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702.【ハル視点】アキトの覚悟
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目に見えて肩を落としたメロウの反応を見ていると、さすがに俺でも申し訳なくは感じる。まさかそんな勘違いをされているとは気づかなかったから、すぐに否定もしてやれなかったしな。
「あー…うん。それは…俺が悪かったな」
思わずそう謝罪の言葉を告げた俺に、メロウはすぐにゆるりと首を振った。
「いえ…勝手に勘違いしたのは私ですから。こちらこそすみません。ファーレスウルフの素材を冒険者ギルドに引き取らせて頂けるなら、それで問題はありません」
そう口にして気持ちを切り替えたのだろう。メロウは、そこでやっと普段通りにすっと背筋を伸ばした。
「では後ほどファーレスウルフを解体所にお願いします」
「ああ、分かった」
落ち着いたら自分のさっきの行動を思い返したのか、少しだけ耳が赤いな。まあ、それをわざわざ言葉にするほど、俺は命知らずじゃない。
「それでは、そろそろ次のお話を始めて良いでしょうか」
メロウの予想外の言葉に思わず首を傾げた。ちらりと隣を見れば、アキトもまったく同じ角度で首を傾げている。
「次の話…?」
護衛依頼の達成報酬と手に入れた素材の引き取りについてのやりとりは、たった今終わったがそれ以外に…?
「他に何かあったか?」
考えてみても答えが出なかったから、素直にそう言葉にして尋ねてみた。
「これは冒険者ギルドの一員としての話というわけではなく、ただの個人的な疑問なんですが、お二人にいくつか質問をしても良いですか?」
「ああ、もちろんだ」
むしろ気になるから早く言ってくれと急かす俺を綺麗に無視して、メロウはアキトに視線を向けた。
「アキトさんもよろしいですか?」
「ええ、何でしょう?」
「お二人は…伴侶候補になったんですか?」
そう言ったメロウは、今はテーブルの下になっていて見えない筈の俺達の腕輪にちらりと視線を向けた。
うん、まあ当然気づいてるよな。情報を集めるのがもはや習性になっているあのメロウが相手なんだから。多分受付の時点でもう気づいていたんだろう。
アキトはきょとんとメロウを見返してから、すぐに満面の笑みで答えた。
「はい!」
そこで嬉しそうにしてくれる事が、俺にとってどれだけ嬉しい事か。アキトはきっと気づいていないんだろうな。
「ああ、伴侶候補になった」
そう言ってアキトと二人で伴侶候補の腕輪を見せれば、メロウはやっぱりそうでしたかとひとつ頷いてから続けた。
「アキトさん、質問しても良いですか?」
「はい、メロウさんの質問なら喜んで」
少しも悩まずに即答したアキトに、メロウは一瞬だけ嬉しそうに笑みを浮かべてから、一転して真剣な表情に変わると口を開いた。
「アキトさんは本当にこの人で良かったんですか?」
ちょっと待て。
「おい、なんて事聞くんだ。やめろ」
慌てて口を挟んだ俺を綺麗に無視して、メロウはさらりと続ける。
「お互いに納得して伴侶候補になったなら、何の問題も無い質問でしょう?」
「いや、まあそうなんだが…」
「アキトさんなら、他にも選択肢はたくさんあったと思うんです」
全くなんて事を聞くんだ。これでアキトが確かにそうだななんて思ったらどうしてくれるんだ。別にアキトがこんな事をきっかけに気を変える奴だと思ってるわけじゃないんだが、それでもやめてほしいと思わずにはいられない。
たしかに…メロウの言う事にも一理はあると思うだけに、嫌だ。
アキトは見た目も綺麗だし、性格も良いし、優しいし可愛いかと思えば、たまに驚くほど格好良くなる。
そんなアキトを好きになる奴なんて、きっと山のようにいる。確かに選択肢なんてたくさんあるよな。
思わず考えこんでしまった俺の隣で、アキトはまっすぐにメロウを見つめて答えた。
「選択肢とかはよく分からないんですけど…俺が、ハルが良いんです。ハルじゃないと駄目なんです」
アキトのその言葉で、胸がいっぱいになってしまった。そうか、アキトは俺が良いんだと、俺じゃないと駄目だと、そう断言してくれるんだな。
大事な人にそこまで言ってもらえるなんて、俺はなんて幸せな男だろう。
幸せを噛み締めていると、メロウは不意にふわりと笑みを浮かべた。さっきまでの固い表情から一転して、それは本当に嬉しそうな笑みだった。
「アキトさん、良い覚悟ですね。伴侶候補おめでとうございます」
「ありがとうございます」
照れくさそうに笑うアキトから俺に視線を向けたメロウは、悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開いた。
「ハルさんも、伴侶候補おめでとうございます」
よくよく考えてみれば、さっきの質問もアキトの答えをある程度予想していたんだろうと落ち着いた今なら分かる。
さっきの仕返しなのか、それとも素材を売ると言った事へのお礼なのか。どちらなのかまでは分からないが、アキトの覚悟をちゃんと知っておけと言いたかったんだろう。
「ああ、ありがとう、メロウ」
「どういたしまして」
「あー…うん。それは…俺が悪かったな」
思わずそう謝罪の言葉を告げた俺に、メロウはすぐにゆるりと首を振った。
「いえ…勝手に勘違いしたのは私ですから。こちらこそすみません。ファーレスウルフの素材を冒険者ギルドに引き取らせて頂けるなら、それで問題はありません」
そう口にして気持ちを切り替えたのだろう。メロウは、そこでやっと普段通りにすっと背筋を伸ばした。
「では後ほどファーレスウルフを解体所にお願いします」
「ああ、分かった」
落ち着いたら自分のさっきの行動を思い返したのか、少しだけ耳が赤いな。まあ、それをわざわざ言葉にするほど、俺は命知らずじゃない。
「それでは、そろそろ次のお話を始めて良いでしょうか」
メロウの予想外の言葉に思わず首を傾げた。ちらりと隣を見れば、アキトもまったく同じ角度で首を傾げている。
「次の話…?」
護衛依頼の達成報酬と手に入れた素材の引き取りについてのやりとりは、たった今終わったがそれ以外に…?
