生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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658.海色の宝石みたいな

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「それにしても、ローガンのやつ今日はやけに遅いな」

 レーブンさんはそう言いながら、壁に掛けてある魔道具をちらりと見上げた。

 釣られて視線を向けてみれば、そこには時間が分かる魔道具がかけられていた。まさに壁掛け時計みたいなタイプのあの魔道具だ。

 レーブンさんんとあれこれ話してたから全く気づいてなかったけど、どうやらもう待ち合わせ時間はとっくに過ぎているみたいだ。

「ああ、本当だな」
「そろそろ来ても良い頃なんだが…あいつはいつも時間よりも早く来るから珍しいな」

 何かあったかなと、レーブンさんはぽつりとそう呟いた。

「俺が探しに行って来ようか?」

 すぐにハルがそう提案したけど、レーブンさんは少し考えてからフルフルと首を振った。

「いや、どこの道を通るかも分からないからすれ違いになりそうだし…ここで待ってた方が良いだろうな」

 冷静にそう断言してのけたレーブンさんは、次の瞬間ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「それにローガンは間違いなく強いからな、もし何かが起きていて巻き込まれていたとしても…何の心配もいらないさ」

 ああ、レーブンさんはローガンさんの事を信頼してるんだな。

「まあ確かに、ローガンだからなぁ…街中で危険も何も無いか」

 ハルも納得顔で頷くとさらりとそんな事を口にしたから、どうやらハルから見てもローガンさんはかなり強い人らしい。それなら俺もあまり気にせずに待ってようかな。

「まあ…とりあえずあいつが来るまでは茶でも飲んでようか」
「ああ、そうだな」
「いただきます」



 そうして温かいお茶を飲みながらのんびりと話していると、不意にガチャリと部屋の扉が開いた。

 ノックも何も無くあまりに唐突に扉が開いたから実は俺は結構びっくりしたんだけど、ハルとレーブンさんはやっと来たかと言いたげに扉の方へと視線を向けている。

「すまん、遅れた」
「おう、遅かったな」
「あー…うん、色々あってな…」

 疲れた顔で軽く片手を上げたローガンさんに、レーブンさんも軽い調子で手をあげて応えている。こういう何気ない気安いやり取りから、本当に兄弟なんだなって実感するな。

 ローガンさんはそのままレーブンさんに近づくと、手に載せていた真っ青な丸い石のようなものをぐいっと差し出した。

「レーブン、返す」

 あのまるで海を切り取ったみたいな、綺麗な色の丸い石は一体何だろう?

 気になって思わずまじまじと見つめてしまっていたら、俺の視線の先に気づいたハルがすぐに耳元で説明してくれた。うーん、さすがハル。助かります。

 ハルによるとレーブンさんの私室だと言うこの部屋には、高度な防音の結界と侵入禁止の結界が同時にかけられるようになっているらしい。普通は騎士団とか公共の設備、または貴族の邸宅とかにしかないレベルのものすごく高度なものなんだって。

 ただこれを使うと外の声も物音も一切聞こえなくなるから、普段は仕事に支障をきたすからってあまり使わないらしい。

「えっと…防音結界って俺たちの部屋のとは違うの?」

 鍵をかければ張られる防音結界は、ハルから見ても高度な物だって言ってた筈だ。

「ああ、あれも生活音とか物音は防げるけど、さすがに爆発音とかは聞こえるからね」

 ハルはにこやかな笑顔でそう教えてくれたけど、爆発音って…かなり物騒だね。

 しかもそれをわざわざ話題に出したって事は、つまりこの部屋の防音結界は爆発音すら防げるってことだよね。

「すごい」

 語彙力の無くなった俺に、ハルはふふと笑って続けた。

「あの石はその二重の結界を通り抜けるための鍵、いわば許可証みたいなものなんだ」
「へー許可証かぁ!」
「魔道具と対になってるから、他の防音結界にはもちろん効かないんだけどね。ああ、俺も一応預かってはいたんだよ」

 そう言いながら、ハルは海のような色をした丸い石を取り出して見せてくれた。

「すごく綺麗だけど、普通の宝石みたいに見えるね」
「ああ、多分そう思わせるためにあえて宝石みたいに加工してあるんだろうな」

 もし紛失しても悪用されないため…とかなのかな。

「ハル、見せてくれてありがとう」
「もう良いのか?」
「うん、満足したよ」
「そうか、じゃあ俺も返しておこう」

 ハルは丸い石を指先でつまんだまま、レーブンさんの方へと近づいて行った。
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