生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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703.【ハル視点】久しぶりの

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 サァァッと森の中を吹き抜けた風に煽られて、木々はサワサワと音を立てながら揺れている。遠くから聞こえてくる虫の声や、鳥や動物の鳴き声を聞きながら、アキトと俺は木漏れ日の中をゆっくりと進んでいく。

 いま俺達が歩いているのは、トライプール領都にほど近いキニーアの森の中だ。

 キニーアの森はトライプールから一番近い採取地であり、冒険者の中でも特に初心者がよく利用する場所だ。奥へ奥へと進めば採取や対処が面倒な素材や魔物が出てくる事もあるが、浅い場所なら危険はそう多くは無い。

 またこの森には何故か地味な色合いの木の実や果物ばかりがなるのも、特徴の一つだ。人によっては地味で暗い森だと言われる場所なんだが、アキトにとってそれがひどく落ち着くらしい。

 アキトの世界の果物や木の実は地味なものが多いと話してくれた事があるから、おそらくそのせいなんだろうな。

 嬉しそうに木漏れ日を見上げながらうっすらと笑みを浮かべているアキトの表情を盗み見ていると、自然と俺も笑顔になってしまう。

 キニーアの森の難点としては、とにかく人が多い事だ。今も周りを見渡せば、たくさんの冒険者達の姿が目に飛び込んでくる。

 まだまだ初心者なのか何故か採取場についてか持ち物の確認をしている奴ら、図鑑を片手に必死になって素材を探している奴らや、一人で木の根元を見て回っている奴まで様々な冒険者がいるみたいだ。

「ハル、今日もまっすぐ奥に行くで良いのかな?」

 アキトの質問に、俺はすぐに頷いた。

「ああ、そうしようか」

 今日の俺達は、これという依頼は特に受けずにここまで来ている。

 俺基準のアキトが無理をしないちょうど良い依頼が、残念ながらもう無かったせいだ。

 事前にもし無かったら諦めるなんて約束もしてはいたわけだが、あんなにしょんぼりとしているアキト相手に、無かったから帰ろうなんて言えるわけがない。

 だから採取地に行こうかと提案したのは俺からだった。

 先に気になった素材を採取してから、後で買取に出すという何度かやったやり方だ。ある程度今の時期や最近の天候によって必要な素材の目星はつけられるが、実際に買取をしてもらえるかどうかは運まかせにはなる。

 まあ、急いで金が必要な事があるわけでも無いし、ギルドカードにはかなりの額が貯まっているから問題は無いだろう。 

「ああ、ここまで来れば、だいぶ人も減ってくるね」

 俺はそう言うとくるりとアキトを振り返った。まだ人の姿はあるが、入口すぐの場所ほどの人口密度じゃない。

「うん。久しぶりに来たけどやっぱり入口近くは混んでるんだね」
「今日は普段よりもさらに人が多かった気がするな…」

 何かあったのか?少し気にしておくかと考えながら感想を口にすれば、アキトもすぐにコクコクと頷いてくれた。

「あ、確かに前より多かったかも」

 そんな事を話しながら、俺達は更に奥を目指してのんびりと木々の間を進んでいった。



「アキト、この辺りで良いと思うよ」

 そう俺が声をあげたのは、入口からはかなり距離のある森の最奥に辿り着いてからだった。ここまでくれば人の姿もほとんど無い。今日は魔物の気配も無いようだから、ゆっくりと採取に励めるだろう。

「それじゃあ採取の準備するから、ハルはちょっとだけ待っててね」

 アキトはそう言うなり、すぐに魔導収納鞄から自分の図鑑と書き込むための魔道具のペンを取り出した。

 そのまま流れるように採取用の手袋や小袋もすぐに取り出せるよう準備をしたアキトは、最後にもう一度持ち物を確認してからパッと俺を振り返った。

「おまたせ、ハル。準備できたよ」
「いや、そんなに待ってないよ。準備、早くなったね」
「先生が良いからね」

 へへと笑って俺を見上げてくるアキトの可愛さに、胸が甘く締め付けられる。先生と言うのは俺の事なんだろうな。照れくさいけれど、同時に嬉しくもある。きっと今の俺はしまりのない顔をしてるんだろうな。

「それじゃあ行こうか」
「うん、頑張る!」

 ワクワクした様子のアキトは、真剣な表情で周りを観察し始めた。

「あ、あれってポルの実…じゃない?」

 すぐに何かに気づいたらしいアキトはそう言いながら、さっと森の中を指差した。

「え、どこ?」
「あそこの木の下にある低木の所」

 口ではそんな風に俺に説明しながら、アキトはもう片手で図鑑のページを器用に捲っている。

 アキトの視線の高さに合わせて少し膝を曲げると、確かに低木の所に実がなっているのが見えた。
 
「ああ、うん、正解だね。ポルの実は常時買取されてるからいくつか採取していこうか」
「うん!」
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