生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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743.長旅の理由

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「出発前にアキトが挨拶しておきたい人がいるならそこを回ろうか」

 優しい笑顔を浮かべて俺の顔を覗き込みながら、ハルはそう尋ねてくれた。

 うーん、改めてそう言われると、誰に挨拶しにいくかちょっと悩んじゃうな。

 黒鷹亭に泊まらずに遠出する事になるからレーブンさんには確実に報告するんだけど、ローガンさんへの報告ももちろん外せないよね。

 レーブンさんとローガンさんは、なんでだろうって思うぐらい俺の事を可愛がってくれてるからね。ハルと二人揃ってハルの実家にいってきますって報告しないと、きっと無駄に心配をさせてしまうと思う。

 それ以外となると、最初に思い浮かぶのはやっぱりブレイズ達かな。ブレイズにルセフさん、ウォルターさん、それにファリーマさんの四人とは、まだ一緒に依頼を受ける約束も果たせてないからね。それにお互い遠出するときは声をかけるって決めたから、もし本人たちがいなかったとしても報告だけはしておきたい。

 あ、それにカルツさんにも辺境領に行く前に言っておきたいな。カルツさんは幽霊だけど、俺とハルの大事な共通の友人だからね。

「決まった?」
「えっと、レーブンさんと、ローガンさん。それにブレイズ達とカルツさん…かな。あ、メロウさんも!今はこれぐらいしか思い浮かばないんだけど…」
「うん、妥当だと思うよ。冒険者ギルドにも顔を出して報告はしておくつもりだから、メロウにもその時に声をかけようか」

 うんと頷いた俺に、ハルはさらりと続けた。

「長い間トライプールを離れる事になるからね…アキトが行きたい場所があるならそこも寄るよ?」

 長い間トライプールを離れる。

 理由も聞いて理解した今でも、やっぱり反射的になんで?って思っちゃうな。転移魔法陣で一瞬で移動できる筈なのに、長い間トライプールを離れるの?って不思議だよね。

 理由はまあ至って簡単な事だったんだけどね。

 遠方の公務に出た筈の領主様が、わずか数日で戻ってくるのはおかしいでしょう?って言われたんだ。

 うん、そう言われれば、確かにとしか言えないよね。

 魔法陣を使用して遠方へ移動する際には、その辺りのつじつまが合うようにしっかりと考えて予定を組むんだそうだ。移動時間が短い分は、あちらでの滞在時間を伸ばして調整するんだって。

 さっと行ってさっと帰ってきて、あとは領主城から一歩も出ずに誤魔化すっていう方法もあるらしいんだけどね。

 誰かに魔法陣の事がバレるかもしれないと心配しながら領主城にいるより、俺は辺境領にいたいなって言ったらハルは嬉しそうに笑ってくれた。

 だから俺達は、辺境領にはちょっと長めに滞在する予定だ。

「他に寄りたい場所は特に無い…かな。あ、ハルこそ騎士団は良いの?」
「ああ、あっちは顔は出さずに手紙で伝えるから大丈夫だよ」

 どうせ相棒は今の時期は任務中でいないだろうしと、ハルはあっさりとそう続けた。そっか団長さんがいないなら、わざわざ顔は出さなくても良いか。

「よし、じゃあ順番に回ってみようか」



 最初に行ったのは、現在地から一番近かったという理由で冒険者ギルドだった。

「メロウは…いないな」

 受付カウンター内にはいなくても後ろにいたりする事もあるのに、今日はいないようだ。

「いないね。えっと、誰か他の職員さんに伝言を頼む…とか?」
「あー…できなくは無いが…後が怖い」

 え、後が怖い?後が怖いってどういう意味だろう?メロウさんは優しいのに?

 そう考えている間に、ハルはメロウに話しがあるんだがと職員さんに尋ねていた。

 しばらくしてから案内されたのは、ギルドの昇級試験時の嘘発見器を使うあの小さな部屋だった。室内に足を踏み入れれば、小さな机の上には山のような書類が積み上げられていた。

「うわーすごい…」
「ちらかしていてすみません」

 書類の山の中からこちらへ顔を出したメロウさんは、心なしか疲れた顔だ。

「何か…あったのか?」
「いえ、すこし書類の問題が発覚しただけですよ」

 詳しくは説明できませんがと苦笑いを浮かべたメロウさんに、俺もハルもそれ以上尋ねるのはやめた。

「それで、本日は何のご用でしょう?」

 メロウさんはそう言うとふわりと優しく笑ってくれた。メロウさんらしいいつもの笑顔になんだか癒される。

「あの、俺とハル、領主様と一緒に辺境領に行く事が決まったんです」
「おや、領主様と一緒に…ですか」
「はいっ!」
「ご丁寧に報告ありがとうございます。お二人なら問題は無いとは思いますが…辺境領の魔物には油断しないでくださいね」

 突然変異種が混ざっていたりする事もありますからと、メロウさんはそんな忠告をしてくれた。

「はいっ!気をつけます!」
「ああ、分かっている。油断はしない」

 頷いた俺達を見つめて、メロウさんは満足そうに笑ってくれた。

「ではお二人とも、良い旅を。いってらっしゃい」
「いってきます!」
「いってくる」
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