生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
711 / 1,179

710.三つのボタン※

しおりを挟む
 これがハルの履いてるパンツのボタンだとはっきりと意識しちゃったら、きっともう動けなくなる。

 そう考えた俺は、視線の先にあるボタンだけをじーっと見つめて作業にとりかかる事に決めた。それが一番良い方法だろうと、ボタンだけを見て必死になって指先を動かした。

 自分が履いてる状態ならあんなに簡単につけたり外したりできるボタンなのに、他の人が着ているのを外すとなると不思議な事に一気に難易度が上がるのはなんでだろう。

 角度が変わるから難しくなるのかな?それとも単純に俺が慣れてないから?あ、でももしかしたらボタンがどうこうとか慣れとかそういう話じゃなくて、俺が緊張してるせいって理由もあり得るかもな。

 そんな事をつらつらと考えて現実逃避をしながらも、なんとか一つ目のボタンを外す事には成功した。

 残すはあと二つだ。

 もたもたと手間取っている俺に、ハルは特に何も言ってはこなかった。黙って俺の好きなようにさせてくれるみたいだけど、痛いほどの視線だけはずっと感じてる。

 しかもハルの視線は明らかに俺の手元とかじゃなくて、俺の顔に固定されてるんだよね。ボタンと格闘してる俺の表情を、無言のままじーっと見つめてるのがよく分かる。

 ただそっちを見る勇気は、いまの俺には無い。

 だってもし今のハルの表情を見ちゃったら、絶対続きをやるどころじゃなくなると思うんだ。きっとハルは色気たっぷりの表情で、俺を見つめてると思うから。きっと色気にあてられてわーってなって、それこそ動けなくなる。

 なんなら、そんなハルの姿を想像しただけでも結構動揺してるぐらいだし。

 視線は気にしない。気にせずに慌てずに一つずつと何度も何度も自分に言い聞かせながら、もう一つのボタンを何とか攻略することに成功した。

 ここまでくれば残りは後一つだけだ。頑張れ、俺。ゴールは近いぞ。

 開いた隙間から見える下着も布地を押し上げている存在も、全て意識しないようにしながらもたもたとボタンを外す。

 よし、全部外せたと思った瞬間、ハルの手が俺の髪をくしゃりと撫でた。

 突然の優しいその触れ方に驚いて、思わず視線をあげてしまった。視界に飛び込んできたのは、俺の想像以上に蕩けた顔をしたハルだった。愛おしいと視線だけで伝えてくるようなそんな目なのに、その奥にはちらちらと欲望の炎が見え隠れてしている。

 それは愛おしさと優しさと荒々しさの混ざった、見惚れてしまうほどの美しい目だった。

「あ…」

 俺が咄嗟に出せたのはそんな言葉にもならない音だけだったけど、ハルはふふと口元を緩めた。

「頑張ってくれてありがとう、アキト」

 そんな言葉と共に、俺の髪に埋まっていた手がまたゆっくりと動きだす。普段のハルは髪の上から撫でてくれる事が多いんだけど、今日はくしゃりくしゃりと髪をかき混ぜるような撫で方だ。

 どんな撫でられ方でも、ハルからされる事なら嬉しいんだけど。

「俺が想像してた以上に、大事な人に脱がせてもらうのって嬉しいんだ…ね」

 そう言ってふにゃりと笑ったハルの柔らかい笑みを見て、俺はもう一度気合を入れなおした。

 ここまで来たんだから、最後までやり遂げるぞとハルの履いたパンツに震える手を伸ばす。この震えは決して怖いとかそういうのじゃなくて、緊張からくるものだ。

「まだ脱がせてくれるの?」

 余裕たっぷりに笑って尋ねてくるハルからそっと視線を反らして、俺は一つ頷いてから動き出した。

 両手でぐいっとハルの履いているパンツをずりおろせば、筋肉に覆われた両脚が一気に露わになった。

 至近距離で目にしたハルの脚は、思わず見惚れてしまうほど綺麗な筋肉に覆われている。しなやかで実用的な、実用的な筋肉に覆われたそんな脚だ。

 普段なら格好良いなとか、俺もこんな脚になりたいなとか思うんだけど、今日はすこし違っていた。

 いつもとは視点が違うからか、太ももの内側辺りにうっすらと引きつれたような傷跡があるのに気が付いてしまった。

 騎士兼、冒険者という職業柄なのか、それとも魔物や危険の多いこの世界では普通の事なのかまでは分からないけど、ハルの上半身には結構色んな所に傷がある。

 ハルが今まで生き抜いてきた証みたいなものだから、痛くないのかなと気にはなったけど嫌だと思った事は無い。

 ただパッと見た感じ下半身には傷が無いんだと思ってたから、ちょっとだけ驚いてしまった。まじまじと至近距離で脚を観察する事なんてそうそう無いもんな。

 パンツの次はこれだよねと無意識のうちに下着に手を伸ばした俺は、その傷がなんとなく気になって仕方がなかった。

「あ、下着は普通に脱がせられるんだ?」

 そんなハルの予想外だと言いたげな感想を聞いてから、ハルの服を全部脱がせられたんだとやっと気づいたぐらいの気の散り方だった。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...