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721.【ハル視点】アキト対ボタン

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 面倒な服を選んでしまったと後悔中の俺の前にしゃがみこんでいるアキトは、三つ並んだパンツの前立てにあるボタンをまじまじと観察し始めた。

 きっとどうやって外そうかなとか考えているんだろう。

 見つめられている理由は頭では理解できるんだが、どうしても身体がついてこない。アキトが見つめているのはただのボタンなんだろうけど、俺からしたら股間を見つめられてるように感じるんだ。

 しかも俺は立ったままで、アキトはしゃがんでいるというこの体勢も良くない。

 普段ならそこまで近づかないだろうという距離にアキトの顔があって、しかもあんなに熱心に見つめられたら健康な男なんだから当然だが反応する。

 萎えるような事を考えるという手も残されてはいるが、それに意識を割いた結果、滅多に見れないアキトの姿を見逃すなんて事は絶対に嫌だ。

 うーん、もう勃ってるのは仕方ないか。それよりも目の前のアキトの姿をちゃんと見ていたいからな。

 一瞬でそう開き直った。

 そっと視線を向ければ、アキトは一生懸命に一番上のボタンと格闘している所だった。真剣な表情とすこしぎこちない指の動きが、たまらなく愛おしい。まじまじと見つめている間に、何とか一つ目のボタンを外し終えた。

 残すはあと二つだ。

 面倒な服を選んでしまってごめんねと脳内で謝りながらも、俺は無言のままじっとアキトを見つめていた。

 声をかけてアキトの集中力を壊したくはないからな。俺の視線を感じてはいるんだろうが、こちらを見ようとはしないのも同じ理由だろうか。

 一つ目よりは慣れてきたのか、それとも気持ちが落ち着いたのか、二つ目のボタンはさっきよりも簡単だったみたいだ。

 ボタンが外れた瞬間の、できたと言いたげな満足げなアキトの笑顔が可愛くてたまらない。

 最後のボタンに取り掛かったアキトは、やっぱりどこまでも真剣な表情だった。ああ、その表情も可愛いな。そっと頭を撫でて、頑張ってくれてありがとうと褒めたいな。そんな事を考えながら、俺はじっとアキトの指先を見つめていた。

 全てのボタンを外し終えたアキトは、ふうーと長い息を吐いた。無意識にでたんだろうその息が、アキトの緊張具合を伝えてくる。

 かなり頑張ってくれたんだな。でも、さすがにこれ以上は今日は無理か。俺のために何かをしようという気持ちはもちろん嬉しいんだが、アキトに無理をして欲しいわけじゃないからな。

 動きを止めるべく、俺はそっとアキトの髪に手を差し入れた。咄嗟にああ、やっと触れたなんて思った自分に、思わず苦笑が漏れた。たった三つのボタンを外す間も待てないなんてな。

 くしゃりと撫でるように指を動かせば、アキトはハッとした様子で俺を見上げてきた。

 上目遣いになったアキトは、まだ耳まで真っ赤だ。恥ずかしいと思いながらも頑張ってくれたんだな。

「頑張ってくれてありがとう、アキト」

 俺はそう声をかけながら、アキトの髪に埋めたままになっていた手をゆっくりと動かした。手触りの良い艶やかな髪をくしゃくしゃとかき混ぜるようにして撫でれば、アキトはふわりと嬉しそうに笑みをこぼした。

 ただ撫でただけなのに、こんなに幸せそうな顔をしてくれるのも可愛いな。

「俺が想像してた以上に、大事な人に脱がせてもらうのって嬉しいんだ…ね」

 ただ嬉しいだけじゃない。つたないながらも頑張ってくれている姿を見ていると、愛おしい気持ちがどんどん膨れ上がってきて、自然と笑みが浮かんでしまう。

 たぶん今の俺は、かなり気の緩んだ顔をしてるんだろうな。

 アキトはそんな俺の表情をじっと見つめていたけれど、何も言わずにそのままゆっくりと手を伸ばしてきた。

 アキトはまだ頑張るつもりだったのか。

「まだ脱がせてくれるの?」

 優しくそう尋ねれば、一つ頷いてからアキトはすぐに動き出した。

 ぐいっと俺の履いているパンツを引っ張ったアキトに促されるままに、俺は片足をあげた。するりと脚から抜いていくアキトの動きに、少しだけ違和感を覚えた。

 ボタンを外すのはあんなにぎこちなかったのに、今は何故か落ち着いてるように見える。

 アキトの視線を辿ってみれば、俺の太ももの内側にある古傷をじっと見つめているのに気がついた。

 ああ、なるほど。その傷が気になって、服を脱がす事よりもそっちに意識がいってるのか。ダンジョンで負ったその傷は、もちろん回復はしたんだがポーションが粗悪品だったせいで傷が残ったんだよな。

 見るのが嫌だとかそういう類の視線では無い。むしろ心配そうに見つめられているのが、何だかくすぐったい。

 あとは下着だけという段階になっても、アキトはまだ明らかに気が散ったままだった。何げない様子で俺の下着に手をかけると、そのまますこしの躊躇もなくズルリと引き下げた。

 うーん、予想外だなと考えながら、俺はアキトに笑って声をかけた。 

「あ、下着は普通に脱がせられるんだ?」

 これでアキトが我に返ってくれるかなと期待しての一言だった。
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