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675.四人の食事会
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「よし、それじゃあ好きなのから食べ始めてくれ」
「二人とも一切遠慮はしなくて良いからな。もし気に入ったのがあれば、ぜひ教えてくれ」
取り皿を並べながらそう声をかけてくれたレーブンさんとローガンさんに、俺とハルはぺちりと両手を合わせた。
「「いただきまーす」」
そうして、四人だけでの食事会が始まった。
テーブルに並んだ料理を見た時からそうなるだろうなと薄々予想はしていたけれど、あまりの美味しさに俺の語彙力はあっさりと仕事を放棄して旅立ってしまった。
「これ美味しいです」
「おお、そうか。それは前までは塩だけで味付けしてたんだが、今回はちょっと味付けを変えてみたんだ」
そう笑顔で教えてくれたレーブンさんの隣で、ローガンさんは真剣な表情でもぐもぎと口を動かしている。ごくんと飲み込むなり、嬉しそうに頷いた。
「うん、これは…北国でしか採れないレルの果実を使ってるのか」
「ローガン、分かったのか…?さすがだな」
隠し味程度にほんの少し足しただけなのにと、レーブンさんは誉め言葉を口にしながらも何故か少しだけ悔しそうだ。
「隠し味だから気づかれたくないんだと思うよ」
ハルがこそりと耳元でそう教えてくれたんだけど、そういうものなんだろうか。この二人に張り合えるような料理人じゃないからから、俺にはその気持ちはよく分からないな。
「レーブン、こっちも今日は味を変えてあるんだが、何を足したか分かるか?」
「なんだ、挑戦するのか?もちろん受けてたつぞ」
気づけばレーブンさんとローガンさんは、お互いの料理の隠し味を言い当てる勝負を始めている。料理を口に運びながら真剣な表情で考え込んでるけど、二人とも不思議と生き生きしてるんだよね。
本当に仲良しなんだなぁ。
「アキト、これも美味しいよ」
ハルに勧められた澄み切ったスープを何げなく口にすれば、野菜の濃縮された旨味が一気に口内に広がった。
「うん、すごく美味しい!」
木製のコップの中にあるのは透き通ったスープだけで、具材は一切入っていない。でもこの味からして、たっぷりの野菜をじっくり煮込んであるんだろうなと想像はついた。
「野菜の旨味が濃い!」
「ああ、それはこれからまだ改良して合う具材を探すつもりなんだが、スープだけでも口に合ったか」
良かったと口にしたローガンさんに、俺とハルはこくこくと頷いた。コップの中身がなくなるまで、口が離せなかったから頷くぐらいしか出来なかったんだよね。ハルも同じ反応だったあたり、このスープの美味しさが伝わると思う。
「どれどれ…む…確かにこれは深みのある味だな…うん、美味い」
レーブンさんがじっくりと味わってからぼそりと感想を言えば、ローガンさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「俺はステーキをもらうぞ」
「何でも食えって言っただろ?」
苦笑するローガンさんに見つめられながら、ハルはステーキを食べ始めた。もぐもぐと口を動かすハルのこの幸せそうな表情、いつまででも眺めていられるな。
「うん、やっぱり美味いな」
「そうだろう?これは味付けは変えなかったんだ」
「その方が嬉しい、が……」
「が?」
「酒が欲しい」
ぽつりと呟いたハルに、レーブンさんとローガンさんは顔を見合わせると慌てて立ち上がった。
「何か忘れてると思ったら、酒の用意を忘れてたな!」
「……俺達は料理の事になるとこれだから!」
申し訳なさそうにしながら、レーブンさんはワゴンからお酒を取り出し始めた。受け取った酒を、ローガンさんは慣れた様子でテーブルの空いた所に並べていく。
共同作業で並べられていくお酒を、俺はただ呆然と見つめていた。
大きさも素材も色もバラバラのたくさんの酒瓶の隣には、こぶりな樽や竹のような不思議な容器に入ったものまでがずらりと並んでいく。
えっと、これ――全部お酒なの?こんなにたくさん飲むんだろうか。
「それとこれは忘れちゃいけない。アキトの土産でもらった北ノールの酒だ!」
「おお、本当に北ノールの酒だな」
珍しい酒だとワクワクした様子のローガンさんに、レーブンさんは笑顔でチーズとナッツの入った袋を差し出した。
「これもな」
「これは…チーズと木の実…か?」
身長も高くて筋肉質な二人が顔を寄せ合って布製の袋を覗いている姿は、なんだかやけに可愛く見える。
「北ノールではこういう乾燥させた木の実やチーズをつまみにするんだと」
「へぇ、それは初めて知ったが…面白いな」
俺のお土産の瓶を取り出して、似たもの兄弟の二人は嬉しそうに笑い合う。
「あ、これ、ローガンさんへのお土産です」
今がチャンスだと、俺は慌てて魔導収納鞄に手を入れた。取り出したのはレーブンさんが持っているのと全く同じ瓶と袋だ。実はローガンさんにもお土産買ってたんだよね。
「は?俺にもあるのか?…本当に貰って良いのか…?」
