739 / 1,103
738.【ハル視点】アキトから見た辺境領伯
しおりを挟む
大きく目を見開いたまま固まってしまった俺と領主様の反応を不思議そうに見つめると、アキトはゆるりと首を傾げた。
なんでそんな反応をするんだろう?とか考えているんだろうな。
「…アキト、本当に良いの?俺の両親に会ってくれる?」
なんとか我に返った俺は、まず確認するようにそう尋ねた。俺はアキトの両親にご挨拶もできないのに?そう思いながらの質問に、アキトは今回もすぐに頷いてくれた。
「うん。ハルのご家族にも直接会ってご挨拶したいなって思ってたから、むしろ嬉しいよ?」
もしできるならご両親以外の家族――お兄さんとか弟さんとか、皆に会いたいんだけどななんて可愛い事まで呟いている。
他の家族にも会いたいと言ってくれるのは、正直に言えばかなり助かる。
アキトを連れて実家に帰ったら、二人の兄も弟もまず間違いなくアキトに会いに来るだろうからな。例えどんな重要な予定が入っていたとしても、アキトのために嬉々として予定を空ける姿が簡単に想像できてしまう。
それにしても、アキトはこんなにあっさりと俺の両親に会いたいと言ってくれるんだな。尊敬はしているけど会いたくは無いと言われがちな両親なんだがと、思わず苦笑が漏れた。
まあアキトはあの本を愛読書としている上に、読んだ感想がケイリー・ウェルマールさんって格好良い人だねだったからな。アキトらしいと言えばアキトらしいか。
「そうか…アキトは両親にも会いたいって言ってくれるんだな」
そう呟いた俺の後ろから、慌てた様子で心配顔の領主様が顔を出した。いつの間にか領主様も我に返っていたらしい。
「アキト君、私からもいくつか質問をしても良いかい?」
「はい、もちろんです。どうぞ」
何でしょう?と聞く体勢になったアキトに、領主様はどこか不思議そうにしながらも恐る恐る尋ねた。
「アキト君は、もちろんハロルドの両親を…知ってるんだよな?」
「はい、知ってます」
「辺境領伯夫婦を知ってるのに、会いたいと思う…?ハロルド、アキト君には本当にきちんと説明してるんだろうね?」
もし何も知らない子を騙すようにして連れていくのなら許さないよと、視線だけで主張し始めた領主様に俺は苦笑を返した。
「ええ、もちろんきちんと説明はしていますよ。それにアキトの愛読書は、あのケイリー・ウェルマールの冒険ですよ?」
もう何周目かも分からないぐらい、アキトは何度何度もあの本を読み返している。つまり辺境領伯の恐ろしいほどの強さをしっかりと理解している筈だと主張すれば、領主様は信じられないと呟いた。
「ええー…あの本を読んでるのに、よく会いたいと思えたね?…怖いとは思わないのかい?」
「怖いって…誰をですか?」
アキトは不思議そうにそう尋ねる。
「あの辺境領の最強夫婦を、だよ」
あの冒険譚の中には後に辺境領伯の伴侶になる人だと言及こそされてはいないが、実は俺の母親の話も少しだけ混ざっている。おそらくアキトはそれには気づいていないんだろうが、母親の戦闘面での暴走っぷりもしっかり載せられているんだよなぁ。
「???怖くは無いですよ、むしろあの強さには憧れます」
だからこれはおそらく最強夫婦と言うよりも、俺の父である辺境領伯についての感想なんだろうな。
アキトの答えを聞くなり、俺と領主様はパッと顔を見合わせた。今の聞いた?と言いたげな領主様の視線に、聞きましたがアキトは本気ですよと目くばせを返す。
「あの、もしかして…普通は怖がられるんですか?」
しばらく考えこんでいたアキトは、不意にそう尋ねた。領主様は苦笑しながら答える。
「ああ、辺境領は魔物も多くかなり過酷な地だからね。そこを長年治め続けている辺境領伯の最強夫婦は、そのあまりの強さから畏怖される存在でもあるんだ」
しかも君の愛読書だというあの本のせいで、その強さはとにかく広く知られているからねと領主様は続けた。
「領民からは慕われているんだけど、本人を知らずに本だけを読んだ人にはだいたい怖がられるね」
「その怖がるっていうのが、俺にはよく分からないんですけど」
アキトは信底不思議そうに首を傾げてつぶやいた。
きっとアキトからすれば、俺の父親は魔物の多い辺境領のどこまでも頼りになる強い領主なんだろうな。
まだどこか不思議そうな領主様は置いておいて、俺はもう一度だけ確認した。
「えっと…アキト、俺の両親に会うのは嫌じゃないんだよね?」
「うん、むしろ会いたい」
「怖いとは思わないんだよね?」
「うん、憧れの存在かな」
「…ちょっと妬ける…な…」
憧れの存在なのかと思わずぼそりとそう呟いた俺に、アキトは大慌てでぶんぶんと手を振った。
「あ、でもね、ハルが一番格好良いのは、絶対に変わらないからね!」
「言わせたみたいでごめんね…でもありがとう、アキト」
そう言ってくれて嬉しいと笑えば、アキトは目を細めてふにゃりと笑ってくれた。その笑顔も可愛いな。
「はあ、アキト君は本当にハロルドにぴったりの相手だったんだな…」
「ええ、そうでしょう?」
「ハロルドのそんな自慢げな顔が見れるとは、思ってもみなかったよ」
そう言った領主様は、そんな二人に朗報があるよと笑って告げた。
なんでそんな反応をするんだろう?とか考えているんだろうな。
「…アキト、本当に良いの?俺の両親に会ってくれる?」
なんとか我に返った俺は、まず確認するようにそう尋ねた。俺はアキトの両親にご挨拶もできないのに?そう思いながらの質問に、アキトは今回もすぐに頷いてくれた。
「うん。ハルのご家族にも直接会ってご挨拶したいなって思ってたから、むしろ嬉しいよ?」
もしできるならご両親以外の家族――お兄さんとか弟さんとか、皆に会いたいんだけどななんて可愛い事まで呟いている。
他の家族にも会いたいと言ってくれるのは、正直に言えばかなり助かる。
アキトを連れて実家に帰ったら、二人の兄も弟もまず間違いなくアキトに会いに来るだろうからな。例えどんな重要な予定が入っていたとしても、アキトのために嬉々として予定を空ける姿が簡単に想像できてしまう。
それにしても、アキトはこんなにあっさりと俺の両親に会いたいと言ってくれるんだな。尊敬はしているけど会いたくは無いと言われがちな両親なんだがと、思わず苦笑が漏れた。
まあアキトはあの本を愛読書としている上に、読んだ感想がケイリー・ウェルマールさんって格好良い人だねだったからな。アキトらしいと言えばアキトらしいか。
「そうか…アキトは両親にも会いたいって言ってくれるんだな」
そう呟いた俺の後ろから、慌てた様子で心配顔の領主様が顔を出した。いつの間にか領主様も我に返っていたらしい。
「アキト君、私からもいくつか質問をしても良いかい?」
「はい、もちろんです。どうぞ」
何でしょう?と聞く体勢になったアキトに、領主様はどこか不思議そうにしながらも恐る恐る尋ねた。
「アキト君は、もちろんハロルドの両親を…知ってるんだよな?」
「はい、知ってます」
「辺境領伯夫婦を知ってるのに、会いたいと思う…?ハロルド、アキト君には本当にきちんと説明してるんだろうね?」
もし何も知らない子を騙すようにして連れていくのなら許さないよと、視線だけで主張し始めた領主様に俺は苦笑を返した。
「ええ、もちろんきちんと説明はしていますよ。それにアキトの愛読書は、あのケイリー・ウェルマールの冒険ですよ?」
もう何周目かも分からないぐらい、アキトは何度何度もあの本を読み返している。つまり辺境領伯の恐ろしいほどの強さをしっかりと理解している筈だと主張すれば、領主様は信じられないと呟いた。
「ええー…あの本を読んでるのに、よく会いたいと思えたね?…怖いとは思わないのかい?」
「怖いって…誰をですか?」
アキトは不思議そうにそう尋ねる。
「あの辺境領の最強夫婦を、だよ」
あの冒険譚の中には後に辺境領伯の伴侶になる人だと言及こそされてはいないが、実は俺の母親の話も少しだけ混ざっている。おそらくアキトはそれには気づいていないんだろうが、母親の戦闘面での暴走っぷりもしっかり載せられているんだよなぁ。
「???怖くは無いですよ、むしろあの強さには憧れます」
だからこれはおそらく最強夫婦と言うよりも、俺の父である辺境領伯についての感想なんだろうな。
アキトの答えを聞くなり、俺と領主様はパッと顔を見合わせた。今の聞いた?と言いたげな領主様の視線に、聞きましたがアキトは本気ですよと目くばせを返す。
「あの、もしかして…普通は怖がられるんですか?」
しばらく考えこんでいたアキトは、不意にそう尋ねた。領主様は苦笑しながら答える。
「ああ、辺境領は魔物も多くかなり過酷な地だからね。そこを長年治め続けている辺境領伯の最強夫婦は、そのあまりの強さから畏怖される存在でもあるんだ」
しかも君の愛読書だというあの本のせいで、その強さはとにかく広く知られているからねと領主様は続けた。
「領民からは慕われているんだけど、本人を知らずに本だけを読んだ人にはだいたい怖がられるね」
「その怖がるっていうのが、俺にはよく分からないんですけど」
アキトは信底不思議そうに首を傾げてつぶやいた。
きっとアキトからすれば、俺の父親は魔物の多い辺境領のどこまでも頼りになる強い領主なんだろうな。
まだどこか不思議そうな領主様は置いておいて、俺はもう一度だけ確認した。
「えっと…アキト、俺の両親に会うのは嫌じゃないんだよね?」
「うん、むしろ会いたい」
「怖いとは思わないんだよね?」
「うん、憧れの存在かな」
「…ちょっと妬ける…な…」
憧れの存在なのかと思わずぼそりとそう呟いた俺に、アキトは大慌てでぶんぶんと手を振った。
「あ、でもね、ハルが一番格好良いのは、絶対に変わらないからね!」
「言わせたみたいでごめんね…でもありがとう、アキト」
そう言ってくれて嬉しいと笑えば、アキトは目を細めてふにゃりと笑ってくれた。その笑顔も可愛いな。
「はあ、アキト君は本当にハロルドにぴったりの相手だったんだな…」
「ええ、そうでしょう?」
「ハロルドのそんな自慢げな顔が見れるとは、思ってもみなかったよ」
そう言った領主様は、そんな二人に朗報があるよと笑って告げた。
112
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
平凡モブの僕だけが、ヤンキー君の初恋を知っている。
天城
BL
クラスに一人、目立つヤンキー君がいる。名前を浅川一也。校則無視したド派手な金髪に高身長、垂れ目のイケメンヤンキーだ。停学にならないせいで極道の家の子ではとか実は理事長の孫とか財閥の御曹司とか言われてる。
そんな浅川と『親友』なのは平凡な僕。
お互いそれぞれ理由があって、『恋愛とか結婚とか縁遠いところにいたい』と仲良くなったんだけど。
そんな『恋愛機能不全』の僕たちだったのに、浅川は偶然聞いたピアノの演奏で音楽室の『ピアノの君』に興味を持ったようで……?
恋愛に対して消極的な平凡モブらしく、ヤンキー君の初恋を見守るつもりでいたけれど
どうにも胸が騒いで仕方ない。
※青春っぽい学園ボーイズラブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる