652 / 1,179
651.セスミアの旅行記
しおりを挟む
「もし他にもご希望の本があれば、お聞かせくださいね」
いつの間にか取り出したこぶりな手帳に魔道具のペンでさらさらと記入しながら、ジェイデンさんは俺の方へちらりと視線を向けた。うーん、明らかに仕事ができる頼れる人って感じだな。あと執事っぽい。
えっと、他って言うと…。あ、一冊だけ思いついたな。
「あの、前に買わせてもらった旅行記、まるでそこを旅してる気分になれてすごく楽しかったんです。もしああいう雰囲気の本が、他にもあれば…ぜひ欲しいです」
セスミアの旅行記って名前だから最初はセスミアさんって人が書いた本だと思ってたから、まさかのセスとミアっていう姉弟が書いた本だっって知った時はびっくりしたなぁ。
でもこれがね、読めば読むほど楽しい本だったんだ。
本の中で説明されてる場所はほとんどが行った事が無い場所だったけど、風景から食べ物までしっかりと文章や絵で説明されてるから、本当にそこを旅してる気分になれるんだよ。
実際に行ってみたいなーって思った場所もいくつかできたんだ。いつかハルと一緒に行けたら良いなと密かに考えてる。
あと、たまーに混ざる姉弟らしいエピソードも面白かったな。文章を読んでるだけでも本当に仲が良いんだなって伝わってくるぐらい仲良しなのに、美味しかった料理の最後の一口を奪い合って真剣勝負してたりするんだよ。
まあ真剣勝負って言っても、勝負の内容はカードゲームとかコイントスとかあくまで平和なものなんだけどね。だからこそ、そんなゲームに真剣に取り組む二人の鬼気迫るやり取りが、面白くてたまらなかった。
まさか旅行記を読んで、あんなに笑うとは思わなかったよ。
あ、あとトライプールについての説明があったのも地味に嬉しかったな。あ、ここ知ってる!って場所が本の中に出てくると、不思議と嬉しいもんだよね。
「なるほど。気に入って頂けたようで幸いです」
あれはジェイデンさんがお勧めしてくれてなかったら、きっと出会えてない本だ。
「はい、あれは本当にお気に入りの本です、ありがとうございました」
「いえ、とんでもない」
ふわりと笑ったジェイデンさんは、手帳をパラパラとめくりながら口を開いた。
「アキト様にお買い求め頂いたのは、セスミアの旅行記で間違いないでしょうか?」
「はい」
もしかしたらその手帳に、誰が何を買ったかまで書かれてるのかな。いやでも例えメモがあっても、たくさんのお客さんの情報がその一冊に書いてあったら、そのページに辿り着くのも難しそうな気がするな。
「それならちょうど、セスミア旅行記の続編が入荷しておりますがいかがでしょうか?」
「え、本当ですか?」
いや、こんなに頼れる店員さんが、こんなタイミングで嘘を吐くわけないよね。絶対ないって分かってるのに、咄嗟に口から出ちゃったんだよ。
ジェイデンさんは慌てる俺に呆れるでもなく、すぐに穏やかな笑顔で頷いてくれた。ううん、優しい。
「ではこちらもお持ちしますね」
「はい、お願いします!」
他には何かありますかと聞いてくれたけど、とりあえずはそのぐらいかな。持ってきてくれる料理本も、何冊気に入るか分からないからね。
「とりあえずそれでお願いします」
「かしこまりました」
ジェイデンさんは手帳をちらりと見てから、今度はハルに視線を向けた。
「ハル様」
「なんだ?」
「もし私が担当をさせて頂いてもよろしければ、ハル様にも本をお持ち致しますが…いかがでしょうか?」
ハルは少しだけ考えてから、笑顔で頷いた。
「ああ、じゃあ頼もうかな」
「ハル様はどういった本がご入用でしょうか?」
「そうだな…最新の魔物研究の本の中から、信頼に足ると思うものを何冊か頼めるか」
「私の主観でよろしいでしょうか?」
「ああ、まかせる」
へぇ、魔物研究の本か。そんなのもあるんだね。しかも最新のって事は、他にもいっぱい種類があるって事だよね。さすが異世界だな。
そんな事を考えながら何げなくハルの方を見れば、もし興味があればアキトも読んでみてねと柔らかい笑みが降ってきた。
う、隣合わせでソファに腰かけているせいで、全く回避できなかった。
この至近距離で浴びるハルの王子様笑顔に、頬が熱くなっていく。
「アキト、どうかしたの?」
不思議そうなハルに、俺は視線を反らしながら答えた。
「何でもない」
ハルの顔が格好良すぎるせいですとは言えなかった。
いつの間にか取り出したこぶりな手帳に魔道具のペンでさらさらと記入しながら、ジェイデンさんは俺の方へちらりと視線を向けた。うーん、明らかに仕事ができる頼れる人って感じだな。あと執事っぽい。
えっと、他って言うと…。あ、一冊だけ思いついたな。
