上 下
711 / 1,112

710.三つのボタン※

しおりを挟む
 これがハルの履いてるパンツのボタンだとはっきりと意識しちゃったら、きっともう動けなくなる。

 そう考えた俺は、視線の先にあるボタンだけをじーっと見つめて作業にとりかかる事に決めた。それが一番良い方法だろうと、ボタンだけを見て必死になって指先を動かした。

 自分が履いてる状態ならあんなに簡単につけたり外したりできるボタンなのに、他の人が着ているのを外すとなると不思議な事に一気に難易度が上がるのはなんでだろう。

 角度が変わるから難しくなるのかな?それとも単純に俺が慣れてないから?あ、でももしかしたらボタンがどうこうとか慣れとかそういう話じゃなくて、俺が緊張してるせいって理由もあり得るかもな。

 そんな事をつらつらと考えて現実逃避をしながらも、なんとか一つ目のボタンを外す事には成功した。

 残すはあと二つだ。

 もたもたと手間取っている俺に、ハルは特に何も言ってはこなかった。黙って俺の好きなようにさせてくれるみたいだけど、痛いほどの視線だけはずっと感じてる。

 しかもハルの視線は明らかに俺の手元とかじゃなくて、俺の顔に固定されてるんだよね。ボタンと格闘してる俺の表情を、無言のままじーっと見つめてるのがよく分かる。

 ただそっちを見る勇気は、いまの俺には無い。

 だってもし今のハルの表情を見ちゃったら、絶対続きをやるどころじゃなくなると思うんだ。きっとハルは色気たっぷりの表情で、俺を見つめてると思うから。きっと色気にあてられてわーってなって、それこそ動けなくなる。

 なんなら、そんなハルの姿を想像しただけでも結構動揺してるぐらいだし。

 視線は気にしない。気にせずに慌てずに一つずつと何度も何度も自分に言い聞かせながら、もう一つのボタンを何とか攻略することに成功した。

 ここまでくれば残りは後一つだけだ。頑張れ、俺。ゴールは近いぞ。

 開いた隙間から見える下着も布地を押し上げている存在も、全て意識しないようにしながらもたもたとボタンを外す。

 よし、全部外せたと思った瞬間、ハルの手が俺の髪をくしゃりと撫でた。

 突然の優しいその触れ方に驚いて、思わず視線をあげてしまった。視界に飛び込んできたのは、俺の想像以上に蕩けた顔をしたハルだった。愛おしいと視線だけで伝えてくるようなそんな目なのに、その奥にはちらちらと欲望の炎が見え隠れてしている。

 それは愛おしさと優しさと荒々しさの混ざった、見惚れてしまうほどの美しい目だった。

「あ…」

 俺が咄嗟に出せたのはそんな言葉にもならない音だけだったけど、ハルはふふと口元を緩めた。

「頑張ってくれてありがとう、アキト」

 そんな言葉と共に、俺の髪に埋まっていた手がまたゆっくりと動きだす。普段のハルは髪の上から撫でてくれる事が多いんだけど、今日はくしゃりくしゃりと髪をかき混ぜるような撫で方だ。

 どんな撫でられ方でも、ハルからされる事なら嬉しいんだけど。

「俺が想像してた以上に、大事な人に脱がせてもらうのって嬉しいんだ…ね」

 そう言ってふにゃりと笑ったハルの柔らかい笑みを見て、俺はもう一度気合を入れなおした。

 ここまで来たんだから、最後までやり遂げるぞとハルの履いたパンツに震える手を伸ばす。この震えは決して怖いとかそういうのじゃなくて、緊張からくるものだ。

「まだ脱がせてくれるの?」

 余裕たっぷりに笑って尋ねてくるハルからそっと視線を反らして、俺は一つ頷いてから動き出した。

 両手でぐいっとハルの履いているパンツをずりおろせば、筋肉に覆われた両脚が一気に露わになった。

 至近距離で目にしたハルの脚は、思わず見惚れてしまうほど綺麗な筋肉に覆われている。しなやかで実用的な、実用的な筋肉に覆われたそんな脚だ。

 普段なら格好良いなとか、俺もこんな脚になりたいなとか思うんだけど、今日はすこし違っていた。

 いつもとは視点が違うからか、太ももの内側辺りにうっすらと引きつれたような傷跡があるのに気が付いてしまった。

 騎士兼、冒険者という職業柄なのか、それとも魔物や危険の多いこの世界では普通の事なのかまでは分からないけど、ハルの上半身には結構色んな所に傷がある。

 ハルが今まで生き抜いてきた証みたいなものだから、痛くないのかなと気にはなったけど嫌だと思った事は無い。

 ただパッと見た感じ下半身には傷が無いんだと思ってたから、ちょっとだけ驚いてしまった。まじまじと至近距離で脚を観察する事なんてそうそう無いもんな。

 パンツの次はこれだよねと無意識のうちに下着に手を伸ばした俺は、その傷がなんとなく気になって仕方がなかった。

「あ、下着は普通に脱がせられるんだ?」

 そんなハルの予想外だと言いたげな感想を聞いてから、ハルの服を全部脱がせられたんだとやっと気づいたぐらいの気の散り方だった。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...