743 / 1,103
742.たくさんの買い出し
しおりを挟む
トライプールの街中を、俺とハルは手を繋いでうろうろと歩き回る事になった。
周りから見ればデート中みたいに見えるのかもしれないけど、そういう甘い雰囲気は一切無かった。ハルが真剣な表情で次はこっち、その次はあっちとてきぱきと案内してくれるからちょっと緊迫感すらあった。
まあ俺はそんな真剣な表情のハルも格好良いって、ちょくちょく見惚れそうになってたんだけどね。我ながらちょっと呆れてしまうぐらいだけど、ハルが格好良すぎるのが悪いんだと開き直りたい。
「あ、アキト、ここも入るよ」
ハルが不意にそう声をあげたのは、大通りに面した一軒の小さな店の前だった。
両隣の店が大きいせいかかなりこじんまりとして見えたけど、ハルが開いてくれたドアからちらりと店の中を覗いてみれば意外にも中は広々としていた。
奥に向かって細長い作りのちょっと面白い店内には、様々なテントがずらりと並べられていた。
色とりどりのテントは冒険者用の小さなものから、旅行客用の大きめのものまで種類豊富に並んでいる、。
「え、ここって…テント屋さん…?」
「うん、正解だよ」
ハルはここはテントの専門店なんだとあっさりとそう教えてくれたけど、俺は不思議に思って尋ねた。
「ハル、テント買い替えるの?」
ハルの持ってるテントはかなり立派な作りだったし、特に古いものって感じもしなかった。それに破れた所なんてのももちろんなかった筈なんだけど?
俺のも買ったばかりだからテントはいらないし。
「いや、あのテントはまだ買い替える予定はないんだけど…今日は魔物避けの種類をいくつか揃えたいからここに来たんだ」
「え…?俺知らなかったけど、魔物避けにも種類とかあるの?」
「ああ、小型にしか効果の無いものから、中型、大型を対象としたものまで色々あるんだ」
俺達が普段トライプールの近辺で野宿をする時に使っているのは、中型までが対象の魔物避けなんだそうだ。そもそもトライプールの近くには大型の魔物は滅多に生息していないから、中型用が一般的なんだって。
「実はアキトは何度か大型用のも使った事はあるんだけどね」
ハルはそう教えてくれたけど、魔物避けにそういう違いがあるって知らなかったから気にした事がなかったな。
「そうなんだ…?」
「これが小型用で、こっちが中型、これは大型に対応してる魔物避けだね」
丁寧に一つずつ指差しながらハルはそう説明してくれるけど、まじまじと観察してみても俺には違いはよく分からなかった。
小さくうなって違いが分からないと呟いた俺に、ハルはいつか香りで分かるようになるからと励ましてくれた。
ハルには俺が買うからここは良いよって言われたけど、俺も大型まで対応の魔物避けをいくつか買ってみた。今度もう持ってる小型と中型用のやつと嗅ぎ比べしてみようと思ってね。
その後も買い物は続いた。
途中からはもう考えるのも面倒になってきて、ハルに勧められるままに色んなものをどんどん買い集めていった。後はこれを全部まとめて魔導収納鞄に詰め込めば、辺境領に行くための荷物の準備は完了だ。
「こんなものかな。もし他にも思いついたらすぐに言うね」
ハルはそう言って笑っていたから、もしかしたらまだ準備完了じゃなくてひと段落なだけなのかもしれないな。
ハルも色々買い込んでいたから、辺境は本当に危険な場所なんだろうなと実感も湧いてきた。辺境領に行ったら、たとえ街中でもちゃんと周りを警戒しておかないとな。
密かにそう決意していると、不意にハルが俺を振り返った。
「買い物はとりあえず終了したし、次はアキトが辺境に行く前に声をかけたいと思う人達に挨拶に行こうか」
やっぱりとりあえず終了なんだ。
「えっと…挨拶?」
ただ繰り返しただけの俺の質問に、ハルはぐるりと周りを見渡してからそっと俺の耳元に顔を寄せた。
「俺達の使う移動手段については、あんまり詳しく説明できないんだけどね…?」
領主城にある転移の魔法陣は一般には秘匿されてるって言ってたなと、俺はコクコクと何度も頷いた。ちゃんと覚えてたよと頷く俺の頭をそっと撫でて、ハルは優しい声で続けた。
「でも領主様と一緒に辺境領に行くんだっていうのは、別に隠さなくても良いんだ」
