742 / 1,103
741.出発予定は
しおりを挟む
「ちなみにハルはさ、領主様の申し出、どう思ってるの?」
ハルの意見も聞いてみたいなと尋ねてみれば、ハルは困り顔で答えた。
「うーん、俺達にとっては正直利点しかない申し出だとは思うよ」
所要時間は大幅に短縮されるし、二人だけで移動するよりも各段に安全になるからねとハルは続ける。
「そう…だよね」
「でも俺は絶対に魔法陣が良いとは言わないから…あとはアキト次第だね」
「俺…次第?」
「うん、アキトが好きな方を選んでくれたら良いよ」
もし同行しないと決めたとしても、両親へは圧力をかけるのを止めろと手紙を出すから、領主様の心配はしなくて良いからねとハルは続けた。
最終的に、俺達はトライプール領主様のご厚意に甘える事に決めた。
移動時間が短縮されるのは、やっぱり有難いもんね。
話し合いも終わってからしばらく過ぎた頃、領主様はワゴンを押した数人のメイドさん達を引き連れて部屋へと戻ってきた。
お茶とお菓子の準備だけでこんなに時間がかかるわけがないから、きっとわざとたっぷりと時間をとってから戻ってきてくれたんだと思う。本当に気づかいのできる優しい人だ。
音もたてずに優雅にくるくると動き回るメイドさん達によって、テーブルの上にはたくさんのお菓子が並べられた。基本的には一口で食べられるぐらい小さなケーキや、焼き菓子が多かったけど、乾燥させた果物のスライスもあったよ。
豪華なお茶会の用意を終えたメイドさん達は、これまた優雅に部屋から出ていった。
「…さて、決まったかな?」
「はい、魔法陣で移動させて貰いたいです」
ハルが即答すれば、領主様はちらりと俺にも目線を向けた。
「アキトくんもそれで良いんだね?」
「はい、お願いします」
ぺこりと頭を下げれば、領主様は途端にホッとした様子で笑みを浮かべた。
「ああ、これで私も今日の夜は、ゆっくり眠れそうだよ」
「…すみません、俺の実家が…いや両親か…?」
「いやいや、遠縁とは言え私の親戚でもあるからね…」
疲れたような表情なのにどこか楽し気に言い合うハルと領主様の息の合ったやりとりを、俺は微笑みながら見守った。
「それで、いつ出発予定なんでしょうか?」
こちらも予定を立てないと駄目なのでと続けたハルの質問に、領主様はにっこり笑ってあっさりと答えた。
「二日後だよ」
「「二日後…?」」
思わずハルと二人で声を揃えちゃったよね。
俺達の反応を見た領主様が慌てて説明してくれたんだけど、なんでも数日前から既に転移魔法陣への魔力補充は始めてもらっていたらしい。俺とハルが一緒に行くかどうかはまだ分からなかったけど、近いうちに辺境領で公務があるのは確定していたからだって。
「無駄にならないから良いかと用意を早めにしていたんだが…まずかったかな?…あ、そんなに早い出発では無理だって言うなら、あと二日ぐらいなら後ろに予定をずらす事もできるよ?」
優しい領主様はそう言ってくれたけど、俺とハルはその申し出は断らさせてもらった。魔法陣なんて便利なものを使わせてもらうんだから、俺達のために予定を変えて貰うのはさすがに申し訳ないからね。
だから、出発は二日後。
つまりハルの家族との対面もいきなり二日後に決まったわけだけど、俺も自分でもちょっと不思議なほど落ち着いていた。
ハルの家族だから信頼できる相手だと思えるっていうのもあるし、それにハルと一緒に会いにいくから――かな。
緊張とかよりもむしろハルが生まれ育った場所をこの目で見れるんだって、ワクワクしているぐらいだ。
まあそれを素直にハルと領主様に言ったら、またまじまじと見つめられちゃったんだけどね。
俺そんなに変な事言ったかな?
