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700.【ハル視点】個室での報酬受取
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黙りこんだままま歩き出したメロウの背中を追って、アキトと俺は静かに冒険者ギルド内の廊下を進んでいく。
角を曲がる時や階段を下りる時に、俺達がついてきているかを確認するように、いちいちメロウがちらりと俺達の方に視線を向けてくるのが気になって仕方がない。
そんなにいちいち牽制するような視線を向けなくても、アキトが乗り気な時点で急に帰ろうとしたりはしないんだがな。
そんな事を考えながらメロウの背中を追って歩き続ければ、不意にメロウが足を止めた。どうやら目的地に到着したらしい。
今日俺達が案内されたのは、いつも通り地下にある部屋の中の一室だった。
護衛依頼を受ける時に入った部屋よりは全体的に小さめだが、防音結界はもしかしたらこの部屋の方が質が良いかもしれないな。最新式の魔道具だなとまじまじと鍵を観察している間に、メロウは慣れた様子で防音結界を発動した。
メロウはそこまでして肩の力を抜くと、立ち尽くしていた俺達にちらりと視線を向けた。
「もう話して頂いて大丈夫ですよ」
「やっぱりわざと話をしないようにしてたのか?」
俺に対してはともかく、あんなに寂しそうな顔をしたアキトを見ても話しかけてこなかったんだからきっとそうなんだろう。俺の中では確信があったが、まだすこし寂し気なアキトに聞かせるためにあえて言葉にして尋ねた。
「ええ、まあ」
当然だがメロウは、俺の質問の意図に気づいているだろう。あっさりと俺の質問に頷くと、一転して柔らかい笑みを浮かべた。アキトを安心させるための笑顔…だな。
「アキトさん、ハルさん。どうぞそちら側へ腰かけてください」
促されるままに、アキトは室内にあった唯一のテーブルの椅子へと腰を下ろした。すぐに隣に並んで座った俺とアキトの向かい側に、メロウもそっと腰を下ろす。
「何かあったか?」
何もなければ、説明もなくこんな防音結界が張れる部屋につれてこないだろう。そう思いながら尋ねれば、メロウはゆるりと首を振って答えた。
「いえ、ハルさんが心配するような意味での『何か』は特にありませんね」
街に入り込んでいた盗賊達も捕まったそうですしと、メロウはさらりとそう続けた。ローガンが捕まえるのに協力した事も、もう知ってるんだろうな。
「それなら、わざわざこんな部屋まで用意しなくて良かったんじゃないか?周りから何かあるのかと変に注目されるだろ?」
呆れ顔でそう呟いた俺に、メロウはそれはもうにっこりと笑みを深くした。あー…浮かんでいる表情こそ笑顔だが、これは間違いなく笑ってないやつだ。何か変な事を言っただろうかと考えてしまうぐらい圧迫感がすごい。
「この部屋を用意したのは、それが必要だと私が判断したからです」
なにか文句でもあるんですか?ハルさん?と迫力のある笑顔で問いかけてくるメロウに、俺はいいやと首を振りながらも苦笑を返した。
「文句ってわけじゃないんだが、こんな部屋が必要だと俺は思えないだけだ」
「いえ、必要でしょう。私は既にクリスさんとカーディさんから、今回の護衛依頼の報告を受けてるんですよ?」
「ああ、まああの二人ならきっちり報告してるだろうな」
さっきも上で報告は受けたと言ってたから知ってるよと、俺はあっさりと答えた。
「まさか護衛依頼の達成報告で、ファーレスウルフの名前が出てくるなんて思ってもみなかったんですよ。もしファーレスウルフの素材を受付で普通に出されてたら、この部屋に呼ばれる以上に注目を集めてしまうでしょう?」
ああ、そういう意味で用意されたのが、この個室か。厄介な話があるわけで無いと理解した俺は、肩の力をそっと抜いた。
「いや、さすがにファーレスウルフの素材を受付カウンターで出すつもりは無かったぞ?」
そう答えれば、メロウはじっと俺を見てから続けた。
