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650.同室か別室か
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「どうぞ私の事はお気になさらずに、納得が行くまでお二人でご相談ください」
ジェイデンさんは穏やかな声でそう言うと、そっと目を伏せた。結論が出るまで口は挟まず、ここで待っててくれるつもりらしい。
俺はちらりと隣に座るハルへと視線を向けた。どうやらハルも同じタイミングで俺の方を見たらしく、かちりと絡み合った視線にどちらからともなく笑みを浮かべる。
さて、どうしようかな?
俺としてはできれば一緒の部屋の方が嬉しい。
前にここに来た時も、この本はお勧めだよとか、この本は読んだ事があるんだけどとか色々教えてくれたのが嬉しかったんだよね。
でももしハルが少しでも嫌だと思うなら、無理はして欲しくない。
俺が一緒の部屋が良いって言ったら、自分がどう思ってても受け入れちゃう気がするんだよね。ハルは優しいから、俺の意思を優先してくれちゃう気がする。
どう聞くのが一番良いのかなー?と考えていたら、答えが出る前にハルが口を開いた。
「アキト、先に俺の意見を言っておくけど、俺は同じ部屋でも全く問題は無いよ」
アキトに知られて困る事なんて何も無いしねと口にしたハルは、でも――と言葉を続けた。
「もしアキトが少しでも嫌だと思うなら、別室にして貰って良いんだからね?ここは信用できる店だから、絶対に一緒にいないと危険だなんて事も無いし。だからどちらでも好きな方を選んで?」
選択肢を俺に委ねてくれたハルは、優しい笑みを浮かべて俺を見つめている。
俺の意見を聞く前のハルがどっちでも良いって言ってくれるなら、俺の答えは決まってる。
「ううん、俺もハルと一緒が良いな。俺もハルに隠しておきたい事なんて無いし、ハルの前でもよく本は読んでたから、俺の好みの本はもう知ってるよね」
だから大丈夫と断言すれば、ハルは笑って頷いた。
「よし、答えは出たね。ジェイデンさん」
「はい」
ハルの呼びかけに、ジェイデンさんはすっと目線を上げた。
「俺達は二人とも同室を選ぶよ」
視線を伏せていたとはいえ、ジェイデンさんはずっとそこにいた。だから聞こえてると思うんだけど、ハルがわざわざ口にするって事はっきりと言うのが大事なのかな。
「同室でお願いします!」
横からそう口を挟めば、ジェイデンさんはかしこまりましたと微笑んでくれた。
「アキト様もハル様も同室希望ということですので、このままこの部屋で対応させて頂きますね」
「はい!」
「ああ」
「それでは改めまして、本日はどのような本をお探しでしょうか?」
あ、やっとその質問が来たな。
「えっと、簡単に作る事ができる家庭料理の本のお勧めって…あったりしますか?」
これは本屋に行くって決まった時から、絶対に聞こうと思ってたんだ。
ハルに料理を作るとは言ったけどさ、俺が知ってるのは居酒屋バイトで教わった料理と、母さんから教わった俺の世界の家庭料理だけなんだよね。
しかもどっちで教わった料理も手早くて安くて美味しいみたいな、料理がそこまで得意じゃない俺でも作れる簡単メニューばっかりだった。
そもそもあのレシピに使われてた調味料が、この世界でも手に入るかどうかも分からないんだよね。野菜も果物も似たような物があったりはするけど、安くて簡単メニューに使われがちなキノコとかもやしとかは全然見かけない。
簡単レシピで重宝する電子レンジも無いからなぁ。
そこでハッと気づいたんだ。どうせならこの世界のレシピ本があれば、ハルに美味しいものを食べて貰えるんじゃないかなーって。
頭に簡単に作る事ができるってつけたのは、自分の腕前を知ってるからだよ。
「家庭料理の本…ですか」
「あの、なければ良いんですけど」
もしかしてレシピ本って概念自体が無いのかと不安になったけれど、ジェイデンさんはいいえと首を振った。
「いくつか候補はございますが…食というのはその方の好みにもよりますから…これがお勧めと言いきれないんです」
ああ、そういう意味か。確かに食の好みは人それぞれだもんな。絞り込んでこれがお勧めって言えるものじゃないか。
「もしよろしければ人気の本を数冊お持ちしますので、ご自身で目を通してお選びいただけますか?」
「じゃあそれでお願いします」
むしろ本を見て選ばせてくれるならちょっと嬉しい。本屋で気になった本をパラパラ見て買う本を選ぶのが、大好きだったもんな。
ジェイデンさんは穏やかな声でそう言うと、そっと目を伏せた。結論が出るまで口は挟まず、ここで待っててくれるつもりらしい。
俺はちらりと隣に座るハルへと視線を向けた。どうやらハルも同じタイミングで俺の方を見たらしく、かちりと絡み合った視線にどちらからともなく笑みを浮かべる。
さて、どうしようかな?