「他に何かあったか?」
考えてみても答えが出なかったから、素直にそう言葉にして尋ねてみた。
「これは冒険者ギルドの一員としての話というわけではなく、ただの個人的な疑問なんですが、お二人にいくつか質問をしても良いですか?」
「ああ、もちろんだ」
むしろ気になるから早く言ってくれと急かす俺を綺麗に無視して、メロウはアキトに視線を向けた。
「アキトさんもよろしいですか?」
「ええ、何でしょう?」
「お二人は…伴侶候補になったんですか?」
そう言ったメロウは、今はテーブルの下になっていて見えない筈の俺達の腕輪にちらりと視線を向けた。
うん、まあ当然気づいてるよな。情報を集めるのがもはや習性になっているあのメロウが相手なんだから。多分受付の時点でもう気づいていたんだろう。
アキトはきょとんとメロウを見返してから、すぐに満面の笑みで答えた。
「はい!」
そこで嬉しそうにしてくれる事が、俺にとってどれだけ嬉しい事か。アキトはきっと気づいていないんだろうな。
「ああ、伴侶候補になった」
そう言ってアキトと二人で伴侶候補の腕輪を見せれば、メロウはやっぱりそうでしたかとひとつ頷いてから続けた。
「アキトさん、質問しても良いですか?」
「はい、メロウさんの質問なら喜んで」
少しも悩まずに即答したアキトに、メロウは一瞬だけ嬉しそうに笑みを浮かべてから、一転して真剣な表情に変わると口を開いた。
「アキトさんは本当にこの人で良かったんですか?」
ちょっと待て。
「おい、なんて事聞くんだ。やめろ」
慌てて口を挟んだ俺を綺麗に無視して、メロウはさらりと続ける。
「お互いに納得して伴侶候補になったなら、何の問題も無い質問でしょう?」
「いや、まあそうなんだが…」
「アキトさんなら、他にも選択肢はたくさんあったと思うんです」
全くなんて事を聞くんだ。これでアキトが確かにそうだななんて思ったらどうしてくれるんだ。別にアキトがこんな事をきっかけに気を変える奴だと思ってるわけじゃないんだが、それでもやめてほしいと思わずにはいられない。
たしかに…メロウの言う事にも一理はあると思うだけに、嫌だ。
アキトは見た目も綺麗だし、性格も良いし、優しいし可愛いかと思えば、たまに驚くほど格好良くなる。
そんなアキトを好きになる奴なんて、きっと山のようにいる。確かに選択肢なんてたくさんあるよな。
思わず考えこんでしまった俺の隣で、アキトはまっすぐにメロウを見つめて答えた。
「選択肢とかはよく分からないんですけど…俺が、ハルが良いんです。ハルじゃないと駄目なんです」
アキトのその言葉で、胸がいっぱいになってしまった。そうか、アキトは俺が良いんだと、俺じゃないと駄目だと、そう断言してくれるんだな。
大事な人にそこまで言ってもらえるなんて、俺はなんて幸せな男だろう。
幸せを噛み締めていると、メロウは不意にふわりと笑みを浮かべた。さっきまでの固い表情から一転して、それは本当に嬉しそうな笑みだった。
「アキトさん、良い覚悟ですね。伴侶候補おめでとうございます」
「ありがとうございます」
照れくさそうに笑うアキトから俺に視線を向けたメロウは、悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開いた。
「ハルさんも、伴侶候補おめでとうございます」
よくよく考えてみれば、さっきの質問もアキトの答えをある程度予想していたんだろうと落ち着いた今なら分かる。
さっきの仕返しなのか、それとも素材を売ると言った事へのお礼なのか。どちらなのかまでは分からないが、アキトの覚悟をちゃんと知っておけと言いたかったんだろう。
「ああ、ありがとう、メロウ」
「どういたしまして」
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