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659.ローガンさんの特技

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「レーブン、俺も返しておくよ」
「ああ、確かに受け取った」

 手のひらに載せられた二つの真っ青な丸い石を小袋に入れると、レーブンさんは大事そうにポケットへとしまいこんだ。さっきもそのポケットからスプーンが出てきてたから、多分魔道収納の機能付きポケットなんだろうな。

「ハルとアキトも、待たせてすまなかったな」

 申し訳なさろうに眉を下げながら、ローガンさんは俺達の方へと向き直った。

「いや、俺は別に大丈夫だ」
「俺も全く気にしてません。レーブンさんとのんびり喋れたなーぐらいの気持ちですから」

 素直な今の気持ちを伝えれば、ローガンさんはようやく笑みを浮かべてくれた。

 二人並んでもそこまで顔は似てないんだけど、笑うとやっぱり笑顔が似てるな。

「それにしても、お前が遅くなるなんて珍しいよな」
「何か…あったのか?」
「ああ、成り行きで衛兵の手伝いをする事になってな」

 さらりと答えたローガンさんの返事は、予想外のものだった。

「は?衛兵の手伝いをしてたのか?」

 怪訝そうな顔で不思議そうに尋ねたレーブンさんに、ローガンさんはあっさりと頷いてみせた。

「あーまず前提として、今日手配中の盗賊が街中に出たって通報があったらしいんだが、それは知ってるか?」
「ああ、もし怪しいのが宿に来たらぜひ教えて欲しい――って衛兵が言いに来たな」

 レーブンさんによれば、衛兵さんがそうやって近くの店や宿の店主に声をかけて回るのは普通にある事らしい。店主側も事前に知っていれば警戒ができるからと、衛兵を歓迎して協力するのが普通なんだって。

「あ、俺達も買い物帰りに路地を通ろうとしたら閉鎖中だって言われて、迂回して帰ってきました。ね、ハル」
「ああ、他の路地も混みそうだったから道を選んで帰ってきたんだ」

 盗賊がいたって通報があったんだって衛兵さんは言ってたから、多分それだよね。

「ああ、皆知ってたなら話が早いな」
「その盗賊関係で何かあったって事か?」
「ああ、近道をしようとたまたま裏道を歩いていたら、空き家の中から会話が聞こえてな」

 ああ、なるほど。その空き家の窓が開いてたりして、そこから声が漏れ聞こえてたのか。

 そんな場面に遭遇するローガンさんの運もすごいけど、会話だけで盗賊だって分かったのもすごい事だよね。推理力?洞察力?が優れてるのかな。

「ちなみにそれって…どんな会話だったんだ?」

 ハルは興味深そうにそう尋ねた。確かに盗賊の会話なんて想像もつかないよね。

「トライプールの衛兵は質が高いと言われてたが、ここまで厄介だとはと言ってたな。あと頭、これからどうしますか?ってな」
「あー…それは結構微妙だな。頭呼びは職人でもする奴がいるからな」

 ハルはそう言うと、よく通報したなとローガンさんを褒めていた。

「ああ、そいつが盗賊だと断言はできなかったが、少なくとも衛兵を厄介だと言う奴なら何かやましい事はあるだろうと考えたんだ。それにトライプールの衛兵は例え誤報であっても文句は言わないからな」
「ああ、なるほど」
「それは遅れても仕方ないな」
「そいつらは無事に捕まったのか?」
「ああ、もちろん!全員捕まったぞ」

 自慢げに胸を張って答えたローガンさんに、俺達は三人揃ってパチパチと拍手を送った。

「でも迂闊な人で良かったですね」
「ん?迂闊?」
「だって空き家の中から声が聞こえたって事は、窓を閉め忘れてたりしてたって事ですよね?」

 何気なく口にしたその一言に、レーブンさんとローガンさんは顔を見合わせた。

「あー…アキト、多分窓はしっかりしまってたと思うよ」

 ハルは何故か言い難そうにしながらもそう教えてくれたけど、さすがにそれは無いと思う。裏道から戸締りがしっかりされた室内の声なんて、どう考えても聞こえないだろう。

 そう思ったんだけどね。

「そういえば、アキトには言って無かった…か?」
「言って無かったって…何がですか?」
「俺は生まれつき耳が良いんだよ。裏路地から戸締りされた部屋の中の会話が聞こえるぐらいにはな」

 大人になってからは制御も出来るようになったから常にって訳じゃないぞと、ローガンさんは笑って続けた。

「あの時は衛兵がバタバタしてるのが気になって、自然と耳を澄ませていたから気づいたんだ」

 そう言えばハルと一緒に白狼亭に行った時、ハルが喋ってる声を聞いてローガンさんはすぐに厨房から出てきてくれたんだったな。

 なるほど、耳が良いから気づかれたのか。
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