俺としてはできれば一緒の部屋の方が嬉しい。
前にここに来た時も、この本はお勧めだよとか、この本は読んだ事があるんだけどとか色々教えてくれたのが嬉しかったんだよね。
でももしハルが少しでも嫌だと思うなら、無理はして欲しくない。
俺が一緒の部屋が良いって言ったら、自分がどう思ってても受け入れちゃう気がするんだよね。ハルは優しいから、俺の意思を優先してくれちゃう気がする。
どう聞くのが一番良いのかなー?と考えていたら、答えが出る前にハルが口を開いた。
「アキト、先に俺の意見を言っておくけど、俺は同じ部屋でも全く問題は無いよ」
アキトに知られて困る事なんて何も無いしねと口にしたハルは、でも――と言葉を続けた。
「もしアキトが少しでも嫌だと思うなら、別室にして貰って良いんだからね?ここは信用できる店だから、絶対に一緒にいないと危険だなんて事も無いし。だからどちらでも好きな方を選んで?」
選択肢を俺に委ねてくれたハルは、優しい笑みを浮かべて俺を見つめている。
俺の意見を聞く前のハルがどっちでも良いって言ってくれるなら、俺の答えは決まってる。
「ううん、俺もハルと一緒が良いな。俺もハルに隠しておきたい事なんて無いし、ハルの前でもよく本は読んでたから、俺の好みの本はもう知ってるよね」
だから大丈夫と断言すれば、ハルは笑って頷いた。
「よし、答えは出たね。ジェイデンさん」
「はい」
ハルの呼びかけに、ジェイデンさんはすっと目線を上げた。
「俺達は二人とも同室を選ぶよ」
視線を伏せていたとはいえ、ジェイデンさんはずっとそこにいた。だから聞こえてると思うんだけど、ハルがわざわざ口にするって事はっきりと言うのが大事なのかな。
「同室でお願いします!」
横からそう口を挟めば、ジェイデンさんはかしこまりましたと微笑んでくれた。
「アキト様もハル様も同室希望ということですので、このままこの部屋で対応させて頂きますね」
「はい!」
「ああ」
「それでは改めまして、本日はどのような本をお探しでしょうか?」
あ、やっとその質問が来たな。
「えっと、簡単に作る事ができる家庭料理の本のお勧めって…あったりしますか?」
これは本屋に行くって決まった時から、絶対に聞こうと思ってたんだ。
ハルに料理を作るとは言ったけどさ、俺が知ってるのは居酒屋バイトで教わった料理と、母さんから教わった俺の世界の家庭料理だけなんだよね。
しかもどっちで教わった料理も手早くて安くて美味しいみたいな、料理がそこまで得意じゃない俺でも作れる簡単メニューばっかりだった。
そもそもあのレシピに使われてた調味料が、この世界でも手に入るかどうかも分からないんだよね。野菜も果物も似たような物があったりはするけど、安くて簡単メニューに使われがちなキノコとかもやしとかは全然見かけない。
簡単レシピで重宝する電子レンジも無いからなぁ。
そこでハッと気づいたんだ。どうせならこの世界のレシピ本があれば、ハルに美味しいものを食べて貰えるんじゃないかなーって。
頭に簡単に作る事ができるってつけたのは、自分の腕前を知ってるからだよ。
「家庭料理の本…ですか」
「あの、なければ良いんですけど」
もしかしてレシピ本って概念自体が無いのかと不安になったけれど、ジェイデンさんはいいえと首を振った。
「いくつか候補はございますが…食というのはその方の好みにもよりますから…これがお勧めと言いきれないんです」
ああ、そういう意味か。確かに食の好みは人それぞれだもんな。絞り込んでこれがお勧めって言えるものじゃないか。
「もしよろしければ人気の本を数冊お持ちしますので、ご自身で目を通してお選びいただけますか?」
「じゃあそれでお願いします」
むしろ本を見て選ばせてくれるならちょっと嬉しい。本屋で気になった本をパラパラ見て買う本を選ぶのが、大好きだったもんな。
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