それからはもう、目が回るほどの大忙しだった。
まず初めにしたのは買い出しだ。
辺境は危険が多く、街中ですら絶対に安全とは言いきれない。実際に過去には、街中に普通に魔物が出てきたなんて事もあるんだって。
だからそのための用意をしなきゃねと笑ったハルと、領主城の帰り道に色んなものの買い出しに行ったんだ。
ハルは相変わらずの豊富な知識量で、たくさんの助言を俺にくれた。
そっちの虫よけの魔法薬より、こっちの方が気候に合ってるからお勧めとか、植物用の採取袋は辺境ではどうしても手に入りにくいから、多めに買っていこうとかね。
地元の人じゃないと思いつかない視点の情報は、めちゃくちゃありがたかった。
ハルの意見も聞いてみたいなと尋ねてみれば、ハルは困り顔で答えた。
「うーん、俺達にとっては正直利点しかない申し出だとは思うよ」
所要時間は大幅に短縮されるし、二人だけで移動するよりも各段に安全になるからねとハルは続ける。
「そう…だよね」
「でも俺は絶対に魔法陣が良いとは言わないから…あとはアキト次第だね」
「俺…次第?」
「うん、アキトが好きな方を選んでくれたら良いよ」
もし同行しないと決めたとしても、両親へは圧力をかけるのを止めろと手紙を出すから、領主様の心配はしなくて良いからねとハルは続けた。
最終的に、俺達はトライプール領主様のご厚意に甘える事に決めた。
移動時間が短縮されるのは、やっぱり有難いもんね。
話し合いも終わってからしばらく過ぎた頃、領主様はワゴンを押した数人のメイドさん達を引き連れて部屋へと戻ってきた。
お茶とお菓子の準備だけでこんなに時間がかかるわけがないから、きっとわざとたっぷりと時間をとってから戻ってきてくれたんだと思う。本当に気づかいのできる優しい人だ。
音もたてずに優雅にくるくると動き回るメイドさん達によって、テーブルの上にはたくさんのお菓子が並べられた。基本的には一口で食べられるぐらい小さなケーキや、焼き菓子が多かったけど、乾燥させた果物のスライスもあったよ。
豪華なお茶会の用意を終えたメイドさん達は、これまた優雅に部屋から出ていった。
「…さて、決まったかな?」
「はい、魔法陣で移動させて貰いたいです」
ハルが即答すれば、領主様はちらりと俺にも目線を向けた。
「アキトくんもそれで良いんだね?」
「はい、お願いします」
ぺこりと頭を下げれば、領主様は途端にホッとした様子で笑みを浮かべた。
「ああ、これで私も今日の夜は、ゆっくり眠れそうだよ」
「…すみません、俺の実家が…いや両親か…?」
「いやいや、遠縁とは言え私の親戚でもあるからね…」
疲れたような表情なのにどこか楽し気に言い合うハルと領主様の息の合ったやりとりを、俺は微笑みながら見守った。
「それで、いつ出発予定なんでしょうか?」
こちらも予定を立てないと駄目なのでと続けたハルの質問に、領主様はにっこり笑ってあっさりと答えた。
「二日後だよ」
「「二日後…?」」
思わずハルと二人で声を揃えちゃったよね。
俺達の反応を見た領主様が慌てて説明してくれたんだけど、なんでも数日前から既に転移魔法陣への魔力補充は始めてもらっていたらしい。俺とハルが一緒に行くかどうかはまだ分からなかったけど、近いうちに辺境領で公務があるのは確定していたからだって。
「無駄にならないから良いかと用意を早めにしていたんだが…まずかったかな?…あ、そんなに早い出発では無理だって言うなら、あと二日ぐらいなら後ろに予定をずらす事もできるよ?」
優しい領主様はそう言ってくれたけど、俺とハルはその申し出は断らさせてもらった。魔法陣なんて便利なものを使わせてもらうんだから、俺達のために予定を変えて貰うのはさすがに申し訳ないからね。
だから、出発は二日後。
つまりハルの家族との対面もいきなり二日後に決まったわけだけど、俺も自分でもちょっと不思議なほど落ち着いていた。
ハルの家族だから信頼できる相手だと思えるっていうのもあるし、それにハルと一緒に会いにいくから――かな。
緊張とかよりもむしろハルが生まれ育った場所をこの目で見れるんだって、ワクワクしているぐらいだ。
まあそれを素直にハルと領主様に言ったら、またまじまじと見つめられちゃったんだけどね。
俺そんなに変な事言ったかな?
それからはもう、目が回るほどの大忙しだった。
まず初めにしたのは買い出しだ。
辺境は危険が多く、街中ですら絶対に安全とは言いきれない。実際に過去には、街中に普通に魔物が出てきたなんて事もあるんだって。
だからそのための用意をしなきゃねと笑ったハルと、領主城の帰り道に色んなものの買い出しに行ったんだ。
ハルは相変わらずの豊富な知識量で、たくさんの助言を俺にくれた。
そっちの虫よけの魔法薬より、こっちの方が気候に合ってるからお勧めとか、植物用の採取袋は辺境ではどうしても手に入りにくいから、多めに買っていこうとかね。
地元の人じゃないと思いつかない視点の情報は、めちゃくちゃありがたかった。
142
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる