生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
710 / 1,179

709.アキトの努力※

しおりを挟む
 ついさっきまで俺はストリップを続けるハルから、視線を反らす事もできなかった。まるで魅入られたように固まったまま、するすると流れるように動いていく器用な指先を、ただじっと見つめている事しかできずにいた。

 俺はぎゅっと握りしめた拳に力を入れた。

「ハル」

 あ、やっと普通に声が出せたと、俺は嬉しくなって続けた。

「ハル…ごめんちょっと待って」

 そう声をかければ、ハルの手はそこでぴたりと動きを止めてくれた。良かった、止まってくれた。

「もしかして…アキトは楽しくなかった?」

 明らかに残念そうな顔をしながらしょんぼりと肩を落としたハルを見ていると、なんだか止めてしまった事が申し訳なくなってくる。

 でもごめん。本当にちょっとだけ待って欲しい。

 俺はハルの質問にゆるりと首を振ってから答える。

「えっと…正直に言えば楽しかったよ。確かに、その…予想以上に…楽しかった…です」

 答える俺の声はどんどん小さくなっていっちゃったけど、ハルの耳には一応ちゃんと届いたみたいだ。パァッと分かりやすく目を輝かせると、ハルは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「それは良かった。それなら最後まで見て欲しかったな」

 ちょっとだけ残念だと悪戯っぽく笑ったハルに、俺は素直にごめんねと返す。

「謝らなくて良いんだよ」
「…ただ、えっと…あとはせっかくだし、俺が脱がせたいなーって」
「えっ!?」

 大きく目を見開いたまま固まったハルが不意にあげた大きな声に、驚いて身体が揺れてしまった。

「その、思ったんだけど…」

 そんな風に言葉を続けながらも、固まってしまったハルの反応に少しだけ不安に思った。

――あれ、もしかしてこの反応は…本気で嫌がってるやつじゃないのかな。

 一応、俺が突然こんな事を言い出したのには、ちゃんと理由があった。

 最初にハルとそういう事をした時だ。ハルから俺に服を脱がせて欲しいって、お願いされた事があったんだよね。

 その時は上半身だけは頑張って脱がせたんだけど、下半身は恥ずかしすぎるからって『まだ無理』だって断ったんだ。

 実際あの時は既に俺の許容量オーバーでいっぱいいっぱいだったから、もし無理に脱がせてたとしたら、それ以上の事は何もできずに倒れてたかもしれなかったんだ。

 だからあれは仕方なかったと思うんだけどね。

 たださっきハルが下半身の服を脱ごうとしてる所を見てたら、それを不意に思い出しちゃったんだよね。

 だからもしかして今ならいけるかもなんて思いついて、うっかり口にしちゃっただけなんだけど、駄目だったかな。

 正直に言えばハルのストリップをこのまま見てるよりは、俺自身の手で脱がせた方がまだ耐えられるかもなんてそんな事を考えた上での提案だった。

 俺のそんな考えなんて、もしかしてハルにはバレバレだったんだろうか。

「あの…ハルが嫌だったら、もちろん…無理にとは…」

 言わなきゃよかったかなと後悔し始めて何とか逃げ道を作ろうとし始めた頃、ハルはようやく我に返ったらしい。

「ね…アキトが、俺の服を脱がせてくれるの?」
「うん。ハルが嫌じゃない、なら」

 小さな声だったけど何とかそう答えれば、ハルは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「嫌なわけが無いよ!アキトは前に言った約束、ちゃんと覚えててくれたんだね?」

 あ、俺の今は無理発言、ハルもちゃんと覚えてくれてたんだ。いつの間にか約束になってるんだけど、あれは約束だったのかな。

「それじゃあお願い」

 ハルはそう言うとさっと両手を上げた。自分は触らないから頑張ってって意思表示だろうな。

「うん。えっと、じゃあ、し、失礼します?」

 思わず敬語になってそう声をかければ、ハルは楽し気に喉だけで笑った。

 そろーっと近づいていった俺がハルの前にしゃがみこむのを、色気を乗せた目がじっと見つめてくる。

 ここでハルの視線をあまりに意識しちゃったら、絶対に固まって動けなくなるよね。

 そう分かっていたから俺は視線が合わないように気をつけながら、ハルの履いているパンツにすぐに手を伸ばした。

 今日ハルが履いているパンツは、ボタンがいくつも並んでついているタイプみたいだ。ちょっと脱がせにくいやつだけど、ここは頑張るしかないよね。

 俺は気合を入れなおしてから、ボタンの攻略に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...