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701.【ハル視点】メロウのお願い
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護衛依頼の達成報酬精算も、何事もなく無事に終わった。
次は解体所に空きがあるかどうかを確認するべきだろうか。それとも素材の買取は次回に回して、依頼を受けたいと言っていたアキトを優先するべきか。
そんな事を考えていると、不意にメロウは真剣な表情を浮かべて俺達の顔を見た。
「アキトさんとハルさんにお願いしたい事があるんです」
ぴりっと一気に緊張感の走った空気に、アキトはすっと背筋を伸ばした。俺も居住まいを正してから、まっすぐメロウを見返した。
「話は聞こう」
「ありがとうございます。これは決して強制というわけではないんですが――」
張り詰めた空気に、アキトがごくりと喉を鳴らした。こんな張り詰めた空気で切り出される話だからな。緊張するのも当然だろう。見た事の無い程真剣なメロウの顔に、俺もぐっと拳に力を入れた。
さあ、どんな話が飛び出してくるのか。身構えた俺達に告げられたのは、予想外の話だった。
「もしお二人さえ良ければ、今回のファーレスウルフの素材を全て引き取らせてもらえないでしょうか?」
待ってくれ。あれだけ真剣な顔で話す事がそれなのか?
確かにクリスとカーディさんの護衛依頼中にファーレスウルフは倒した。まるっと全てを魔導収納鞄に納めてはいるが…。
ちらりと視線を向ければ、アキトも戸惑った様子でゆるりと首を傾げている。
じっと俺達の顔色を伺いながら答えを待つメロウに、俺ははーと大きく息を吐いた。
「改めて一体何を言うのかと思ったら、そんな事か…」
そういえばまだ冒険者ギルドに買取を頼むとは言ってなかったな。そう軽い気持ちで口にした言葉だったが、メロウは気に入らなかったらしい。
「そんな事とはお言葉ですね。大事な事なんですよ」
「大事なのは分かるんだが…アキトがびっくりしてるだろう?」
なんでそんな話題が出るんだろうと困惑しているアキトを視線だけで示せば、メロウはすぐに申し訳なさそうに表情を歪めた。
「アキトさん、すみません。驚かせてしまいましたね」
「いえ、あの…いつも素材は冒険者ギルドに買い取ってもらうのに、わざわざそんな事を言うのはなんでかなー?とは思いましたが…びっくりしたというよりもただ不思議で」
だから謝らないでくださいと続ければ、メロウは先に説明をすべきでしたねともう一度謝ってから口を開いた。
「ファーレスウルフは木に擬態している事もあって加工しやすい上質な素材なんです。ですから冒険者ギルドではなく、直接職人と取引するという冒険者もいるんですよ」
「え、そうなんですか?」
「うん、あの木に似た質感が家具や防具職人に特に人気なんだよ。ギルドを通さず直接職人に下ろした方が買取額が二倍ぐらいまで高くなる可能性があるから、手間にはなるがそれぞれに売り払うって奴も確かにいるな」
もちろん面倒だからとか、交渉が苦手だからという理由で、職人に下ろしたりしない単純な奴らもいるんだけどねと、俺は笑いながら説明した。
もしくは素材の仲介を請け負う商人を使って売りさばくなんて手もあるんだが、この説明は今は必要ないだろう。
「伝手が無いとうまくいかずに買いたたかれる可能性もありますからね…まあ、ハルさんは伝手なんて山のように持っているでしょうから」
あなたなら高く売り払う事なんて簡単でしょうと、メロウはぼそりと呟いた。まあ、できなくは無いな。
