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689.【ハル視点】覚えていないと良いんだが
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ふと眠りから覚めた俺がうっすらと目を開くと、向かい合わせになって眠るアキトの寝顔が視界に飛び込んできた。
ああ、そういえば昨日はアキトが眠ってしまった後、きっちりとアキトに服を着せてから、俺もすぐに自分のベッドに潜り込んだんだったな。酔いが回っていたせいかその後の記憶は一切ないから、たぶん俺もあのまますぐに眠ってしまったんだろう。
パチパチと何度も瞬きをしてからそっと寝返りを打つと、俺は小さなあくびをしながら窓の外へと視線を向けた。
まだ空もうっすらと明るくなりつつあるぐらいの時間帯か。ということは、今朝は普段よりもかなり早く目が覚めたらしい。
今までに無いってぐらいの量を飲んだんだが、さて体調はどうだろう?
そう思ってゆっくりと自分の体調を確認してみたんだが、頭痛も吐き気も、胸悪さなんてものも一切無い…な。あれだけ飲んだらさすがに次の日はポーションなしでは動けないかと思ったんだが、問題は特に無いらしい。
昨日部屋に帰る前にレーブンから投げ渡された俺の分だというポーションは、どうやら今日は出番はないらしい。
俺はもう一度そっと寝返りを打つと、幸せそうに眠るアキトの姿を眺めた。
今のこどもみたいに無邪気な寝顔を見ていると、昨日のあの一枚ずつ服を脱いで誘惑してきた妖艶な姿が夢のように思えてくるな。
あれは明らかに酔っていたせいだ。だから、襲わずに済んだのはもしかしたら逆に良かったのかもしれない。あの時は少しだけ残念に思ったが、今は心からそう思える。
ただ、もしアキトがばっちりあの行動を覚えていたら、少し困った事になるよな。
あの恥ずかしがり屋なアキトが、服を脱がされるのですら照れてしまうあのアキトが、自分で服を脱ぎながら俺を誘惑したんだからな。自分の昨夜の行動を知ったら、もしかしたら恥ずかしすぎて倒れてしまうかもしれない。
そうでなくても全力で恥ずかしがるだろうし、もしかしたら数日は視線を合わせてくれないかもしれない。そうなったら寂しいだろうが、それぐらいは覚悟しておいた方が良いのかもしれない。
そんな事を考えながらアキトの寝顔を堪能していたが、どうやらまだまだ起きる気配は無さそうだ。
それならアキトの目覚めを待っている間に、すこし本でも読むかな。ちょうど昨日買った魔物研究のあの本があるし、あれを読もう。
そう決めると俺はアキトを起こさないように気配を殺しながら、そーっと窓辺にあるテーブルへと移動した。
想像以上に興味深い本の内容に夢中になって読み進めていると、不意にアキトがむくりと上半身を起き上がらせたのを視界の端に捕らえた。
さてどんな反応をするんだろうと視線は本から動かさずに気配を探っていれば、アキトはキョロキョロと視線を動かしていつも通りに俺を探した。そのまま俺に気づくなり、何も言わずにじっとこちらを見つめてくる。
これは反応からして昨日の事は覚えていないかもしれない。そんな風に考えながら、俺は今気づいたと言いたげに視線を上げて口を開いた。
「あ、アキト起きたの?」
読んでいた魔物研究の本をテーブルに置いた俺は、ベッドに近づいて行くとそっとアキトの顔を覗き込んだ。
「うん、おきた…おはよ、ハル」
ああ、うん。これは確実に覚えてないなと、俺はホッとしながら笑みを返した。
「おはよう、アキト。はい、まずは水分補給ね。これ飲んで」
そう声をかけながらさっと腕輪から差し出した果実水を差し出せば、アキトはすぐにそれを受け取ると一気に飲み干した。
「美味しい!ハル、ありがと」
「どういたしまして…それで、アキト体調はどう?」
「えーっと…うん、大丈夫そうだよ」
きちんと自分の体調を確認してから答えたアキトに、俺はふうと肩の力を抜いた。
「一応ポーションも用意してあったんだけど、大丈夫そうだね」
そう言って手に握りしめていた瓶を揺らしながら笑った俺を、アキトはじーっと見つめていた。
「ちなみにこれはレーブンがくれたやつなんだけどね」
そう説明しても、お礼を言わなきゃと言い出しそうなアキトは何も言わずにぼんやりと俺を見つめている。
やっぱり体調が悪いのか?