「へーそうなんだ」
周りから見ればデート中みたいに見えるのかもしれないけど、そういう甘い雰囲気は一切無かった。ハルが真剣な表情で次はこっち、その次はあっちとてきぱきと案内してくれるからちょっと緊迫感すらあった。
まあ俺はそんな真剣な表情のハルも格好良いって、ちょくちょく見惚れそうになってたんだけどね。我ながらちょっと呆れてしまうぐらいだけど、ハルが格好良すぎるのが悪いんだと開き直りたい。
「あ、アキト、ここも入るよ」
ハルが不意にそう声をあげたのは、大通りに面した一軒の小さな店の前だった。
両隣の店が大きいせいかかなりこじんまりとして見えたけど、ハルが開いてくれたドアからちらりと店の中を覗いてみれば意外にも中は広々としていた。
奥に向かって細長い作りのちょっと面白い店内には、様々なテントがずらりと並べられていた。
色とりどりのテントは冒険者用の小さなものから、旅行客用の大きめのものまで種類豊富に並んでいる、。
「え、ここって…テント屋さん…?」
「うん、正解だよ」
ハルはここはテントの専門店なんだとあっさりとそう教えてくれたけど、俺は不思議に思って尋ねた。
「ハル、テント買い替えるの?」
ハルの持ってるテントはかなり立派な作りだったし、特に古いものって感じもしなかった。それに破れた所なんてのももちろんなかった筈なんだけど?
俺のも買ったばかりだからテントはいらないし。
「いや、あのテントはまだ買い替える予定はないんだけど…今日は魔物避けの種類をいくつか揃えたいからここに来たんだ」
「え…?俺知らなかったけど、魔物避けにも種類とかあるの?」
「ああ、小型にしか効果の無いものから、中型、大型を対象としたものまで色々あるんだ」
俺達が普段トライプールの近辺で野宿をする時に使っているのは、中型までが対象の魔物避けなんだそうだ。そもそもトライプールの近くには大型の魔物は滅多に生息していないから、中型用が一般的なんだって。
「実はアキトは何度か大型用のも使った事はあるんだけどね」
ハルはそう教えてくれたけど、魔物避けにそういう違いがあるって知らなかったから気にした事がなかったな。
「そうなんだ…?」
「これが小型用で、こっちが中型、これは大型に対応してる魔物避けだね」
丁寧に一つずつ指差しながらハルはそう説明してくれるけど、まじまじと観察してみても俺には違いはよく分からなかった。
小さくうなって違いが分からないと呟いた俺に、ハルはいつか香りで分かるようになるからと励ましてくれた。
ハルには俺が買うからここは良いよって言われたけど、俺も大型まで対応の魔物避けをいくつか買ってみた。今度もう持ってる小型と中型用のやつと嗅ぎ比べしてみようと思ってね。
その後も買い物は続いた。
途中からはもう考えるのも面倒になってきて、ハルに勧められるままに色んなものをどんどん買い集めていった。後はこれを全部まとめて魔導収納鞄に詰め込めば、辺境領に行くための荷物の準備は完了だ。
「こんなものかな。もし他にも思いついたらすぐに言うね」
ハルはそう言って笑っていたから、もしかしたらまだ準備完了じゃなくてひと段落なだけなのかもしれないな。
ハルも色々買い込んでいたから、辺境は本当に危険な場所なんだろうなと実感も湧いてきた。辺境領に行ったら、たとえ街中でもちゃんと周りを警戒しておかないとな。
密かにそう決意していると、不意にハルが俺を振り返った。
「買い物はとりあえず終了したし、次はアキトが辺境に行く前に声をかけたいと思う人達に挨拶に行こうか」
やっぱりとりあえず終了なんだ。
「えっと…挨拶?」
ただ繰り返しただけの俺の質問に、ハルはぐるりと周りを見渡してからそっと俺の耳元に顔を寄せた。
「俺達の使う移動手段については、あんまり詳しく説明できないんだけどね…?」
領主城にある転移の魔法陣は一般には秘匿されてるって言ってたなと、俺はコクコクと何度も頷いた。ちゃんと覚えてたよと頷く俺の頭をそっと撫でて、ハルは優しい声で続けた。
「でも領主様と一緒に辺境領に行くんだっていうのは、別に隠さなくても良いんだ」
「へーそうなんだ」
154
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる