑な顔でそう説明してくれたハルに、俺は繋がれていた手をぐいっと引っ張って思いっきり抱き着いた。ハルが嫉妬してこんな顔してるんだって理解した瞬間、たまらない気持ちになったんだ。もう今目の前にルセフさん達がいるって事すら、頭から消えちゃってたんだよね。
「ごめんね、ハル。領主様はハルの親戚って思ってるから…どうしてもひいき目で見ちゃうんだ」
たまにハルに似てる瞬間があるから、余計にね。恥ずかしい気持ちをぐっとこらえて、俺は続けた。
「誰を褒めたとしても、俺はいつでもハルが一番だからね!!」
「アキト…っ!」
ぎゅーっと抱きしめ返してくれるハルにホッと息を吐いた瞬間、ウォルターさんの困ったような声が聞こえてきた。
「これ俺達何を見せられてるんだ?」
「嫉妬からの仲直りだろうな」
冷静に分析してそう答えたのは、ファリーマさんだ。
「仲が良くて何よりだよねー」
ブレイズは嬉しそうに、伴侶候補なんだから別にこれぐらい良いじゃないと笑っているみたいだ。
「ああ、そうか。ウェルマール家はトライプール家とは遠縁にあたるのか」
ルセフさんだけは、目の前の出来事よりも今知った情報について分析中みたいだ。
俺はハルに抱きしめられたまま、そんな事をぼんやりと考えていた。
「あー…皆、悪かったな」
「俺もごめんなさい」
我に返った俺とハルは、二人揃って頭を下げていた。ここは皆の家なのに、嫉妬したとかハルが一番だからとか言い合ったり抱きしめ合ったりと、好き放題をした自覚はある。
「いや気にすんな」
「ああ、別に抱き合うぐらいなら良いって」
「うん、むしろ仲良くて良い事だよねー」
「ほら誰も気にしてないから、二人とも顔あげてくれ」
ルセフさんの言葉に恐る恐る顔を上げれば、四人は本当に優しい笑みで俺とハルを見守ってくれていた。
「ハル、アキト。二人の旅の安全を祈ってるよ」
ルセフさんは柔らかい笑顔と共に、そんな言葉を贈ってくれた。
「最強夫婦が相手でもアキトなら問題は無いだろうよ」
笑顔で断言してくれたのは、ウォルターさんだ。
「気をつけて行ってこいよ。あ、もし辺境領で変わった魔法を見かけたりしたら、絶対俺にも教えてくれよー」
楽し気に笑ったファリーマさんは、やっぱりどこまでもファリーマさんだった。呆れるを通り越して感心するぐらいの魔法好きだよね。
「アキト、ハルさん。思いっきり辺境領を楽しんできてね。それで帰ってきたら、また一緒にご飯食べよう!」
ブレイズはにっこりと嬉しそうに笑いながら、約束だよと念を押してきた。
「うん!約束する!」
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昨年は更新にお付き合い頂きありがとうございました。
皆様にとって良い年になりますように。
今年もよろしくお願いいたします。
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