そう思ってポーションを飲んでもらおうかと検討しだした時、不意にアキトが口を開いた。
「きのうは迷惑かけてごめんね、ハル」
小さくなりながら告げられた謝罪に、俺はぎくりと動きを止めた。表情からして覚えていないと思ったんだが、違っていたのか。落ち着けと自分に言い聞かせてから、俺はゆっくりと口を開いた。
「…アキト、昨日の事…覚えてるの?」
「それが色とりどりのお酒を飲んだところまでは覚えてるんだけど…それ以降は全く覚えてないんだ…」
申し訳なさそうに肩を落としながらのセリフに、俺はホッと息を吐いた。
「でも、寝落ちしたのにこの部屋で寝てるって事は、ここまでハルに運んでもらったって事でしょう?」
だからごめんなさいともう一度謝ってくれたアキトに、俺は笑みを返した。
「アキトを運ぶのは全然苦じゃないから、気にしなくて良いよ――覚えてなくて良かった」
思わず言葉が漏れた俺に、アキトはえっと声を上げる。
「ハルが覚えてなくて良かったって言っちゃうぐらい、俺、何かひどい事しちゃった?」
「いや、そうじゃないよ」
「でも、覚えてなくて良かったって」
「あーうん、ごめん。そういう意味じゃないから、お願いだから忘れて!」
困り顔でお願いだから忘れてと口にすれば、優しいアキトはそれ以上は追及するのを諦めてくれたみたいだ。
「じゃあ、もうひとつだけ言わせて」
「うん、何?」
「運んでくれてありがとう」
「どういたしまして」
ああ、そういえば昨日はアキトが眠ってしまった後、きっちりとアキトに服を着せてから、俺もすぐに自分のベッドに潜り込んだんだったな。酔いが回っていたせいかその後の記憶は一切ないから、たぶん俺もあのまますぐに眠ってしまったんだろう。
パチパチと何度も瞬きをしてからそっと寝返りを打つと、俺は小さなあくびをしながら窓の外へと視線を向けた。
まだ空もうっすらと明るくなりつつあるぐらいの時間帯か。ということは、今朝は普段よりもかなり早く目が覚めたらしい。
今までに無いってぐらいの量を飲んだんだが、さて体調はどうだろう?
そう思ってゆっくりと自分の体調を確認してみたんだが、頭痛も吐き気も、胸悪さなんてものも一切無い…な。あれだけ飲んだらさすがに次の日はポーションなしでは動けないかと思ったんだが、問題は特に無いらしい。
昨日部屋に帰る前にレーブンから投げ渡された俺の分だというポーションは、どうやら今日は出番はないらしい。
俺はもう一度そっと寝返りを打つと、幸せそうに眠るアキトの姿を眺めた。
今のこどもみたいに無邪気な寝顔を見ていると、昨日のあの一枚ずつ服を脱いで誘惑してきた妖艶な姿が夢のように思えてくるな。
あれは明らかに酔っていたせいだ。だから、襲わずに済んだのはもしかしたら逆に良かったのかもしれない。あの時は少しだけ残念に思ったが、今は心からそう思える。
ただ、もしアキトがばっちりあの行動を覚えていたら、少し困った事になるよな。
あの恥ずかしがり屋なアキトが、服を脱がされるのですら照れてしまうあのアキトが、自分で服を脱ぎながら俺を誘惑したんだからな。自分の昨夜の行動を知ったら、もしかしたら恥ずかしすぎて倒れてしまうかもしれない。
そうでなくても全力で恥ずかしがるだろうし、もしかしたら数日は視線を合わせてくれないかもしれない。そうなったら寂しいだろうが、それぐらいは覚悟しておいた方が良いのかもしれない。
そんな事を考えながらアキトの寝顔を堪能していたが、どうやらまだまだ起きる気配は無さそうだ。
