生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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748.ルセフさんのお仕置き

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 早くハルとアキトを部屋に案内しろと叱るだけ叱って、ルセフさんはすぐにまた厨房へと戻っていった。よくよく見れば片手におたまのような物を持ったままだったから、調理中だったのにこっちの騒ぎが気になって来てくれたらしい。

 ルセフさんの背中をじっと見送っていたウォルターさんとファリーマさんは、ハッと我に返るなり俺とハルに視線を向けた。

「ハル、アキト。案内もせずに盛り上がって、悪かったな」
「俺も、騒いで悪かった」
「いや、別に気にしなくて良いぞ」

 そもそもアキトの浄化魔法がすごすぎるせいだからなと笑うハルは、なぜか上機嫌だ。さっと二人の視線がこちらに向けられたのを感じて、俺はコクコクと頷いた。

 あの二人の反応の激しさにはちょっとびっくりしたけど、俺も全然怒ってないよ。

「二人ともありがとうな。あー…じゃあ案内するな。こっちだ、ついてきてくれ」

 先導するように廊下を歩き出したウォルターさんの背中を追っていると、不意にファリーマさんの怖かったという言葉が後ろから聞こえてきた。

「えールセフさん、別に怖くはないよね」
「ブレイズは気に入られてるからだろう」
「ウォルター兄ちゃんとファリーマさんも、すっごく気に入られてるよ?」

 自信満々でそう断言したブレイズに、ファリーマさんは苦笑しつつ答えている。

「あー…うん、ありがとな?」

 そんな平和なやりとりを流し聞きながら進んでいくと、不意にウォルターさんがドアの前で立ち止まった。

「ここだ」

 そう言いながらさっとドアを開いてくれたんだけど、部屋の中には大きなソファがひとつと、テーブルと椅子がいくつも並んでいた。出窓になっている窓の所には、小さな木彫りや魔石が無造作に並べられている。

 うん、部屋の中はすごく冒険者の家って感じがする。まあ、俺の勝手なイメージだけど。

 ――うーん、俺も冒険者っぽく、黒鷹亭の部屋の窓辺に魔石とか置いてみたいな。ハルと相談して、二人で選んだものを並べてみるのも良いかもしれない。

 そんな事をぼんやりと考えていると、不意にウォルターさんが声をあげた。

「あー、良かったー間に合ったー!」

 え、間に合ったって何に?時間制限があったの?と思わずハルと顔を見合わせてしまったけど、ウォルターさんはお前らも適当に座ってくれよと言い置いて、そのまま近くの椅子にどさりと座り込んでしまった。

「おい、ウォルター。お前、ちゃんと説明しろよ」
「悪い…説明頼んだ」
「まったく…」

 苦笑したファリーマさんは、それでもウォルターさんの代わりに教えてくれた。

 なんでもあんな風に笑顔で怒ってる時のルセフさんは、本気で怒る一歩手前の状態らしい。そしてあのタイミングで本気で怒ったら、まず間違いなくウォルターさんとファリーマさんの食事に影響がでるんだって。

「食事はいらないんだな?って言われる事はあっても、実際に無しにされた事はまあ無いんだけどな…」

 優しいルセフさんだから口ではそう言ってても、実際にはしないんだな。そう勝手に納得してたんだけど、予想外な言葉が続いて思わず噴き出してしまった。

「俺達の嫌いなものがいっぱい出てくるんだ」
「「嫌いなもの」」

 思わずハルと言葉を重ねてしまった。

「ああ、俺は貝類が、ウォルターはスラートが嫌いなんだよ」

 スラートっていうのは、確かピーマンみたいな苦味のある野菜だ。こどもが嫌いな野菜の上位三本に入るって野菜売りの商人さんが言ってて、印象深かったからすごく覚えてる

「一回、本気で怒らせた時があってな…あの時は手を変え品を変え…全部の料理にスラ―トが入ってたんだよ…」

 あれはすごかったとウォルターさんは肩を落としているけど、それって逆にすごく手間暇かかってるよね。スラ―トをどんっと一個出すとかじゃないって事だもんね。

「まあ、俺とウォルターにしかしないんだけどな」
「あれ?ブレイズは…?今まで一度もルセフを怒らせた事が無いのか?」

 それはすごいなとハルがそう尋ねると、ブレイズは満面の笑みを浮かべてブンブンと首を振った。

 あれ、怒らせた事が無いわけじゃないんだ。

「だって俺、食べ物の好き嫌い無いからね!」

 あーなるほど。だから嫌いなものでまとめるって手が使えないのか。

「しかも恐ろしい事に、ちょっとずつ食べれるようになってるんだよ!」

 うーん、ルセフさんは料理上手で頼れるリーダーだと思ってたんだけど、なんだかこどもの好き嫌いに悩んで努力してるお母さんみたいに見えてきたな。

 俺は遠い目をしながら、近くの椅子に腰を下ろした。
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