生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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705.【ハル視点】運が良い日とは

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 アキトと二人で相談した結果、昼食を食べた後は早めに領都トライプールまで帰る事に決まった。

 あまりに楽しそうだったからまだまだ採取したいと断られるかと思いながらの提案だったが、アキトは俺の顔をじっと見てからすぐに頷いてくれた。

「思ったよりもいろいろ採れたね」
「そうだねーハルのおかげだよ」

 色々教えてくれてありがとうと伝えてくるアキトに、俺はそれは違うよと首を振った。

「今日は俺が教えたのよりも、アキトが自分で気づいた素材の方が多いからね」

 これは本当に話だ。俺が教えたのはほんの一部に過ぎない。

「そう、かな…」
「うん、そうだよ。ちゃんと自分で調べて見つけてたし、そういう所、さすがアキトだなって思ってるからね」

 笑みを浮かべながらアキトを褒めれば、アキトは耳まで赤くなって照れ始めた。

 頑張ったよと自慢してくれても良いぐらいの採取っぷりだったが、アキトは相変わらず照れ屋だな。そういう所も可愛いから良いんだが。

 アキトは俺から不自然に視線を反らすと、じっと空を見上げた。恥ずかしさをごまかすための行動だったと思うんだが、どうやらその動きで木々の枝の隙間からすこしだけ青空が覗いているのに気づいたらしい。

「あー、えっと、今日も天気が良くて良かったよねー」

 棒読みでそう告げてくるアキトの可愛さには思わず笑ってしまったが、俺はわざわざそれは照れ隠しかなんて聞いたりしない。ただ笑って答えた。

「そうだね。トライプール領都の辺りは、例年今の時期は特に晴天が多いかな」
「へーそうなんだ。季節的にって事?」
「うん。あとはまあ風の向きにもよるんだけどね」
「風の向きかぁ…」

 そんな事をのんびりと話しつつ森の中を歩いていけば、視界に入ってくる冒険者の数は段々と増えていった。



 入口近くまで辿り着いた俺達は、その場で呆然と立ち尽くしていた。

 元々この辺りは混雑してるのが普通の状態ではあるが、それにしても人が多い。明らかに初心者じゃない冒険者もたくさん混ざっているし、名のある冒険者もちらほらと見える。

 それにさっき通った時よりも、更に人が増えているな。

「なんだろ…なんか、人が増えた…ね?」
「ああ、さすがにこれはちょっと多すぎるな」

 首を傾げた俺の隣を、数人の冒険者達が通り過ぎていく。

「なあ、俺今日ずーっと探してた武器の強化素材手に入れたんだ」
「本当か?俺も依頼の期限ぎりぎりの素材、採取できたんだ」
「え、あの季節外れなのに依頼受けちゃったって焦ってたやつか?」
「そうそう。あの初心者泣かせの依頼な」

 そんな事を話し合う二人は、今日は運が良い日って話本当だったなと嬉しそうに笑い合っている。

 待ってくれ。今日は運が良い日って…何の話だ?

 不思議に思いながらも周りに視線を転じれば、そこには明らかにベテランの冒険者達が話し込んでいた。

「おい、見てくれ!ついに黒曜キノコ手に入れたぞ!」
「はぁっ!?」
「これで金はいらんから黒曜キノコを採って来いって言うあの鍛冶屋に、やっと相手してもらえるっ!さて防具か武器かどっちを作ってもらうか…」

 ああ、たまにいるよなそういう鍛冶屋。

「おい、俺もちょっと奥まで行ってくるわ。運が良い日って本当だったのかよ…」
「ああ、行ってこい」

 ここでも運が良い日という言葉が出てきたな。だから一体何の話だと思ったが、答えは不意に聞こえてきた会話の中にあった。

「気づいたらさ、今日は運が良い日だって話になってるよな…」
「ああ、たぶん最初は…レーブンさんのあの話だよな?」
「だと思う…」
「でも笑顔みてない人も運が良いらしいぞ?」
「何が起きてるのかは分からないけど、この流れには乗るしかないだろう!もう一回奥まで行くぞー!」
「おー!」

 バタバタと奥を目指して駆けていく朝も見かけた気がする冒険者の一団を見送って、アキトと俺は顔を見合わせた。

「運が良い日」

 ぼそりとアキトが呟いた。

「レーブン」

 俺も同じくぽつりと小声で返す。

「笑顔」

 アキトは真剣な表情でそう言った。

 あーもうだめだ。俺達は二人揃って、ブハッと笑ってしまった。

「これなら、すくなくともレーブンが責められる事は無さそうだな」

 というかきっかけがレーブンな事も、噂が広まる間に消えてしまったらしい。

「うん、レーブンさんは関係なく、今日は運が良い日って事になってるみたいだしね」
「一番領都から近いから、噂を確かめに人が集まってるんだろうな」

 だから人が多いのかと、ようやく納得ができた。

 それなら問題は無いなと、俺達は軽い足取りでトライプールを目指して歩き出した。
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