生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
660 / 1,179

659.ローガンさんの特技

しおりを挟む
「レーブン、俺も返しておくよ」
「ああ、確かに受け取った」

 手のひらに載せられた二つの真っ青な丸い石を小袋に入れると、レーブンさんは大事そうにポケットへとしまいこんだ。さっきもそのポケットからスプーンが出てきてたから、多分魔道収納の機能付きポケットなんだろうな。

「ハルとアキトも、待たせてすまなかったな」

 申し訳なさろうに眉を下げながら、ローガンさんは俺達の方へと向き直った。

「いや、俺は別に大丈夫だ」
「俺も全く気にしてません。レーブンさんとのんびり喋れたなーぐらいの気持ちですから」

 素直な今の気持ちを伝えれば、ローガンさんはようやく笑みを浮かべてくれた。

 二人並んでもそこまで顔は似てないんだけど、笑うとやっぱり笑顔が似てるな。

「それにしても、お前が遅くなるなんて珍しいよな」
「何か…あったのか?」
「ああ、成り行きで衛兵の手伝いをする事になってな」

 さらりと答えたローガンさんの返事は、予想外のものだった。

「は?衛兵の手伝いをしてたのか?」

 怪訝そうな顔で不思議そうに尋ねたレーブンさんに、ローガンさんはあっさりと頷いてみせた。

「あーまず前提として、今日手配中の盗賊が街中に出たって通報があったらしいんだが、それは知ってるか?」
「ああ、もし怪しいのが宿に来たらぜひ教えて欲しい――って衛兵が言いに来たな」

 レーブンさんによれば、衛兵さんがそうやって近くの店や宿の店主に声をかけて回るのは普通にある事らしい。店主側も事前に知っていれば警戒ができるからと、衛兵を歓迎して協力するのが普通なんだって。

「あ、俺達も買い物帰りに路地を通ろうとしたら閉鎖中だって言われて、迂回して帰ってきました。ね、ハル」
「ああ、他の路地も混みそうだったから道を選んで帰ってきたんだ」

 盗賊がいたって通報があったんだって衛兵さんは言ってたから、多分それだよね。

「ああ、皆知ってたなら話が早いな」
「その盗賊関係で何かあったって事か?」
「ああ、近道をしようとたまたま裏道を歩いていたら、空き家の中から会話が聞こえてな」

 ああ、なるほど。その空き家の窓が開いてたりして、そこから声が漏れ聞こえてたのか。

 そんな場面に遭遇するローガンさんの運もすごいけど、会話だけで盗賊だって分かったのもすごい事だよね。推理力?洞察力?が優れてるのかな。

「ちなみにそれって…どんな会話だったんだ?」

 ハルは興味深そうにそう尋ねた。確かに盗賊の会話なんて想像もつかないよね。

「トライプールの衛兵は質が高いと言われてたが、ここまで厄介だとはと言ってたな。あと頭、これからどうしますか?ってな」
「あー…それは結構微妙だな。頭呼びは職人でもする奴がいるからな」

 ハルはそう言うと、よく通報したなとローガンさんを褒めていた。

「ああ、そいつが盗賊だと断言はできなかったが、少なくとも衛兵を厄介だと言う奴なら何かやましい事はあるだろうと考えたんだ。それにトライプールの衛兵は例え誤報であっても文句は言わないからな」
「ああ、なるほど」
「それは遅れても仕方ないな」
「そいつらは無事に捕まったのか?」
「ああ、もちろん!全員捕まったぞ」

 自慢げに胸を張って答えたローガンさんに、俺達は三人揃ってパチパチと拍手を送った。

「でも迂闊な人で良かったですね」
「ん?迂闊?」
「だって空き家の中から声が聞こえたって事は、窓を閉め忘れてたりしてたって事ですよね?」

 何気なく口にしたその一言に、レーブンさんとローガンさんは顔を見合わせた。

「あー…アキト、多分窓はしっかりしまってたと思うよ」

 ハルは何故か言い難そうにしながらもそう教えてくれたけど、さすがにそれは無いと思う。裏道から戸締りがしっかりされた室内の声なんて、どう考えても聞こえないだろう。

 そう思ったんだけどね。

「そういえば、アキトには言って無かった…か?」
「言って無かったって…何がですか?」
「俺は生まれつき耳が良いんだよ。裏路地から戸締りされた部屋の中の会話が聞こえるぐらいにはな」

 大人になってからは制御も出来るようになったから常にって訳じゃないぞと、ローガンさんは笑って続けた。

「あの時は衛兵がバタバタしてるのが気になって、自然と耳を澄ませていたから気づいたんだ」

 そう言えばハルと一緒に白狼亭に行った時、ハルが喋ってる声を聞いてローガンさんはすぐに厨房から出てきてくれたんだったな。

 なるほど、耳が良いから気づかれたのか。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...