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676.それぞれの好み
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あ、そうだ。どうせならこのタイミングで、差し入れのケーキも渡しておこうかな。お酒を飲みだしたら、渡すの忘れるかもしれないし。
俺はそんな軽い気持ちで、魔導収納鞄に手を入れた。
「あ、あと、これ俺とハルからの差し入れなんですけど」
「え、差し入れなんて良かったんだぞ」
「わざわざ用意してくれたのか」
慌てた様子でこちらを向いてくれた二人に、俺は笑顔で答えた。
「はい、でも料理とお酒はお二人が用意してくれるってハルから聞いてたので…」
そんな風に話しながら、俺は紙の箱に入ったケーキを取り出した。箱にはリコーヴェと金色の文字で印刷されている。
この箱がまるで俺の世界のケーキ屋さんみたいな作りなのには、最初に見た時はちょっとだけ驚いた。これも誰かが持ち込んだ情報を元に作られたのかな?それともただの偶然? 真偽は分からないけど、この箱のおかげで差し入れにするのにぴったりなんだよね。
「リコーヴェ菓子店のケーキです!」
レーブンさんとローガンさんの目の前に笑顔で箱を差し出したけど、二人は何故か箱を受け取ってはくれなかった。それどころか箱を凝視したまま、ピタリと動きを止めて固まってしまっている。
あれ?なんだろうこの反応?二人とも甘い物が好きなんだってハルが言ってたから、好みを外してはいないと思うんだけど。
予想外だった反応に戸惑いながらそっとハルに視線を向ければ、隣に座っているハルは苦笑を浮かべていた。
「あーやっぱりそういう反応か…」
「やっぱり?」
「いや、えっとね…」
説明しようとしたハルの言葉を、レーブンさんの声が遮った。
「おう、ハル、いや…ハロルド?」
「ハロルド、ちょっと俺達とお話しようか?」
ようやく動き出した二人は、まるで今が戦闘中であるかのような威圧感を出しながら、聞いた事も無いような低い声でハルの名前を呼んだ。
ハルじゃなくてハロルドって言い直す辺り、かなり怒ってるような気がするんだけど、大丈夫なの?
「なんだよ?」
「お前、勝手にアキトに…その、話したのか?」
「ああ。お前たちが甘い物を好きな事なら、話したが?」
あっさりと答えたハルを、レーブンさんとローガンさんはジロリと睨みつけた。隣で見てるだけでも身構えたくなるぐらいの鋭い視線だったけど、ハルはその視線を綺麗に無視して続けた。
「別に隠す必要なんて無いだろうが」
「だからって…お前!」
「それとも…既に身内扱いしてるアキトを相手に、いつまでもお前らの好みを秘密にする気だったのか?それを知った時にアキトがどう思うか、考えた事はあるのか?」
呆れたような口調でそう続けたハルに、さっきまで怒りを露わにしていた二人はうっと呻き声を上げた。
ああ、ハルはそんな風に考えて、俺に二人の好みをばらしてくれたのか。
「ちなみにアキトは二人が甘い物が好きだって話を聞いて、別に隠さなくて良いのにって言ってたぞ?」
ハルは俺に視線を向けると、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。もう大丈夫だよと安心させるような笑顔だった。
「アキト…えっと、ハルの話してた事は、本当か…?」
「はい、本当です!」
レーブンさんの質問に即答すれば、ローガンさんは俺をじっと見つめてから口を開いた。
「アキトは、この強面とこの図体で甘い物が好きだってのは…似合わないとか…恥ずかしいとか思わないのか?」
俺は慌てて首を振った。
「好きなものを好きって言って何が悪いんですか?美味しいと感じるものは人それぞれでしょう?」
似合うとか似合わないとか気にしなくて良いと思うんですと一生懸命主張すれば、二人は安心した様子でホッと息を吐いた。
この反応はもしかして似合わないなんて馬鹿にされた事があるのかな。きっと、あるんだろうな。食の好みなんて本人が美味しければそれで良いと俺は思うんだけど、そういう事を気にする人も何故かいるんだよなぁ。
「そうか…そうだな」
「ありがとうな、アキト」
「いえ。このケーキ、ハルがお勧めしてくれたんです」
そっと箱を開けて中を見せれば、そこには淡いピンク色の生地に白いアイシングが施された何とも可愛らしいケーキが見えた。
「リコーヴェ菓子店のリコーヴェだな」
「ああ、かなり久しぶりだな」
「リコーヴェ菓子店の…リコーヴェ?」
思わず尋ねた俺に、レーブンさんとローガンさんが笑って教えてくれた。
「そう、リコーヴェだ。これは店名がそのままケーキの名前になってるんだ」
「中身は糖度の高い果物の果汁を使ってるからかなり甘いんだが、薄く切って食べれば誰でも楽しめる味だ」
「そうなんですか」
「うまいからアキトも一緒に食べような」
「はい!」
最初はどうなる事かと思ったけど、無事に差し入れも喜んでもらえたみたいで良かった。さすがハルだなと考えながら、俺は目の前にさっと差し出された料理を取り皿へと移した。
