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649.応接室へ
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ピシッと背筋を伸ばして歩くジェイデンさんの背中を追って、俺とハルもゆっくりと歩き出した。
ジェイデンさんの案内に従って足を踏み入れたのは、たくさんのドアが並ぶ長い長い廊下だった。
しかもこの廊下の役割は、どうやらただ普通に部屋と部屋を繋いでるだけのものじゃないみたいだ。廊下のあちこちに高級そうな絵画や銅像、謎のアイテムが品よく飾られている。
うーん、本当に美術館みたいだな。
飾られているものについての説明を記入したプレートと、順路と書いてある看板でも設置したら、違和感なく美術館が出来上がりそうな雰囲気だ。
「アキト様、お連れ様。こちらのお部屋です」
不意に立ち止まったジェイデンさんはそう言うと、すぐに鍵を取り出して重厚なドアのかぎを開いてくれた。
恐る恐る足を踏み入れれば、そこは前回通された部屋に負けず劣らずの高級そうな応接室だった。廊下にあったものよりも更に大きなサイズの絵画の前には、座り心地の良さそうなソファと細かい彫刻の施されたテーブルが並んでいる。
部屋が前回よりも広いのは、今回はハルと二人で訪れてるからなのかな。
絵の良し悪しは残念ながら俺には分からないけど、空と海の風景を切り取ったその絵画は圧倒的な存在感を放っていた。写実的なのに、どことなく温かさを感じるちょっと不思議な絵だ。
「綺麗な絵だね」
「ああ、これは見事だな」
背伸びをしてハルの耳元でそう囁けば、ハルもすぐに笑って同意してくれた。
そのまま絵に見入ってしまった俺達を、ジェイデンさんは特に急かしたりはしなかった。自然と俺とハルの視線が絵画から外れるまで待ってから、こちらへどうぞと椅子を勧めてくれたんだ。
「あ、すみません」
「いえ、お気になさらず。気に入って頂けたなら幸いです」
誇らし気な笑みを浮かべたジェイデンさんに、ハルは良い物を見せてもらったよと言葉を返していた。ハルはこういう場所にも慣れてるんだな。返しが一々恰好良い。
「アキト様、お連れ様もご一緒にこちらへどうぞ」
ふかふかした座り心地の椅子に腰を下ろせば、失礼しますと声をかけたジェイデンさんも向かい側にある質素な椅子に腰かけた。
「改めまして、本日はマーゴット商会にご来店頂きありがとうございます。失礼ですが、お連れ様とのご関係を教えて頂けますでしょうか?」
どんな本が欲しいんですかと聞かれるんだろうなと予想して考えを巡らせていた俺は、あまりに予想外の質問についつい固まってしまった。
今日はどんな本を買おうかなーって考えてる所に、不意打ちでされた質問だったから動揺もすると思う。
でも動揺したのは、どうやら俺だけだったらしい。ハルはすこしも慌てず、その質問が来ると知っていたかのように、さらりと答えた。
「ああ、俺はハル。アキトの伴侶候補だ」
ハルはそう言いながら、証拠として伴侶候補の腕輪が見えるように、繋いだままの手をすっと持ち上げた。
あ、街中ではハルと手を繋ぐのがすっかり当たり前になってるから全く気づいてなかったけど、この店に入ってからもずっと手を繋いだままだったな。
うーん。ちょっとだけ恥ずかしいけど、今さら慌てて手を離すのもなんだかちょっと変だよね。それにジェイデンさんは微笑ましげな笑みを浮かべてるから、まあ良いか。
「はい、確かにお二人の伴侶候補の腕輪を確認させて頂きました」
そう口にしたジェイデンさんは、申し訳ないのですがと前置きをしてから俺とハルに向かって尋ねた。
「もう一点だけ確認をさせて頂きたい事があるのですが…」
「はい、なんですか?」
「ああ、どうぞ」
俺とハルが返事をしたのを確認してから、ジェイデンさんは口を開いた。
「お二人はこのまま、同じお部屋で本を選ぶ事を希望されますか?それともそれぞれ個室にご案内する事を希望されますか?」
真剣な表情のジェイデンさんには申し訳ないんだけど、まず質問の意味が分からない。今ここに二人そろって案内されてるのに、なんでそんな事を聞かれるんだろう。
戸惑った俺に気づいたのか、ジェイデンさんはすぐに詳しい説明をしてくれた。
「我がマーゴット商会では、全ての方の同意がない場合には、基本的にそれぞれ別の個室へのご案内となります。どのような本を好んで読むかというのは、繊細な取り扱いを要する情報ですので…」
あーなるほど。確かにその人の本棚を見れば、その人の趣味や思考が想像できてしまうのかもしれない。
まあよっぽど分析力が無いと無理だろうし、俺は別に本棚を覗かれても気にならないけど、それがどうしても嫌だって人もきっといるんだろうな。
