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693.ギルドの個室で
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珍しく黙りこんだままま歩き出したメロウさんの背中を追って、俺とハルは冒険者ギルド内の廊下を進んでいく。
角を曲がる時や階段を下りる時には、きちんとついてきているかを確認するためなのか、メロウさんはちらりと俺達の方に視線を向けてくれる。メロウさんらしい優しさだけど、無言のままなのが少しだけ気になった。
いつもならもう少しぐらい世間話をしてくれるのにな。
少しだけ寂しく思いながらも前を歩く背中を追って歩き続ければ、不意にメロウさんが足を止めた。
今日俺達が案内されたのは、地下にある部屋の中の一室だった。
護衛依頼を受ける時に入った部屋よりは全体的に小さめだけど、この部屋も当然のように防音結界がかけられる部屋みたいだ。
メロウさんは慣れた様子で鍵をかけて防音結界を発動すると、立ち尽くしていた俺とハルにちらりと視線を向けた。
「もう話して頂いて大丈夫ですよ」
「やっぱりわざと話をしないようにしてたのか?」
「ええ、まあ」
メロウさんはそう言うと、一転して笑みを浮かべた。
「アキトさん、ハルさん。どうぞそちら側へ腰かけてください」
優しい声で促されるままに、俺は室内にあった唯一のテーブルの椅子へと腰を下ろした。隣に並んで座ったハルと俺の向かい側に、メロウさんもそっと腰を下ろす。
「何かあったか?」
「いえ、ハルさんが心配するような意味での『何か』は特にありませんね」
街に入り込んでいた盗賊達も捕まったそうですしと、メロウさんはさらりとそう続けた。それってローガンさんが捕まえるのに協力したって言ってた盗賊だよね。
「それなら、わざわざこんな部屋まで用意しなくて良かったんじゃないか?周りから何かあるのかと変に注目されるだろ?」
呆れ顔でそう呟いたハルに、メロウさんはそれはもうにっこりと笑みを深くした。あー…浮かんでいる表情こそ笑顔だけど、これは間違いなく笑ってないやつだ。すごい迫力のある笑みだし、圧迫感がすごい。
「この部屋を用意したのは、それが必要だと私が判断したからです」
なにか文句でもあるんですか?ハルさん?と迫力のある笑顔で問いかけたメロウさんに、ハルはいいやと首を振りながらも苦笑を返した。
「文句ってわけじゃないんだが、こんな部屋が必要だと俺は思えないだけだ」
「いえ、必要でしょう。私は既にクリスさんとカーディさんから、今回の護衛依頼の報告を受けてるんですよ?」
「ああ、まああの二人ならきっちり報告してるだろうな」
さっきも上で報告は受けたと言ってたから知ってるよと、ハルはあまりにあっさりと答えた。
というかこんなに迫力のある笑顔を浮かべたメロウさんが相手でも、普通に受け答えできるのって何気にすごい事だよね。さすがハルだなと思わず尊敬してしまう。
俺なんて自分に向けられた笑顔ってわけでも無いのに、あの表情に圧倒されてどう反応したら良いのか悩んでるぐらいなのに。いつもの優しいメロウさんに戻って欲しいと思ってしまう。
「まさか護衛依頼の達成報告で、ファーレスウルフの名前が出てくるなんて思ってもみなかったんですよ。もしファーレスウルフの素材を受付で普通に出されてたら、この部屋に呼ばれる以上に注目を集めてしまうでしょう?」
「いや、さすがにファーレスウルフの素材を受付カウンターで出すつもりは無かったぞ?」
「いいえ、ハルさんならやりかねないと思いまして。あとはそれに巻き込まれるアキトさんへの配慮ですけどね」
そう言ってちらりと俺に視線を向けたメロウさんは、もう優しくて温かみのあるいつも通りの笑顔だった。ああ、この笑顔を見ると、メロウさんだーってなんだか安心するんだよね。
頼れる相手というか、穏やかな人だからかな。ハルへの好きとは全く違う種類だけど、メロウさんの事は素直に好きだと思える。
「メロウさん、俺への配慮ありがとうございます」
「どういたしまして。まずは今回の護衛依頼の達成処理から始めましょうか」
お二人ともギルドカードの提出をお願いしますねと言われた俺達は、慌ててそれぞれの魔導収納鞄へと手を入れた。
「それでは、これで護衛依頼の達成処理は終了となります」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
クリスさんとカーディの護衛依頼は、相場を知らない俺でもびっくりするほどの報酬額だった。無事に二人を守りきった事と、珍しく対処の難しい魔物を相手に戦った事が評価された――らしい。
「こんなに良いのかな?」
「ああ、依頼人がその額にふさわしいと思ったんだから、それはちゃんと受け取るべきだと思うよ。受け取らないと依頼人も困るから」
「そっか…そういうもの?」
「そういうものだよ」
「ええ。それは正当な報酬ですから、受け取って頂けないと私もギルドも困ります」
