上 下
729 / 1,112

728.日常とひとつの手紙

しおりを挟む
 初の護衛依頼も無事に終わって、領都トライプールを拠点として動きまわる俺とハルの日常が帰ってきた。

 二人で手を繋いで一緒にのんびりと街中を歩いてみたり、冒険者ギルドであれこれと依頼を探して達成してみたり、はたまた美味しいお店を探し歩いてみたりもした。

 前と変わったのは、俺にも知り合いが少しずつ増えてきた事かな。

 元々ハルは知り合いが多い人だから街中を歩くとよく声をかけられてたんだけど、最近は俺にも声をかけてくれる人が増えてきたんだよね。

 よく行くお気に入りの屋台の店主さんとか、毎朝前を通る黒鷹亭近くのお店の人とか、あと黒鷹亭の他の宿泊客の冒険者の人とかもだな。

 運が良い日騒動の後で、ちょこっと喋るようになったんだ。

 とはいっても挨拶を交わしたり世間話をする程度の軽いやりとりなんだけど、笑顔で声をかけてくれるのが嬉しい。

 俺もトライプールの街に段々馴染んできたのかな。

 ああ、それと最近何故か友達にもよく会えてる気がする。会う約束とかをしてないのに、ばったり遭遇したりが結構あるんだよね。

 なかでもよく会ってるのはブレイズ達かな。こないだなんて冒険者ギルドの受付で依頼の達成報告をし終えて振り返ったら、俺達のいた受付ブースの列の後ろに並んでたんだ。

 あの時は皆で笑い合って、そのままギルドの酒場で一緒にご飯を食べた。

 クリスさんとカーディのやってるストファー魔道具店には、あれから何度か訪れた。

 不思議な見た目をした珍しい魔道具から、これって異世界の情報を元に作ったやつ?と聞きたくなるような俺にとっては馴染みのあるものまで、色々あって面白いんだ。

 ちなみにクリスさんはまだ火竜の魔石を使った魔道具の開発を続けてるらしくて、なんだか上の空って感じの状態だった。カーディが甲斐甲斐しく世話を焼いてるのが結構新鮮だったな。

 レーブンさんとローガンさんには、相変わらずすごく気にかけてもらっている。

 そろそろ冒険者ランクをもう一つあげようかなんて話しも出始めていた頃、その知らせは唐突にやってきた。



 窓から爽やかな光が差し込んでいる朝の黒鷹亭。自分たちの部屋のドアの前で、さっきからハルは難しい表情で固まっている。

 ハルの視線は、わざわざ部屋まで訪れたレーブンさんが手渡してくれた淡い緑色の封筒に釘付けだ。

「えっと…ハル…大丈夫?」

 そっと後ろから覗き込んでみれば、ハルは困った顔で笑ってみせた。

「…あーうん、ありがとう。大丈夫だよ」

 口ではそう答えてくれるけど、いつもよりも明らかに元気がない。大丈夫な反応じゃないよね、これ。

「あー…まあそうなるだろうなとは思ってたけどな…」

 レーブンさんは苦笑しながらも、何故か納得した様子でそんなハルの反応を見つめている。

「まだ手紙の中身も見てないのに…?」

 手紙の内容を見てから固まるなら、中身が何か大変な事だったのかなーって心配するんだけどさ。ハルが見てるのって、まだ本当に封筒だけなんだよ。中身を見てないのにこんな反応するの?と俺は一人首を傾げた。

「アキト、それは封筒を見ただけで差出人が分かる手紙なんだよ」

 レーブンさんはそう言って封筒を指差した。

「え、封筒だけで差出人が?」

 ハルの手の中にある封筒をじっと観察してみたけど、署名すらされてない。

「レーブンさん、でも署名もないみたいですけど…」
「ああ、この色自体が署名みたいなものだからな」
「色?」

 綺麗な淡い緑色の封筒には、よくよく見れば端の方に白と黄色の見慣れない花の模様が入っている。

「えっと…綺麗な封筒ですね」

 綺麗な模様の入った、高級そうな紙を使った綺麗な封筒だなーぐらいしか感想が出てこない。レーブンさんは俺の返答に楽しそうに笑ってから続けた。

「これはトライプールの領主しか使えない封筒なんだ」
「え、そうなんですか?」

 領主しか使えない封筒とかあるんだ。まじまじと封筒を見つめていると、レーブンさんは苦笑しながらハルに声をかけた。

「おい、ハル。いい加減にアキトに説明してやれよ」

 ハルはハッとした顔で俺とレーブンさんを交互に見つめた。

「ごめんね、アキト。レーブン、ありがとう」
「ああ、俺も不意打ちで出して悪かったな」
「いや、人がいない場所を狙って渡してくれたんだろ」

 そうか、そのために朝から部屋まで来てくれたのか。 

「まあな…後は二人で部屋で話すと良い」

 レーブンさんはそう言うとすぐに部屋から出て行った。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...