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690.【ハル視点】今朝の料理も

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 二人で身支度を整えてから、俺達は揃って部屋を出た。

 そのまま階下の食堂へと向かえば、優しい笑顔を浮かべたルタスが出迎えてくれた。レーブンの代わりに受付をするって言ってたが、今朝の食堂も担当だったのか。

「おっ、おはよう。ハルにアキト!」
「おはよう、ルタス」
「おはようございます」

 二人して笑顔でそう答えれば、ルタスはじーっと俺達の顔を観察してから、おもむろに口を開いた。

「うん、二人とも特に問題なく元気そうだな」
「ああ、まあな」
「はい、元気ですよ…?」
「いやだってお前ら、昨日かなり飲んだんだろ?しかもレーブンさんとローガンさんと一緒にさ」

 こそりとそう囁いてきたルタスに、俺は苦笑しながら確かに人生で一番飲んだかもしれないよと答えた。あの二人の酒豪っぷりを知っているからこそ、俺達の事を本気で心配してくれたんだろう。

「それでもう動けるってすげぇな…レーブンさんもさ、朝早くから起きてきて元気いっぱいで食堂の朝食仕込んでたぜ」
「え…?」

 今朝の料理もレーブンが作ったのかと言いたげなびっくり顔でアキトがじっと見つめれば、ルタスはなーびっくりだよなーと軽い言葉を返した。全然びっくりしてるようには感じないんだが。

「そんなに早くから起きてきたのか…ルタスの依頼では食堂もまかせるって言われてなかったか?」
「依頼の上ではそうなんだけどな。何かやる気が湧いてきて仕方なくて、色々試したいんだーってすごい勢いだったからさ」

 ああ、なるほど。自分で出した依頼の内容を変更してしまうぐらい、思いついた料理を試したくてたまらなかったんだろうな。まあレーブンなら依頼料を値切る心配は無いだろうが。

「あれだけ飲んだのにか…すごいな」
「な、俺もあれぐらい酒に強くなりたいわ」

 思いっきり飲めるの羨ましいと笑い混じりで呟いたルタスは、酒自体は好きそうだが、たぶんそれほど酒に強くは無いんだろうな。

 そんな風に会話を交わしていると、不意にハッとした様子でルタスが顔をあげた。

「悪い、引き留めちゃったな。二人分の朝食持って来るよ」

 適当に座っててくれと言い置いて、ルタスはすぐに食堂の奥へと消えていった。

「行っちゃったね」
「ああ、お言葉に甘えて座って待とうか」
「そうだね」

 今日も明るく挨拶してくる給仕役の冒険者に挨拶を返しつつ、俺達は食堂の奥へと足を向けた。

 ここ黒鷹亭の食堂はささっと食べて出ていく奴が多いから、入口近くの席が人気だ。だからいつも奥の方が空いているんだよな。

 すっかり定位置になってきた一番奥の席に、俺達は向かい合って腰を下ろした。

「それにしてもレーブン…すごいな」

 俺は感心半分呆れ半分でそう呟いた。

「うん、すごいね!」

 アキトのは感心と尊敬が半分ずつだな。まあアキトらしいけど。

「ああ、何が恐ろしいって、俺達が部屋に戻る時もまだ飲んでたんだよな…」

 しかもレーブンとローガンは、気に入った酒があるとぐいぐいと何杯も勝手におかわりして飲んでいたからな。確実に俺とアキトの比じゃない量を飲んでいる。もしかして先祖に酒飲みで有名なドワーフの血でも混ざってるんだろうか。



 その時、がやがやと賑わっていた食堂が、何の前触れもなく急にしんと静まり返った。

 嫌な予感がするなと入口の方へと恐る恐る視線を向ければ、そこには満面の笑みを浮かべたレーブンが立っていた。朗らかな笑みを浮かべたレーブンの両手には、二人分の朝食の載ったトレイがある。

 あれはたぶん俺達の朝食なんだろうな。

 しんと静まり返った食堂の中を気にもかけず、レーブンはすたすたと俺達の方へと近づいてきた。

「アキト、ハル、おはよう!」

 心なしか声まで普段よりも明るく元気だな。珍しすぎる姿に、油断すると笑ってしまいそうになる。

「おはようございます」
「おはよう」
「うん、二人とも元気そうだな!」
「レーブンさんも…」
「ああ、まあな。料理がしたくて目が覚めたんだ!」

 いつになく興奮状態だし、やっぱり顔には満面の笑みが浮かんでいる。

「特にこのスープはな、昨日思いついた作り方に変えてみたんだ。良ければ感想を教えてくれ」

 そう言うと、レーブンは俺達の前にトレイを並べて颯爽と去っていった。うん、美味しそうな香りはしているんだが、レーブンが気になって香りに集中できないな。

「あの笑顔…やっぱり天変地異の前触れじゃないか?」
「いや、あれは毒キノコを食べたのかもしれん」
「よりによってあのレーブンが、毒キノコに気づかないなんて事があるかよ!」
「でもいつも以上に朝食はうまかったぞ?」
「「「ああ、確かにそうだな」」」

 そんな会話が後ろの方から漏れ聞こえてくる。

「あいつらはもうちょっとレーブンの笑顔に慣れるべきだな」

 笑いながらこそりとアキトにそう声をかければ、アキトも笑いながらコクコクと頷いてくれた。
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