それならアキトの目覚めを待っている間に、すこし本でも読むかな。ちょうど昨日買った魔物研究のあの本があるし、あれを読もう。
そう決めると俺はアキトを起こさないように気配を殺しながら、そーっと窓辺にあるテーブルへと移動した。
想像以上に興味深い本の内容に夢中になって読み進めていると、不意にアキトがむくりと上半身を起き上がらせたのを視界の端に捕らえた。
さてどんな反応をするんだろうと視線は本から動かさずに気配を探っていれば、アキトはキョロキョロと視線を動かしていつも通りに俺を探した。そのまま俺に気づくなり、何も言わずにじっとこちらを見つめてくる。
これは反応からして昨日の事は覚えていないかもしれない。そんな風に考えながら、俺は今気づいたと言いたげに視線を上げて口を開いた。
「あ、アキト起きたの?」
読んでいた魔物研究の本をテーブルに置いた俺は、ベッドに近づいて行くとそっとアキトの顔を覗き込んだ。
「うん、おきた…おはよ、ハル」
ああ、うん。これは確実に覚えてないなと、俺はホッとしながら笑みを返した。
「おはよう、アキト。はい、まずは水分補給ね。これ飲んで」
そう声をかけながらさっと腕輪から差し出した果実水を差し出せば、アキトはすぐにそれを受け取ると一気に飲み干した。
「美味しい!ハル、ありがと」
「どういたしまして…それで、アキト体調はどう?」
「えーっと…うん、大丈夫そうだよ」
きちんと自分の体調を確認してから答えたアキトに、俺はふうと肩の力を抜いた。
「一応ポーションも用意してあったんだけど、大丈夫そうだね」
そう言って手に握りしめていた瓶を揺らしながら笑った俺を、アキトはじーっと見つめていた。
「ちなみにこれはレーブンがくれたやつなんだけどね」
そう説明しても、お礼を言わなきゃと言い出しそうなアキトは何も言わずにぼんやりと俺を見つめている。
やっぱり体調が悪いのか?
そう思ってポーションを飲んでもらおうかと検討しだした時、不意にアキトが口を開いた。
「きのうは迷惑かけてごめんね、ハル」
小さくなりながら告げられた謝罪に、俺はぎくりと動きを止めた。表情からして覚えていないと思ったんだが、違っていたのか。落ち着けと自分に言い聞かせてから、俺はゆっくりと口を開いた。
「…アキト、昨日の事…覚えてるの?」
「それが色とりどりのお酒を飲んだところまでは覚えてるんだけど…それ以降は全く覚えてないんだ…」
申し訳なさそうに肩を落としながらのセリフに、俺はホッと息を吐いた。
「でも、寝落ちしたのにこの部屋で寝てるって事は、ここまでハルに運んでもらったって事でしょう?」
だからごめんなさいともう一度謝ってくれたアキトに、俺は笑みを返した。
「アキトを運ぶのは全然苦じゃないから、気にしなくて良いよ――覚えてなくて良かった」
思わず言葉が漏れた俺に、アキトはえっと声を上げる。
「ハルが覚えてなくて良かったって言っちゃうぐらい、俺、何かひどい事しちゃった?」
「いや、そうじゃないよ」
「でも、覚えてなくて良かったって」
「あーうん、ごめん。そういう意味じゃないから、お願いだから忘れて!」
困り顔でお願いだから忘れてと口にすれば、優しいアキトはそれ以上は追及するのを諦めてくれたみたいだ。
「じゃあ、もうひとつだけ言わせて」
「うん、何?」
「運んでくれてありがとう」
「どういたしまして」
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