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697.自由な採取作業

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 ハルにお勧めされた素材を優先的に採集しながらも、俺は久しぶりの採取作業を思いっきり楽しんでいた。

 今日は特にこれという依頼を受けてるわけじゃないから、絶対に見つけないといけないって緊張感が無いから気楽なんだ。

 図鑑で見てなんとなく興味を持ってた素材を遊びで探してみたり、前に採取した事のある素材を見つけたら名前を当ててみたりと自由に楽しんでいる。

「あ、これ前に図鑑で見たやつだ」

 うろうろと歩いていた俺は、綺麗に咲いた花の前でぴたりと立ち止まった。

「ん?どれ?」

 興味深そうに俺の後ろから覗き込んできたハルは、素材の名前を口にしたりはしない。ああこれかとだけ口にして、俺が図鑑のページを急いで捲るのを静かに待ってくれている。

 何でも教えるより、興味があるものは自分で調べた方が良いからって、俺の遊びに付き合ってくれてるんだ。その方が俺のためになるってさらりと言ったりしてさ。こういう所、惚れ直しちゃうよね。

「えーっと…たしかこの辺りに」

 素材の名前も何ページに載ってるかもはっきりとは覚えてないけど、挿絵がすごく印象に残ってるから多分見つけられると思うんだ。

 パラパラとページを捲っていけば、探していたページはちゃんと見つけられた。

「あ、あった!」

 思わずそう声をあげながら挿絵に目をやれば、そこにはバラにそっくりな花の絵が描かれていた。

 そう、この花、見た目がすごくバラに似てるんだよね。

 最初は挿絵がきっかけでバラみたいだなーって興味を持って、それから詳しい説明を読んだんだったな。

「アロイの花」
「うん、アロイの花だね」

 ハルは正解と言いたげに、優しい笑みを浮かべながら頷いてくれた。

 アロイの花の一番の特徴は、少し変わったその咲き方にあるらしい。

 二センチにも満たない小さな花が、みっしりと群生して咲くんだって。しかも根本はちゃんと一つの茎に繋がっているのに、何がどうなったのか花の色はバラバラというなんとも不思議な植物だ。

 そんな説明を読んでしまったら、一度ぐらい見てみたいなーって思うよね。

 図鑑の説明をもう一度読み込んでから、俺は目の前に咲いているアロイの花に視線を向けた。

「はー、図鑑だと花の拡大した絵しかなかったんだけど…想像してたよりも綺麗だ」
「うん、確かにアロイの花は綺麗だよね」
「なんだか…花束みたいに見えるね」

 思わずそう呟いた俺に、ハルは嬉しそうに笑みを浮かべて答えた。

「アキトは鋭いね」
「え…鋭い…?」
「うん。この花はね、地域によってはアロイの花じゃなくて、アロイの花束って呼ばれる事もあるんだ」

 一輪の花でもまるで花束のように見えるからと、そう呼ばれるらしい。

「へーそうなんだ」
「さすがに図鑑には載ってないけど、ちょっと面白い呼び名だよね」
「うん。確かに」

 ハルによるとアロイの花は冒険者ギルドの買取素材には入ってないけど、一般的に乾燥させて部屋に飾る用途では人気がある素材なんだって。

 正直俺は、ただ綺麗だからドライフラワーにでもするのかなーと思って聞いてたんだけど、なんでもアロイの花には部屋の空気を綺麗にする効果があるらしい。

 うーん、インテリアのドライフラワー兼、空気清浄機…かな?

「たくさんあるみたいだし、少し採っていく?」
「うん、ちょっとやってみたいな」

 せっかく見つけた不思議素材だもんね。



「アキトー、そろそろお昼にしようかー?」

 手分けして採取をしていたハルからの呼びかけに、俺は笑顔を浮かべて振り返った。

「うん、そうだね」

 採取に夢中になってる間に、もうお昼時だったのか。ハルが声をかけてくれなかったら、気づいてすらいなかったかもしれない。

「あー…でもきちんとした野営地まではちょっと遠いからこの辺りで休憩になるけど、それで良いかな?」
「うん、もちろん!」

 俺は少しも躊躇わずに即答した。ハルと一緒なら、別にどこで休憩しても問題は無いからね。ここは特に危険な採取地ってわけじゃないんだし。

「さっき広場で買ったパンと…あ、レーブンからもらったマルックスのグリルもあるよ」
「え、いつの間に?」
「受付にいった時に無言で渡された」
「お礼しなきゃ…」

 そんな事をわいわいと喋りながら外で食べる昼ごはんは、また各段と美味しかった。
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