「今回冒険者ギルドで買取りたいと申し出た理由なんですが…」
気を取り直したのか、メロウの説明は続いていく。
「ファーレウスウルフは本来なら群れで動く魔物ですが、今回は単体での出現だったと聞いています」
「ああ、そうだな。ファーレスウルフと戦ってからは警戒して気配探知をずっとしてたが、他にはいなかったと断言できる」
「ハルさんの気配探知は信用できますからね」
まさかそこで俺の能力への誉め言葉が出てくるとは思っていなかったから、思わず照れてしまった。メロウはお世辞で人を褒めたりしないから、俺の事を認めてくれているんだなと分かってしまったからだ。
アキトに微笑ましげに見られるせいで、余計に照れくさくなってくる。
「冒険者ギルドとしては、今回の魔物だけが特別だったのか、それとも全てのファーレスウルフが単体で行動するようになっているのか、きちんと調べたいんです」
まるごと引き取って魔物研究家立ち合いの元で解体したいんだと、メロウはそう続けた。
まあそうだよな。俺もあの魔物が特別なのか、それとも生態が変わったのかは気になっていた。俺の気持ちとしては最初からギルドに買い取って貰うつもりだったんだが…アキトの気持ちも聞いてみないとな。
「…今の話を聞いて、アキトはどう思った?」
「え、俺はギルドに引き取ってもらうで良いと思うよ?ちゃんと調べてもらった方が良いと思うし」
あっさりと頷いてくれたアキトに、俺はホッと息を吐いた。
「そうか。俺も同じ意見だ」
俺達二人の意見が出そろった瞬間、メロウはふうと肩の力を抜いた。
「ありがとうございます。買取額はできるだけ釣りあげますからね」
「それは別にどうでも良いんだが…最初から調査目的でファーレスウルフの買取をしたいって言えば良かっただろう?」
俺達相手なら駆け引きなんていらないと知ってるだろうに、なんであんな言い方をしたんだ?
「最初は、そう切り出そうと思ってたんですが…さっきハルさんが言った言葉できちんと説得しないと駄目かと考えなおしたんですよ」
「俺が…何か言ったか?」
「ファーレスウルフの素材をカウンターで出すつもりは無かったと言ったでしょう?」
俺はその言葉に、ああと一つ頷いた。
「あれは、ただカウンターでって意味だったんだが。なるほどそう受け取ったのか。最初から、直接解体所に持ち込むつもりだっただけだよ」
あっさりとそう答えた俺に、メロウはがっくりと肩を落とした。
次は解体所に空きがあるかどうかを確認するべきだろうか。それとも素材の買取は次回に回して、依頼を受けたいと言っていたアキトを優先するべきか。
そんな事を考えていると、不意にメロウは真剣な表情を浮かべて俺達の顔を見た。
「アキトさんとハルさんにお願いしたい事があるんです」
ぴりっと一気に緊張感の走った空気に、アキトはすっと背筋を伸ばした。俺も居住まいを正してから、まっすぐメロウを見返した。
「話は聞こう」
「ありがとうございます。これは決して強制というわけではないんですが――」
張り詰めた空気に、アキトがごくりと喉を鳴らした。こんな張り詰めた空気で切り出される話だからな。緊張するのも当然だろう。見た事の無い程真剣なメロウの顔に、俺もぐっと拳に力を入れた。
さあ、どんな話が飛び出してくるのか。身構えた俺達に告げられたのは、予想外の話だった。
「もしお二人さえ良ければ、今回のファーレスウルフの素材を全て引き取らせてもらえないでしょうか?」
待ってくれ。あれだけ真剣な顔で話す事がそれなのか?
確かにクリスとカーディさんの護衛依頼中にファーレスウルフは倒した。まるっと全てを魔導収納鞄に納めてはいるが…。
ちらりと視線を向ければ、アキトも戸惑った様子でゆるりと首を傾げている。
じっと俺達の顔色を伺いながら答えを待つメロウに、俺ははーと大きく息を吐いた。
「改めて一体何を言うのかと思ったら、そんな事か…」
そういえばまだ冒険者ギルドに買取を頼むとは言ってなかったな。そう軽い気持ちで口にした言葉だったが、メロウは気に入らなかったらしい。
「そんな事とはお言葉ですね。大事な事なんですよ」
「大事なのは分かるんだが…アキトがびっくりしてるだろう?」
なんでそんな話題が出るんだろうと困惑しているアキトを視線だけで示せば、メロウはすぐに申し訳なさそうに表情を歪めた。
「アキトさん、すみません。驚かせてしまいましたね」
「いえ、あの…いつも素材は冒険者ギルドに買い取ってもらうのに、わざわざそんな事を言うのはなんでかなー?とは思いましたが…びっくりしたというよりもただ不思議で」
だから謝らないでくださいと続ければ、メロウは先に説明をすべきでしたねともう一度謝ってから口を開いた。
「ファーレスウルフは木に擬態している事もあって加工しやすい上質な素材なんです。ですから冒険者ギルドではなく、直接職人と取引するという冒険者もいるんですよ」
「え、そうなんですか?」
「うん、あの木に似た質感が家具や防具職人に特に人気なんだよ。ギルドを通さず直接職人に下ろした方が買取額が二倍ぐらいまで高くなる可能性があるから、手間にはなるがそれぞれに売り払うって奴も確かにいるな」
もちろん面倒だからとか、交渉が苦手だからという理由で、職人に下ろしたりしない単純な奴らもいるんだけどねと、俺は笑いながら説明した。
もしくは素材の仲介を請け負う商人を使って売りさばくなんて手もあるんだが、この説明は今は必要ないだろう。
「伝手が無いとうまくいかずに買いたたかれる可能性もありますからね…まあ、ハルさんは伝手なんて山のように持っているでしょうから」
あなたなら高く売り払う事なんて簡単でしょうと、メロウはぼそりと呟いた。まあ、できなくは無いな。
「今回冒険者ギルドで買取りたいと申し出た理由なんですが…」
気を取り直したのか、メロウの説明は続いていく。
「ファーレウスウルフは本来なら群れで動く魔物ですが、今回は単体での出現だったと聞いています」
「ああ、そうだな。ファーレスウルフと戦ってからは警戒して気配探知をずっとしてたが、他にはいなかったと断言できる」
「ハルさんの気配探知は信用できますからね」
まさかそこで俺の能力への誉め言葉が出てくるとは思っていなかったから、思わず照れてしまった。メロウはお世辞で人を褒めたりしないから、俺の事を認めてくれているんだなと分かってしまったからだ。
アキトに微笑ましげに見られるせいで、余計に照れくさくなってくる。
「冒険者ギルドとしては、今回の魔物だけが特別だったのか、それとも全てのファーレスウルフが単体で行動するようになっているのか、きちんと調べたいんです」
まるごと引き取って魔物研究家立ち合いの元で解体したいんだと、メロウはそう続けた。
まあそうだよな。俺もあの魔物が特別なのか、それとも生態が変わったのかは気になっていた。俺の気持ちとしては最初からギルドに買い取って貰うつもりだったんだが…アキトの気持ちも聞いてみないとな。
「…今の話を聞いて、アキトはどう思った?」
「え、俺はギルドに引き取ってもらうで良いと思うよ?ちゃんと調べてもらった方が良いと思うし」
あっさりと頷いてくれたアキトに、俺はホッと息を吐いた。
「そうか。俺も同じ意見だ」
俺達二人の意見が出そろった瞬間、メロウはふうと肩の力を抜いた。
「ありがとうございます。買取額はできるだけ釣りあげますからね」
「それは別にどうでも良いんだが…最初から調査目的でファーレスウルフの買取をしたいって言えば良かっただろう?」
俺達相手なら駆け引きなんていらないと知ってるだろうに、なんであんな言い方をしたんだ?
「最初は、そう切り出そうと思ってたんですが…さっきハルさんが言った言葉できちんと説得しないと駄目かと考えなおしたんですよ」
「俺が…何か言ったか?」
「ファーレスウルフの素材をカウンターで出すつもりは無かったと言ったでしょう?」
俺はその言葉に、ああと一つ頷いた。
「あれは、ただカウンターでって意味だったんだが。なるほどそう受け取ったのか。最初から、直接解体所に持ち込むつもりだっただけだよ」
あっさりとそう答えた俺に、メロウはがっくりと肩を落とした。
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