「いいえ、ハルさんならやりかねないと思いまして。あとはそれに巻き込まれるアキトさんへの配慮ですけどね」
そう言ってちらりとアキトに視線を向けたメロウは、今度は優しくて温かみのある笑顔を浮かべている。そういえば、こいつもアキト相手には普通に優し気な笑みを見せるんだよな。
「メロウさん、俺への配慮ありがとうございます」
律儀にもお礼の言葉を告げたアキトに、メロウは嬉しそうに笑ってみせる。
「どういたしまして。まずは今回の護衛依頼の達成処理から始めましょうか」
お二人ともギルドカードの提出をお願いしますねと言われた俺達は、慌ててそれぞれの魔導収納鞄へと手を入れた。
「それでは、これで護衛依頼の達成処理は終了となります」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
クリスとカーディの護衛依頼は、一般的な相場から見てもかなりの高額だった。無事に二人を守りきった事と、珍しく対処の難しい魔物を相手に戦った事が評価されたらしい。
わざわざ魔物の討伐について触れているということは、クリスとカーディからの報酬に、冒険者ギルドがさらに追加報酬を出しているのか。
まあくれるというなら貰うだけだがと思った俺と違い、アキトは金額を聞くなり不安そうな表情で俺を見上げてきた。
「こんなに良いのかな?」
「ああ、依頼人がその額にふさわしいと思ったんだから、それはちゃんと受け取るべきだと思うよ。受け取らないと依頼人も困るから」
俺達が報酬を受け取らない場合、もしかして何か依頼に問題があったのかと調査が入る事もあるからな。まあその調査を取り仕切ってるのは、今俺達の目の前にいるメロウなんだが。
「そっか…そういうもの?」
「そういうものだよ」
「ええ。それは正当な報酬ですから、受け取って頂けないと私もギルドも困ります」
メロウのそんな言葉に、アキトは分かりましたと小さく頷いた。報酬が少ないと文句をいう冒険者は山のようにいるだろうが、報酬が多いと慌てる冒険者なんてそうそういないんだろうな。
メロウがアキトに向ける微笑ましげな視線に、俺はそんなくだらない事を考えていた。
角を曲がる時や階段を下りる時に、俺達がついてきているかを確認するように、いちいちメロウがちらりと俺達の方に視線を向けてくるのが気になって仕方がない。
そんなにいちいち牽制するような視線を向けなくても、アキトが乗り気な時点で急に帰ろうとしたりはしないんだがな。
そんな事を考えながらメロウの背中を追って歩き続ければ、不意にメロウが足を止めた。どうやら目的地に到着したらしい。
今日俺達が案内されたのは、いつも通り地下にある部屋の中の一室だった。
護衛依頼を受ける時に入った部屋よりは全体的に小さめだが、防音結界はもしかしたらこの部屋の方が質が良いかもしれないな。最新式の魔道具だなとまじまじと鍵を観察している間に、メロウは慣れた様子で防音結界を発動した。
メロウはそこまでして肩の力を抜くと、立ち尽くしていた俺達にちらりと視線を向けた。
「もう話して頂いて大丈夫ですよ」
「やっぱりわざと話をしないようにしてたのか?」
俺に対してはともかく、あんなに寂しそうな顔をしたアキトを見ても話しかけてこなかったんだからきっとそうなんだろう。俺の中では確信があったが、まだすこし寂し気なアキトに聞かせるためにあえて言葉にして尋ねた。
「ええ、まあ」
当然だがメロウは、俺の質問の意図に気づいているだろう。あっさりと俺の質問に頷くと、一転して柔らかい笑みを浮かべた。アキトを安心させるための笑顔…だな。
「アキトさん、ハルさん。どうぞそちら側へ腰かけてください」
促されるままに、アキトは室内にあった唯一のテーブルの椅子へと腰を下ろした。すぐに隣に並んで座った俺とアキトの向かい側に、メロウもそっと腰を下ろす。
「何かあったか?」
何もなければ、説明もなくこんな防音結界が張れる部屋につれてこないだろう。そう思いながら尋ねれば、メロウはゆるりと首を振って答えた。