「あの、前に買わせてもらった旅行記、まるでそこを旅してる気分になれてすごく楽しかったんです。もしああいう雰囲気の本が、他にもあれば…ぜひ欲しいです」
セスミアの旅行記って名前だから最初はセスミアさんって人が書いた本だと思ってたから、まさかのセスとミアっていう姉弟が書いた本だっって知った時はびっくりしたなぁ。
でもこれがね、読めば読むほど楽しい本だったんだ。
本の中で説明されてる場所はほとんどが行った事が無い場所だったけど、風景から食べ物までしっかりと文章や絵で説明されてるから、本当にそこを旅してる気分になれるんだよ。
実際に行ってみたいなーって思った場所もいくつかできたんだ。いつかハルと一緒に行けたら良いなと密かに考えてる。
あと、たまーに混ざる姉弟らしいエピソードも面白かったな。文章を読んでるだけでも本当に仲が良いんだなって伝わってくるぐらい仲良しなのに、美味しかった料理の最後の一口を奪い合って真剣勝負してたりするんだよ。
まあ真剣勝負って言っても、勝負の内容はカードゲームとかコイントスとかあくまで平和なものなんだけどね。だからこそ、そんなゲームに真剣に取り組む二人の鬼気迫るやり取りが、面白くてたまらなかった。
まさか旅行記を読んで、あんなに笑うとは思わなかったよ。
あ、あとトライプールについての説明があったのも地味に嬉しかったな。あ、ここ知ってる!って場所が本の中に出てくると、不思議と嬉しいもんだよね。
「なるほど。気に入って頂けたようで幸いです」
あれはジェイデンさんがお勧めしてくれてなかったら、きっと出会えてない本だ。
「はい、あれは本当にお気に入りの本です、ありがとうございました」
「いえ、とんでもない」
ふわりと笑ったジェイデンさんは、手帳をパラパラとめくりながら口を開いた。
「アキト様にお買い求め頂いたのは、セスミアの旅行記で間違いないでしょうか?」
「はい」
もしかしたらその手帳に、誰が何を買ったかまで書かれてるのかな。いやでも例えメモがあっても、たくさんのお客さんの情報がその一冊に書いてあったら、そのページに辿り着くのも難しそうな気がするな。
「それならちょうど、セスミア旅行記の続編が入荷しておりますがいかがでしょうか?」
「え、本当ですか?」
いや、こんなに頼れる店員さんが、こんなタイミングで嘘を吐くわけないよね。絶対ないって分かってるのに、咄嗟に口から出ちゃったんだよ。
ジェイデンさんは慌てる俺に呆れるでもなく、すぐに穏やかな笑顔で頷いてくれた。ううん、優しい。
「ではこちらもお持ちしますね」
「はい、お願いします!」
他には何かありますかと聞いてくれたけど、とりあえずはそのぐらいかな。持ってきてくれる料理本も、何冊気に入るか分からないからね。
「とりあえずそれでお願いします」
「かしこまりました」
ジェイデンさんは手帳をちらりと見てから、今度はハルに視線を向けた。
「ハル様」
「なんだ?」
「もし私が担当をさせて頂いてもよろしければ、ハル様にも本をお持ち致しますが…いかがでしょうか?」
ハルは少しだけ考えてから、笑顔で頷いた。
「ああ、じゃあ頼もうかな」
「ハル様はどういった本がご入用でしょうか?」
「そうだな…最新の魔物研究の本の中から、信頼に足ると思うものを何冊か頼めるか」
「私の主観でよろしいでしょうか?」
「ああ、まかせる」
へぇ、魔物研究の本か。そんなのもあるんだね。しかも最新のって事は、他にもいっぱい種類があるって事だよね。さすが異世界だな。
そんな事を考えながら何げなくハルの方を見れば、もし興味があればアキトも読んでみてねと柔らかい笑みが降ってきた。
う、隣合わせでソファに腰かけているせいで、全く回避できなかった。
この至近距離で浴びるハルの王子様笑顔に、頬が熱くなっていく。
「アキト、どうかしたの?」
不思議そうなハルに、俺は視線を反らしながら答えた。
「何でもない」
ハルの顔が格好良すぎるせいですとは言えなかった。
167
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。
るて
BL
僕はシノ。
なんでか異世界に召喚されたみたいです!
でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう
あ、失明したらしいっす
うん。まー、別にいーや。
なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい!
あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘)
目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる