生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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729.領主邸…?

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 部屋の鍵をかけて防音結界を作動させると、ハルはふうーと一つ長い息を吐いた。視線はまだ手の中の封筒を見つめている。

「ハル…?」

 まだあまり元気が無さそうなのが気になって、名前を呼びながらそっと抱き着けば、ハルは嬉しそうに笑ってからギュッと抱きしめ返してくれた。

「ああ、心配させてごめんね」
「それは気にしなくて良いんだけど…何か良く無い知らせ?」

 抱き着いたまま恐る恐る尋ねれば、ハルは良く無い知らせってわけじゃないんだけどねと答えてくれた。

「この封筒を使った手紙が来るのは、トライプール領主からの正式な呼び出しだけなんだ」

 へぇ、これは領主様からの呼び出しの手紙だったのか。領主様から呼び出されるってすごい事だと思うんだけど、ハルにとっては遠い親戚にあたるからなのか、至って普通に続けた。

「わざわざ手紙を使って呼ばれる時は、面倒な依頼がある時が多いんだよ」
「面倒って…」

 言って良いの?と思ったけど、ハルはこの部屋の中には俺とアキトだけだから良いんだと苦笑しながら続けた。

「冒険者ギルドを通さずに直接の依頼となると…騎士の仕事の方かもしれない」
「そっか」
「あとは…もう一つの可能性が思い浮かんでるんだけど…」

 ハルはそこで言葉を途切れさせた。

「うん、何?」
「……口にすると本当になりそうだからな」

 だから言わないと続けたハルは、何だかこどもっぽくて可愛い。

「それって、中を見たら依頼の内容とか分かるの?」
「これは呼び出しの手紙ってだけだからね。中には大した事は書いてないんだ」
「そうなんだ」

 俺に抱き着かれたまま、伸ばした手を使ってどうやらハルは手紙を開き始めたらしい。封筒を開けるかすかな音が、背中側から聞こえてくる。

「…うん、やっぱり会いに来て欲しいって書いてあるよ」

 予想通りだけど一切内容には触れてないねと、ハルは苦笑いを浮かべて続けた。

 そっか。ハルは領主様に会いに行かないと駄目なのか。でも、心なしかしょんぼりとしてるハルを一人で行かせたくはないな。

 さっきさらりと口にしてた、もう一つの可能性?も気になるし。

「ハル、それって…俺も一緒に行けたりする?」

 もし無理なら諦めるしかないんだけど、聞くだけは聞いてみよう。無理だったら無理って言ってくれるだろうと尋ねてみれば、ハルは手の中にあった手紙を俺に見えるように大きく開いてくれた。

 上質な紙を使用したその手紙には、見た事もないほど流麗な文字が並んでいる。内容はとざっと目を通してみれば、丁寧な挨拶とトライプール領主の招きに応じて欲しいという要望が書かれていた。

「ここ、見て」

 ハルが指したのは手紙の最後の方の一文だった。

「ここに、もし可能ならハロルドの伴侶候補殿も連れてきて欲しいって書いてある」
「あ、本当だ。じゃあ俺も行くよ」

 これで問題は無くなったと笑顔でハルを見上げれば、ハルは俺の思った可能性の方が高くなってると小さく呻いた。



 いつでも都合の良い時で良いからねみたいなことも書いてくれてはいたんだけど、さすがに領主様からの呼び出しを無視して冒険者ギルドの依頼を受ける勇気は俺には無い。

 まだすこし渋っていたハルを引っ張って、俺は領主様の屋敷を目指した。

 辿り着いた丘の上に立っていたのは、それはもう大きな大きな建物だった。いや、これ大きな建物というか城だよね。領主邸じゃなくて領主城だ。

「すごい、綺麗だけど…入り難い…」

 思わずそう呟いた俺に、ハルは嬉しそうにじゃあ帰ろうかと提案してくる。なんでそんなに行きたくないんだろ。

「駄目。ほら行くよ」

 領主城の入口にある門は、物々しい装備をした強そうな警備の人達によって守られていた。まあ領主城なんだから当たり前か。

 ゆっくりと門に近づいていくと、無表情な警備の人達はさっと俺とハルの方を見た。ピリッと緊張感のある空気に、なんだか胸がドキドキしてくる。

「失礼、何のご用でしょうか?」

 表情こそ変わらなかったけれど、警備の人達は想像していたよりも数段穏やかな声でそう尋ねてきた。

「トライプール領主様の招きに応じてやって来た、ハロルドとアキトだ」

 すぐにそう答えたハルの手には、いつの間にか取り出したあの手紙が握られていた。

「お預かりしても?」
「もちろん」

 さっと受け取った手紙と封筒をじっくりと検分すると、警備の人達はこくりと頷きあってから門を開けてくれた。

「こちらで庭を見ながらしばらくお待ちいただけますか?すぐに案内の者が参ります」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」

 俺とハルのお礼の言葉に、少しだけ笑みを浮かべると警備の人達は仕事に戻っていった。
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