「いえ、ハルさんが心配するような意味での『何か』は特にありませんね」
街に入り込んでいた盗賊達も捕まったそうですしと、メロウはさらりとそう続けた。ローガンが捕まえるのに協力した事も、もう知ってるんだろうな。
「それなら、わざわざこんな部屋まで用意しなくて良かったんじゃないか?周りから何かあるのかと変に注目されるだろ?」
呆れ顔でそう呟いた俺に、メロウはそれはもうにっこりと笑みを深くした。あー…浮かんでいる表情こそ笑顔だが、これは間違いなく笑ってないやつだ。何か変な事を言っただろうかと考えてしまうぐらい圧迫感がすごい。
「この部屋を用意したのは、それが必要だと私が判断したからです」
なにか文句でもあるんですか?ハルさん?と迫力のある笑顔で問いかけてくるメロウに、俺はいいやと首を振りながらも苦笑を返した。
「文句ってわけじゃないんだが、こんな部屋が必要だと俺は思えないだけだ」
「いえ、必要でしょう。私は既にクリスさんとカーディさんから、今回の護衛依頼の報告を受けてるんですよ?」
「ああ、まああの二人ならきっちり報告してるだろうな」
さっきも上で報告は受けたと言ってたから知ってるよと、俺はあっさりと答えた。
「まさか護衛依頼の達成報告で、ファーレスウルフの名前が出てくるなんて思ってもみなかったんですよ。もしファーレスウルフの素材を受付で普通に出されてたら、この部屋に呼ばれる以上に注目を集めてしまうでしょう?」
ああ、そういう意味で用意されたのが、この個室か。厄介な話があるわけで無いと理解した俺は、肩の力をそっと抜いた。
「いや、さすがにファーレスウルフの素材を受付カウンターで出すつもりは無かったぞ?」
そう答えれば、メロウはじっと俺を見てから続けた。
「いいえ、ハルさんならやりかねないと思いまして。あとはそれに巻き込まれるアキトさんへの配慮ですけどね」
そう言ってちらりとアキトに視線を向けたメロウは、今度は優しくて温かみのある笑顔を浮かべている。そういえば、こいつもアキト相手には普通に優し気な笑みを見せるんだよな。
「メロウさん、俺への配慮ありがとうございます」
律儀にもお礼の言葉を告げたアキトに、メロウは嬉しそうに笑ってみせる。
「どういたしまして。まずは今回の護衛依頼の達成処理から始めましょうか」
お二人ともギルドカードの提出をお願いしますねと言われた俺達は、慌ててそれぞれの魔導収納鞄へと手を入れた。
「それでは、これで護衛依頼の達成処理は終了となります」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
クリスとカーディの護衛依頼は、一般的な相場から見てもかなりの高額だった。無事に二人を守りきった事と、珍しく対処の難しい魔物を相手に戦った事が評価されたらしい。
わざわざ魔物の討伐について触れているということは、クリスとカーディからの報酬に、冒険者ギルドがさらに追加報酬を出しているのか。
まあくれるというなら貰うだけだがと思った俺と違い、アキトは金額を聞くなり不安そうな表情で俺を見上げてきた。
「こんなに良いのかな?」
「ああ、依頼人がその額にふさわしいと思ったんだから、それはちゃんと受け取るべきだと思うよ。受け取らないと依頼人も困るから」
俺達が報酬を受け取らない場合、もしかして何か依頼に問題があったのかと調査が入る事もあるからな。まあその調査を取り仕切ってるのは、今俺達の目の前にいるメロウなんだが。
「そっか…そういうもの?」
「そういうものだよ」
「ええ。それは正当な報酬ですから、受け取って頂けないと私もギルドも困ります」
メロウのそんな言葉に、アキトは分かりましたと小さく頷いた。報酬が少ないと文句をいう冒険者は山のようにいるだろうが、報酬が多いと慌てる冒険者なんてそうそういないんだろうな。
メロウがアキトに向ける微笑ましげな視線に、俺はそんなくだらない事を考えていた。
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