生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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750.ハルの素性

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 本題を忘れていた事に気づいた俺は、焦りながらも魔導収納鞄につっこんでいた手を引き抜いた。狙っていた珍しい果物はちゃんと取り出せたから、使っていなかったお皿の上にどどんと積み上げておこう。

「うわー珍しい果物ばっかり」
「そんなに無造作に積んだら駄目だろうってものばかりだな」
「あー俺これ好きー!」
「うわ。一回ぐらいは食べてみたいと思ってたのも混ざってるな」

 嬉しそうなみんなの声に食べて食べてと勧めてから、俺はひとつ息を吐いた。

「うーん、何のためにここに来たのか、すっかり忘れてたよ…」
「ね、俺も綺麗に忘れてたよ」

 信じられない気分で呟いた俺の言葉に、ハルも苦笑しつつすぐに同意を返してくれた。

 ルセフさんの料理のあまりの美味しさと、皆と色々と話せる楽しさがすごすぎて、本題が飛んでいっちゃってたんだよね。

「そうなのか?俺は食事中だから話題を避けてるんだと思ってたんだが…」

 ルセフさんは摘まんだ果物を口に放り込みながら優しく笑ってくれたけど、俺とハルは顔を見合わせてからすぐに首を振った。俺もハルもただすっかり忘れてただけだ。自分たちから会いに来たのにねと二人で視線を合わせて反省していたら、ウォルターさんが明るく笑いながら口を開いた。

「まあ、そんなに気にしなくて良いだろ」
「そうそう。今から話してくれたら良いだけじゃないか?」

 笑って同意してくれたのは、嬉しそうに桃みたいな果実の皮を剝いているファリーマさんだ。

「うん、そうだよ!…それで、何の話だったの?」

 大きなブルーベリーのような実を片手に持ちながら、ブレイズは興味津々で尋ねてきた。

 みんな優しいなと思いながらちらりとハルを見れば、ハルもくしゃりと嬉しそうに笑みを浮かべていた。ね、みんなの優しさが嬉しいよね。

「アキトと俺はしばらくトライプールを離れる事になったからその報告にな」
「なんだ、そうなのか?」

 ルセフさん以外の三人は律儀にその連絡のために来たのかと納得したみたいだけど、ルセフさんだけは不思議そうに何度か目を瞬いた。少し考えこんだかと思ったら、慎重に俺達の表情を観察しながら低い声で尋ねてきた。

「なあ、ハル、アキト。普通の依頼でトライプールから離れるだけなら、わざわざ直接言いには来ないだろ?一体どこに、何をしに行くんだ?依頼か?任務か?」

 うん、確かにただの依頼でしばらく離れるとかなら、メロウさんとレーブンさんに伝言を残しておけば良いだけだもんね。さすがにルセフさんは鋭いな。

「あー…心配してくれてる所悪いんだが…そんなに深刻な理由じゃないんだ」
「…本当か?」

 まだどこか疑わし気なルセフさんに、ハルはコクリと頷いた。

「行先は辺境領でな、俺の実家に顔を出しに行くんだよ」

 一瞬の沈黙の後、最初に我に返ったのはルセフさんだった。

「そうか!それは大事な用だな。ちなみにそれは…あちらから誘われたのか?」
「ああ、だいぶ前から早く大事な伴侶候補を連れてこいとは言われてたんだが…あの両親だからなぁ…」
「うん、気持ちは分かる…」
「アキト、よく会うって決意したな」

 ルセフさんとウォルターさんは納得顔で頷いているけど、ブレイズとファリーマさんはかなり不思議そうだ。

「え、なんだ、ハルの両親ってそんなにすごい人なのか?」
「伴侶候補の顔合わせって普通じゃない?」
「あー…そうか…ブレイズとファリーマはハルの素性も両親の事も知らなかったのか…これはもしかして、ハル、まずかったか?」

 少し心配そうに尋ねたルセフさんに、ハルはいいやとあっさりと首を振って答えた。

「ここには防音結界がある。それにブレイズとファリーマの事も信頼してるから、何も問題はないさ。俺から話すよ」
「そうか、助かる」
「ん?ハルさんの素性って…?」

 不思議そうに首を傾げたブレイズに、ハルはにっこりと笑って答えた。

「改めて自己紹介すると俺の本名はハロルド・ウェルマールと言うんだ」
「ハロルド…?」
「ウェルマール…?」

 器用にも一つの名前を二人で分けて繰り返したその反応に、俺はすこしだけ笑ってしまった。咄嗟にそれができるなんて、二人とも息ぴったりだね。

「…って…トライプール騎士団の!?」
「ああ」
「あ…あー…毒で寝てたってそういう事か…」

 あ、ファリーマさんはハルとハロルドは繋がってなかったけど、騎士団員が毒で眠っている話しは知ってたんだね。ブレイズもハロルドが騎士団員とは知ってるみたいだ。
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