そういう人達のプライバシーを守るための、同意が無い場合はっていう規則があるって事か。
異世界の本屋さん、すごいな。
ジェイデンさんの案内に従って足を踏み入れたのは、たくさんのドアが並ぶ長い長い廊下だった。
しかもこの廊下の役割は、どうやらただ普通に部屋と部屋を繋いでるだけのものじゃないみたいだ。廊下のあちこちに高級そうな絵画や銅像、謎のアイテムが品よく飾られている。
うーん、本当に美術館みたいだな。
飾られているものについての説明を記入したプレートと、順路と書いてある看板でも設置したら、違和感なく美術館が出来上がりそうな雰囲気だ。
「アキト様、お連れ様。こちらのお部屋です」
不意に立ち止まったジェイデンさんはそう言うと、すぐに鍵を取り出して重厚なドアのかぎを開いてくれた。
恐る恐る足を踏み入れれば、そこは前回通された部屋に負けず劣らずの高級そうな応接室だった。廊下にあったものよりも更に大きなサイズの絵画の前には、座り心地の良さそうなソファと細かい彫刻の施されたテーブルが並んでいる。
部屋が前回よりも広いのは、今回はハルと二人で訪れてるからなのかな。
絵の良し悪しは残念ながら俺には分からないけど、空と海の風景を切り取ったその絵画は圧倒的な存在感を放っていた。写実的なのに、どことなく温かさを感じるちょっと不思議な絵だ。
「綺麗な絵だね」
「ああ、これは見事だな」
背伸びをしてハルの耳元でそう囁けば、ハルもすぐに笑って同意してくれた。
そのまま絵に見入ってしまった俺達を、ジェイデンさんは特に急かしたりはしなかった。自然と俺とハルの視線が絵画から外れるまで待ってから、こちらへどうぞと椅子を勧めてくれたんだ。
「あ、すみません」
「いえ、お気になさらず。気に入って頂けたなら幸いです」
誇らし気な笑みを浮かべたジェイデンさんに、ハルは良い物を見せてもらったよと言葉を返していた。ハルはこういう場所にも慣れてるんだな。返しが一々恰好良い。
「アキト様、お連れ様もご一緒にこちらへどうぞ」
ふかふかした座り心地の椅子に腰を下ろせば、失礼しますと声をかけたジェイデンさんも向かい側にある質素な椅子に腰かけた。
「改めまして、本日はマーゴット商会にご来店頂きありがとうございます。失礼ですが、お連れ様とのご関係を教えて頂けますでしょうか?」
どんな本が欲しいんですかと聞かれるんだろうなと予想して考えを巡らせていた俺は、あまりに予想外の質問についつい固まってしまった。
今日はどんな本を買おうかなーって考えてる所に、不意打ちでされた質問だったから動揺もすると思う。
でも動揺したのは、どうやら俺だけだったらしい。ハルはすこしも慌てず、その質問が来ると知っていたかのように、さらりと答えた。
「ああ、俺はハル。アキトの伴侶候補だ」
ハルはそう言いながら、証拠として伴侶候補の腕輪が見えるように、繋いだままの手をすっと持ち上げた。
あ、街中ではハルと手を繋ぐのがすっかり当たり前になってるから全く気づいてなかったけど、この店に入ってからもずっと手を繋いだままだったな。
うーん。ちょっとだけ恥ずかしいけど、今さら慌てて手を離すのもなんだかちょっと変だよね。それにジェイデンさんは微笑ましげな笑みを浮かべてるから、まあ良いか。
「はい、確かにお二人の伴侶候補の腕輪を確認させて頂きました」
そう口にしたジェイデンさんは、申し訳ないのですがと前置きをしてから俺とハルに向かって尋ねた。
「もう一点だけ確認をさせて頂きたい事があるのですが…」
「はい、なんですか?」
「ああ、どうぞ」
俺とハルが返事をしたのを確認してから、ジェイデンさんは口を開いた。
「お二人はこのまま、同じお部屋で本を選ぶ事を希望されますか?それともそれぞれ個室にご案内する事を希望されますか?」
真剣な表情のジェイデンさんには申し訳ないんだけど、まず質問の意味が分からない。今ここに二人そろって案内されてるのに、なんでそんな事を聞かれるんだろう。
戸惑った俺に気づいたのか、ジェイデンさんはすぐに詳しい説明をしてくれた。
「我がマーゴット商会では、全ての方の同意がない場合には、基本的にそれぞれ別の個室へのご案内となります。どのような本を好んで読むかというのは、繊細な取り扱いを要する情報ですので…」
あーなるほど。確かにその人の本棚を見れば、その人の趣味や思考が想像できてしまうのかもしれない。
まあよっぽど分析力が無いと無理だろうし、俺は別に本棚を覗かれても気にならないけど、それがどうしても嫌だって人もきっといるんだろうな。
そういう人達のプライバシーを守るための、同意が無い場合はっていう規則があるって事か。
異世界の本屋さん、すごいな。
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