「もちろんです。ローガンさんのために買ったので」
「大事に飲む。ありがとう」
「二人とも一切遠慮はしなくて良いからな。もし気に入ったのがあれば、ぜひ教えてくれ」
取り皿を並べながらそう声をかけてくれたレーブンさんとローガンさんに、俺とハルはぺちりと両手を合わせた。
「「いただきまーす」」
そうして、四人だけでの食事会が始まった。
テーブルに並んだ料理を見た時からそうなるだろうなと薄々予想はしていたけれど、あまりの美味しさに俺の語彙力はあっさりと仕事を放棄して旅立ってしまった。
「これ美味しいです」
「おお、そうか。それは前までは塩だけで味付けしてたんだが、今回はちょっと味付けを変えてみたんだ」
そう笑顔で教えてくれたレーブンさんの隣で、ローガンさんは真剣な表情でもぐもぎと口を動かしている。ごくんと飲み込むなり、嬉しそうに頷いた。
「うん、これは…北国でしか採れないレルの果実を使ってるのか」
「ローガン、分かったのか…?さすがだな」
隠し味程度にほんの少し足しただけなのにと、レーブンさんは誉め言葉を口にしながらも何故か少しだけ悔しそうだ。
「隠し味だから気づかれたくないんだと思うよ」
ハルがこそりと耳元でそう教えてくれたんだけど、そういうものなんだろうか。この二人に張り合えるような料理人じゃないからから、俺にはその気持ちはよく分からないな。
「レーブン、こっちも今日は味を変えてあるんだが、何を足したか分かるか?」
「なんだ、挑戦するのか?もちろん受けてたつぞ」
気づけばレーブンさんとローガンさんは、お互いの料理の隠し味を言い当てる勝負を始めている。料理を口に運びながら真剣な表情で考え込んでるけど、二人とも不思議と生き生きしてるんだよね。
本当に仲良しなんだなぁ。
「アキト、これも美味しいよ」
ハルに勧められた澄み切ったスープを何げなく口にすれば、野菜の濃縮された旨味が一気に口内に広がった。
「うん、すごく美味しい!」
木製のコップの中にあるのは透き通ったスープだけで、具材は一切入っていない。でもこの味からして、たっぷりの野菜をじっくり煮込んであるんだろうなと想像はついた。
「野菜の旨味が濃い!」
「ああ、それはこれからまだ改良して合う具材を探すつもりなんだが、スープだけでも口に合ったか」
良かったと口にしたローガンさんに、俺とハルはこくこくと頷いた。コップの中身がなくなるまで、口が離せなかったから頷くぐらいしか出来なかったんだよね。ハルも同じ反応だったあたり、このスープの美味しさが伝わると思う。
「どれどれ…む…確かにこれは深みのある味だな…うん、美味い」
レーブンさんがじっくりと味わってからぼそりと感想を言えば、ローガンさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「俺はステーキをもらうぞ」
「何でも食えって言っただろ?」
苦笑するローガンさんに見つめられながら、ハルはステーキを食べ始めた。もぐもぐと口を動かすハルのこの幸せそうな表情、いつまででも眺めていられるな。
「うん、やっぱり美味いな」
「そうだろう?これは味付けは変えなかったんだ」
「その方が嬉しい、が……」
「が?」
「酒が欲しい」
ぽつりと呟いたハルに、レーブンさんとローガンさんは顔を見合わせると慌てて立ち上がった。
「何か忘れてると思ったら、酒の用意を忘れてたな!」
「……俺達は料理の事になるとこれだから!」
申し訳なさそうにしながら、レーブンさんはワゴンからお酒を取り出し始めた。受け取った酒を、ローガンさんは慣れた様子でテーブルの空いた所に並べていく。
共同作業で並べられていくお酒を、俺はただ呆然と見つめていた。
大きさも素材も色もバラバラのたくさんの酒瓶の隣には、こぶりな樽や竹のような不思議な容器に入ったものまでがずらりと並んでいく。
えっと、これ――全部お酒なの?こんなにたくさん飲むんだろうか。
「それとこれは忘れちゃいけない。アキトの土産でもらった北ノールの酒だ!」
「おお、本当に北ノールの酒だな」
珍しい酒だとワクワクした様子のローガンさんに、レーブンさんは笑顔でチーズとナッツの入った袋を差し出した。
「これもな」
「これは…チーズと木の実…か?」
身長も高くて筋肉質な二人が顔を寄せ合って布製の袋を覗いている姿は、なんだかやけに可愛く見える。
「北ノールではこういう乾燥させた木の実やチーズをつまみにするんだと」
「へぇ、それは初めて知ったが…面白いな」
俺のお土産の瓶を取り出して、似たもの兄弟の二人は嬉しそうに笑い合う。
「あ、これ、ローガンさんへのお土産です」
今がチャンスだと、俺は慌てて魔導収納鞄に手を入れた。取り出したのはレーブンさんが持っているのと全く同じ瓶と袋だ。実はローガンさんにもお土産買ってたんだよね。
「は?俺にもあるのか?…本当に貰って良いのか…?」
「もちろんです。ローガンさんのために買ったので」
「大事に飲む。ありがとう」
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