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681.【ハル視点】食事会と似たもの兄弟

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「よし、それじゃあ好きなのから食べ始めてくれ」
「二人とも一切遠慮はしなくて良いからな。もし気に入ったのがあれば、ぜひ教えてくれ」

 取り皿を並べながらそう声をかけてくれたレーブンとローガンに、俺とアキトはぺちりと両手を合わせた。

「「いただきまーす」」

 そうして、四人だけでの食事会が始まった。



 テーブルの上に並ぶ料理を見て分かりやすく目を輝かせているアキトに、レーブンとローガンは微笑ましげに頬を緩めた。

 滅多に笑わないこの二人のこんな表情を見たら、また周りが騒がしくなるだろうな。わいわいと騒ぐ周囲の人間が、簡単に想像できてしまった。食事会が個室で良かったかもしれない。

 そんな事を考えている間に、アキトは目を付けた料理をささっと皿にとりわけた。一口ぱくりと食べるなり、大きく目を見開いている。言葉にはしてないんが、美味しいと全身で伝えてくるアキトに、二人の笑顔もどんどん深まってくる。

 お前も食えよと言わんばかりにレーブンに見つめられた俺は、ちょうど目の前にあった皿のキノコ料理を食べてみた。

 うん、これはうまいな。普通は濃い味付けで調理されがちなキノコなんだが、今日は薄味の味付けみたいだ。そのおかげで、キノコの旨味が伝わってくる。

「どうだ?」

 身を乗り出して小さな声で尋ねてきたレーブンに、俺はすぐに頷いて答えた。

「こっちの方が俺は好きだな、うまい」
「そうか!」 
「あ、これ美味しいです」

 不意にアキトがこぼした声に、レーブンは満面の笑みで振り返った。

「おお、そうか。それは前までは塩だけで味付けしてたんだが、今回はちょっと味付けを変えてみたんだ」

 アキトは何を美味しいと言ったのかとちらりと視線を向ければ、シャキシャキした食感が特徴的な野菜、ケットのグリルだった。

 嬉しそうに説明を始めたレーブンの隣で、ローガンは真剣な表情でもぐもぐと口を動かしている。眉間のしわがすごいな。

 ローガンはごくりとケットを飲み込むなり、嬉しそうに頷いた。

「うん、これは…北国でしか採れないレルの果実を使ってるのか」
「ローガン、分かったのか…?さすがだな」

 隠し味程度にほんの少し足しただけなのにと、レーブンは誉め言葉を口にしながらも少しだけ悔しそうだ。

 この二人は仲が良くて気も合うが、料理人としては譲れない何かがあるらしい。こういう時には張り合うんだよなぁ。

 すこし不思議そうな表情をしたアキトに、俺はそっと顔を近づけた。

「隠し味だから気づかれたくないんだと思うよ」

 耳元でそう囁けば、アキトはまた不思議そうにゆるりと首を傾げた。

「レーブン、こっちも今日は味を変えてあるんだが、何を足したか分かるか?」
「なんだ、挑戦するのか?もちろん受けてたつぞ」

 ああ、やっぱりこうなったか。この似たもの兄弟は、お互いの料理の隠し味を言い当てるこの勝負が好きなんだよなぁ。当てられれば悔しがるだけだし、外されたら解説を始めるだけだから特に問題は無いんだが。

「アキト、これも美味しいよ」

 この勝負は絶対に長くなるからと美味しかったスープを勧めれば、アキトは嬉しそうにコップ受け取ってくれた。コクコクと喉を動かしてから、パァァッと表情を輝かせる。

「うん、すごく美味しい!野菜の旨味が濃い!」

 アキトの口にした感想に、二人は勝負をいったん保留にしたらしい。どの料理についての感想かと視線を動かしていたローガンは自分の料理だと気づくなり、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「ああ、それはこれからまだ改良して合う具材を探すつもりなんだが、スープだけでも口に合ったか」

 俺にも視線が来たからうまいと頷けば、アキトも横でコクコクと頷いている。

「どれどれ…む…確かにこれは深みのある味だな…うん、美味い」

 じっくりと味わってからぼそりとそう感想を言ったレーブンに、ローガンは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「俺はステーキをもらうぞ」
「何でも食えって言っただろ?」

 苦笑するローガンに見つめられながら、俺はステーキを食べ始めた。ああ、やっぱりこのステーキが一番美味いな。

「うん、やっぱり美味いな」
「そうだろう?これは味付けは変えなかったんだ」

 もし変えてもきっと美味いんだろうが、やっぱりこのステーキはこの味付けが良い。

「その方が嬉しい、が……」
「が?」
「酒が欲しい」

 何故か酒がまだ出てないんだよな。そう思いながらぽつりと呟けば、レーブンとローガンは顔を見合わせてから慌てて立ち上がった。

「何か忘れてると思ったら、酒の用意を忘れてたな!」
「……俺達は料理の事になるとこれだから!」

 申し訳なさそうにしながら、レーブンはワゴンからお酒を取り出し始めた。受け取った酒を、ローガンは慣れた様子でテーブルの空いた所に並べていく。

 共同作業で並べられていくお酒を、俺はただ呆然と見つめていた。

 大きさも素材も色もバラバラのたくさんの酒瓶の隣には、こぶりな樽や見た事も無い不思議な容器に入ったものまでがずらりと並んでいく。

 おい、幻と言われる酒が混ざってないか?それにそっちは西の果てにある村の秘伝の酒じゃないか?なんでその酒がここにあるんだ?

「それとこれは忘れちゃいけない。アキトの土産でもらった北ノールの酒だ!」
「おお、本当に北ノールの酒だな」

 珍しい酒だとワクワクした様子のローガンに、レーブンは笑顔でチーズと木の実の入った袋を差し出した。

「これもな」
「これは…チーズと木の実…か?」
「北ノールではこういう乾燥させた木の実やチーズをつまみにするんだと」
「へぇ、それは初めて知ったが…面白いな」

 アキトの土産の瓶を取り出して、似たもの兄弟の二人は嬉しそうに笑い合っている。

 そんな二人を笑顔で見守っていたアキトは、不意にあ、と声をあげた。どうしたんだと二人が見つめる中、慌てた様子で魔導収納鞄へと手を入れる。

「これ、ローガンさんへのお土産です」

 取り出したのはレーブンが持っているのと全く同じ瓶と袋だ。土産を選んでいる時に、アキトがローガンにも買いたいと主張したんだよな。

「は?俺にもあるのか?…本当に貰って良いのか…?」

 嘘だろうと言いたげに瓶を見つめるローガンは、酒そのものじゃなくてアキトの気持ちが嬉しいんだろうな。

「もちろんです。ローガンさんのために買ったので」
「大事に飲む。ありがとう」

 心なしか涙声のローガンは、受け取った瓶を大事そうにテーブルの上へとそっと置いた。
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