メロウさんにまでそう言われると、さすがに俺も何も言えなくなる。ありがたく受け取っておこう。もうギルドカードの残高とか把握してないんだけどね。
角を曲がる時や階段を下りる時には、きちんとついてきているかを確認するためなのか、メロウさんはちらりと俺達の方に視線を向けてくれる。メロウさんらしい優しさだけど、無言のままなのが少しだけ気になった。
いつもならもう少しぐらい世間話をしてくれるのにな。
少しだけ寂しく思いながらも前を歩く背中を追って歩き続ければ、不意にメロウさんが足を止めた。
今日俺達が案内されたのは、地下にある部屋の中の一室だった。
護衛依頼を受ける時に入った部屋よりは全体的に小さめだけど、この部屋も当然のように防音結界がかけられる部屋みたいだ。
メロウさんは慣れた様子で鍵をかけて防音結界を発動すると、立ち尽くしていた俺とハルにちらりと視線を向けた。
「もう話して頂いて大丈夫ですよ」
「やっぱりわざと話をしないようにしてたのか?」
「ええ、まあ」
メロウさんはそう言うと、一転して笑みを浮かべた。
「アキトさん、ハルさん。どうぞそちら側へ腰かけてください」
優しい声で促されるままに、俺は室内にあった唯一のテーブルの椅子へと腰を下ろした。隣に並んで座ったハルと俺の向かい側に、メロウさんもそっと腰を下ろす。
「何かあったか?」
「いえ、ハルさんが心配するような意味での『何か』は特にありませんね」
街に入り込んでいた盗賊達も捕まったそうですしと、メロウさんはさらりとそう続けた。それってローガンさんが捕まえるのに協力したって言ってた盗賊だよね。
「それなら、わざわざこんな部屋まで用意しなくて良かったんじゃないか?周りから何かあるのかと変に注目されるだろ?」
呆れ顔でそう呟いたハルに、メロウさんはそれはもうにっこりと笑みを深くした。あー…浮かんでいる表情こそ笑顔だけど、これは間違いなく笑ってないやつだ。すごい迫力のある笑みだし、圧迫感がすごい。
「この部屋を用意したのは、それが必要だと私が判断したからです」
なにか文句でもあるんですか?ハルさん?と迫力のある笑顔で問いかけたメロウさんに、ハルはいいやと首を振りながらも苦笑を返した。
「文句ってわけじゃないんだが、こんな部屋が必要だと俺は思えないだけだ」
「いえ、必要でしょう。私は既にクリスさんとカーディさんから、今回の護衛依頼の報告を受けてるんですよ?」
「ああ、まああの二人ならきっちり報告してるだろうな」
さっきも上で報告は受けたと言ってたから知ってるよと、ハルはあまりにあっさりと答えた。
というかこんなに迫力のある笑顔を浮かべたメロウさんが相手でも、普通に受け答えできるのって何気にすごい事だよね。さすがハルだなと思わず尊敬してしまう。
俺なんて自分に向けられた笑顔ってわけでも無いのに、あの表情に圧倒されてどう反応したら良いのか悩んでるぐらいなのに。いつもの優しいメロウさんに戻って欲しいと思ってしまう。
「まさか護衛依頼の達成報告で、ファーレスウルフの名前が出てくるなんて思ってもみなかったんですよ。もしファーレスウルフの素材を受付で普通に出されてたら、この部屋に呼ばれる以上に注目を集めてしまうでしょう?」
「いや、さすがにファーレスウルフの素材を受付カウンターで出すつもりは無かったぞ?」
「いいえ、ハルさんならやりかねないと思いまして。あとはそれに巻き込まれるアキトさんへの配慮ですけどね」
そう言ってちらりと俺に視線を向けたメロウさんは、もう優しくて温かみのあるいつも通りの笑顔だった。ああ、この笑顔を見ると、メロウさんだーってなんだか安心するんだよね。
頼れる相手というか、穏やかな人だからかな。ハルへの好きとは全く違う種類だけど、メロウさんの事は素直に好きだと思える。
「メロウさん、俺への配慮ありがとうございます」
「どういたしまして。まずは今回の護衛依頼の達成処理から始めましょうか」
お二人ともギルドカードの提出をお願いしますねと言われた俺達は、慌ててそれぞれの魔導収納鞄へと手を入れた。
「それでは、これで護衛依頼の達成処理は終了となります」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
クリスさんとカーディの護衛依頼は、相場を知らない俺でもびっくりするほどの報酬額だった。無事に二人を守りきった事と、珍しく対処の難しい魔物を相手に戦った事が評価された――らしい。
「こんなに良いのかな?」
「ああ、依頼人がその額にふさわしいと思ったんだから、それはちゃんと受け取るべきだと思うよ。受け取らないと依頼人も困るから」
「そっか…そういうもの?」
「そういうものだよ」
「ええ。それは正当な報酬ですから、受け取って頂けないと私もギルドも困ります」
メロウさんにまでそう言われると、さすがに俺も何も言えなくなる。ありがたく受け取っておこう。もうギルドカードの残高とか把握してないんだけどね。
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