生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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669.【ハル視点】大通りから黒鷹亭へ

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 この辺りの路地は、下手をすると大通りを使うよりも逆に遠回りになる可能性がある。だからこそ大通りで帰る事を提案したんだが、大通りに入ってからアキトの様子が何だかおかしい。

 キョロキョロと道行く人や周りのお店を見回していたと思ったら、不意にぼんやりと何かを考えこんだりする。

 俺と手を繋いだまま歩き続けてはいるんだが、何か考え事でもしているんだろうか。

 それだけなら声はかけずに様子を見ようかと思っていたんだが、じっと俺を見上げてくる視線に気づいてしまえば黙ってはいられなくなった。

「アキト、どうかした?」

 その様子からして別に大通りを嫌っているとか、この道を通りたくないってわけじゃないと思うんだが。それでも何かあるのかとすこし心配しながら尋ねれば、アキトはすぐに明るい笑みを浮かべてブンブンと首を振った。

「ううん、久しぶりにトライプールの大通りを歩いてる気がするなーって思ってただけだよ」

 アキトはさらりとそう説明してくれたが、絶対にそれだけじゃないよな。もしそうならあんな風に考え込んだりはしないだろう。

 まあ深刻な話じゃないからこそ、誤魔化したいのかもしれないな。それなら誤魔化されておこうかと俺も口を開いた。

「ああ、確かに大通りを歩くのは久しぶりだな。…へぇ、こうやってみるといくつか店も入れ替わってるんだな」

 店の並びを観察しながらそう呟けば、アキトは驚いた様子で俺の方を見た。

「え、かわってる?」
「うん、こうやってのんびり歩きながら店を見るなんて久しぶりだから、前に通った時は気づいてなかっただけかもしれないけどね」

 ちなみにあそこにある装飾品の店は、以前は香水を取り扱ってたんだよと教えれば、アキトは興味深そうに目を輝かせた。

 うん、特に無理しているような様子は無いな。そんな事をこっそりと確認しながら、俺はアキトに大通りの店についての説明を続けた。



「おう、おかえり。アキト、ハル」

 夕陽に照らされた黒鷹亭の扉をくぐれば、ちょうど受付にいたレーブンがすぐに俺たちにむかって声をかけてくる。

「レーブンさん、ただいま帰りました」
「ただいま」

 普通に挨拶を返しながらも、俺の視線はレーブンの後ろの棚辺りにしゃがみ込んでいる男に釘付けだった。

 黒鷹亭の受付の中に、レーブン以外の人がいるのを初めて見たな。

 さて見覚えの無いこいつは一体誰だろうと考えた瞬間、男はすっと立ち上がりクルリと俺達の方を振り返った。手には木箱を持っているから、おそらくあれを取り出していたんだろう。

「あ、いらっしゃい」

 ニカッと笑ってみせた長身の男の顔には、見覚えがあった。

 この男は宿泊客の冒険者の中の一人だろう。黒鷹亭の食堂でアキトに向かってにっこりと笑ったレーブンを、大きく目を見開いて見つめていたあの冒険者達の中にいた筈だ。

 そこまで分かれば、もう答えは出たも同然だな。

「ああ、こいつはルタス。うちに宿泊してる奴なんだが、たまにここの受付を手伝ってもらってるんだ」

 やっぱりそうか。予想通りだな。そしてこいつが今日のレーブンの依頼を受けた奴なんだろう。

「ほら、昨日言ってた、今夜の受付をまかせるって依頼を受けてくれる冒険者だよ」

 依頼を受ける冒険者ならそこにいても不思議は無いな。

「よう、初めまして。俺は前衛、斧使いのルタスだ。よろしくな」
「よろしくお願いします。俺はアキト、後衛で魔法使いの冒険者です」

 ニカッと明るく笑ったルタスという男の自己紹介に、アキトはふわりと柔らかい笑みを浮かべて答えた。

 普段のアキトの自己紹介よりも数段愛想が良い気がするのは、おそらくレーブンの紹介だからなんだろうな。頭ではそう理解できるんだが、相手がどんな奴かもまだよく分からないのに、そんな可愛い笑顔を見せないで欲しい。

 もしアキトの可愛さにそういう意味で興味を持たれたらどうするんだ。

 さすがにそんな事を口にしないだけの理性はあるから、俺は代わりにとくいっとアキトの手を引いた。すこしの抵抗もせずにもたれかかってきたアキトの肩を、そっと抱きこんでから口を開く。

「俺はハル。前衛で戦士、あとこのアキトの伴侶候補だ」

 手は出すなよと明らかに牽制を含んだ俺の冷たい声に、ルタスはただ苦笑を浮かべただけだった。

「あーアキトとハルな。ちなみにハル、牽制しなくても俺は既に愛しい伴侶がいるからな?何なら可愛い子どもも二人いる」
「そうなのか…?」
「ああ、嘘だと思うならレーブンさんに聞いてくれ」

 言われなくても確認はするもらうつもりだった俺は、ちらりとレーブンに視線を向けた。

「おいハル、視線だけで確認するな」

 苦笑してそんな文句を言いつつも、レーブンはあっさりと答えてくれた。

「本当だよ、俺が保証する」

 レーブンが保証するとまで言うなら、本当なんだろう。俺はそこでようやくふうと息を吐いた。

「そうか…悪かったな」
「いや、まあ気にするな。気持ちは分かる。俺も俺の伴侶に気があるかもって思ったら、とりあえず牽制するからなー」

 笑ってそう続けたルタスも、クリスや俺と同じくらい伴侶を大事にしている人らしい。
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