「あ、それはこっちの酒が合うんだが、アキトもどうだ?」
「いただきまーす!」
俺はそんな軽い気持ちで、魔導収納鞄に手を入れた。
「あ、あと、これ俺とハルからの差し入れなんですけど」
「え、差し入れなんて良かったんだぞ」
「わざわざ用意してくれたのか」
慌てた様子でこちらを向いてくれた二人に、俺は笑顔で答えた。
「はい、でも料理とお酒はお二人が用意してくれるってハルから聞いてたので…」
そんな風に話しながら、俺は紙の箱に入ったケーキを取り出した。箱にはリコーヴェと金色の文字で印刷されている。
この箱がまるで俺の世界のケーキ屋さんみたいな作りなのには、最初に見た時はちょっとだけ驚いた。これも誰かが持ち込んだ情報を元に作られたのかな?それともただの偶然? 真偽は分からないけど、この箱のおかげで差し入れにするのにぴったりなんだよね。
「リコーヴェ菓子店のケーキです!」
レーブンさんとローガンさんの目の前に笑顔で箱を差し出したけど、二人は何故か箱を受け取ってはくれなかった。それどころか箱を凝視したまま、ピタリと動きを止めて固まってしまっている。
あれ?なんだろうこの反応?二人とも甘い物が好きなんだってハルが言ってたから、好みを外してはいないと思うんだけど。
予想外だった反応に戸惑いながらそっとハルに視線を向ければ、隣に座っているハルは苦笑を浮かべていた。
「あーやっぱりそういう反応か…」
「やっぱり?」
「いや、えっとね…」
説明しようとしたハルの言葉を、レーブンさんの声が遮った。
「おう、ハル、いや…ハロルド?」
「ハロルド、ちょっと俺達とお話しようか?」
ようやく動き出した二人は、まるで今が戦闘中であるかのような威圧感を出しながら、聞いた事も無いような低い声でハルの名前を呼んだ。
ハルじゃなくてハロルドって言い直す辺り、かなり怒ってるような気がするんだけど、大丈夫なの?
「なんだよ?」
「お前、勝手にアキトに…その、話したのか?」
「ああ。お前たちが甘い物を好きな事なら、話したが?」
あっさりと答えたハルを、レーブンさんとローガンさんはジロリと睨みつけた。隣で見てるだけでも身構えたくなるぐらいの鋭い視線だったけど、ハルはその視線を綺麗に無視して続けた。
「別に隠す必要なんて無いだろうが」
「だからって…お前!」
「それとも…既に身内扱いしてるアキトを相手に、いつまでもお前らの好みを秘密にする気だったのか?それを知った時にアキトがどう思うか、考えた事はあるのか?」
呆れたような口調でそう続けたハルに、さっきまで怒りを露わにしていた二人はうっと呻き声を上げた。
ああ、ハルはそんな風に考えて、俺に二人の好みをばらしてくれたのか。
「ちなみにアキトは二人が甘い物が好きだって話を聞いて、別に隠さなくて良いのにって言ってたぞ?」
ハルは俺に視線を向けると、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。もう大丈夫だよと安心させるような笑顔だった。
「アキト…えっと、ハルの話してた事は、本当か…?」
「はい、本当です!」
レーブンさんの質問に即答すれば、ローガンさんは俺をじっと見つめてから口を開いた。
「アキトは、この強面とこの図体で甘い物が好きだってのは…似合わないとか…恥ずかしいとか思わないのか?」
俺は慌てて首を振った。
「好きなものを好きって言って何が悪いんですか?美味しいと感じるものは人それぞれでしょう?」
似合うとか似合わないとか気にしなくて良いと思うんですと一生懸命主張すれば、二人は安心した様子でホッと息を吐いた。
この反応はもしかして似合わないなんて馬鹿にされた事があるのかな。きっと、あるんだろうな。食の好みなんて本人が美味しければそれで良いと俺は思うんだけど、そういう事を気にする人も何故かいるんだよなぁ。
「そうか…そうだな」
「ありがとうな、アキト」
「いえ。このケーキ、ハルがお勧めしてくれたんです」
そっと箱を開けて中を見せれば、そこには淡いピンク色の生地に白いアイシングが施された何とも可愛らしいケーキが見えた。
「リコーヴェ菓子店のリコーヴェだな」
「ああ、かなり久しぶりだな」
「リコーヴェ菓子店の…リコーヴェ?」
思わず尋ねた俺に、レーブンさんとローガンさんが笑って教えてくれた。
「そう、リコーヴェだ。これは店名がそのままケーキの名前になってるんだ」
「中身は糖度の高い果物の果汁を使ってるからかなり甘いんだが、薄く切って食べれば誰でも楽しめる味だ」
「そうなんですか」
「うまいからアキトも一緒に食べような」
「はい!」
最初はどうなる事かと思ったけど、無事に差し入れも喜んでもらえたみたいで良かった。さすがハルだなと考えながら、俺は目の前にさっと差し出された料理を取り皿へと移した。
「あ、それはこっちの酒が合うんだが、アキトもどうだ?」
「いただきまーす!」
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