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648.ハルの道案内
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まだ幽霊だった頃に出会ってから、ハルにはたくさん道案内をしてもらった。トライプールはもちろん、依頼で行った街や採取地でも、ハルが道に悩む所なんて一度も見た事がない。
入り組んだ船着き場の裏路地までしっかり把握してるんだから、すごいよね。さすがハルだとずっと思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったな。
「アキト、次の次の角を左に行くよ」
「うん、分かった」
俺だったら閉鎖してるから迂回してって言われたら、とりあえずその路地だけを避けると思うんだよね。
でもハルは違う。
あの路地が閉鎖されたらこっちに迂回する人が多いから、きっとこの道は混雑すると思うから行かない。そこから左に続く道は閉鎖された道に繋がってるから、そこも閉鎖されてるかもしれないから避けよう。
そんな風に俺に説明をしつつ、最善のルートをさらりと決めていくんだ。
ハルの頭の中には、本当にきっちりした地図があるんだな。
いつか俺もハルぐらいのレベルで道を把握できるようになるんだろうか。さすがに無理かもしれないなんて弱音が一瞬だけ浮かんだけど、すぐに消えていった。
ハルだって最初から完璧だったわけじゃない筈だ。
それに、別に詳しい説明なんてしなくても良いのに、その道を選ぶ理由までちゃんと説明してくれてるのはきっと俺のためだよね。
期待してくれてるなら、頑張りたい。
見覚えのある建物や目印になりそうな物がないかとウロウロと視線を彷徨わせながら、路地の中を進んでいく。
「次を右だよ」
ハルの指示に従って道を曲がると、視界の端に気になる建物が飛び込んできた。
あれ、このすっごく重厚感のある建物、見た事がある気がする。
「あれ?ハル、ここってもしかして…前にも来た本のお店?」
そう尋ねれば、ハルはにっこりと嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、確かにここは本を取り扱ってるマーゴット商会だよ。それにしてもアキト、一度しか来てない上に看板も見えない位置なのに、よく気づいたね」
さすがアキトだとハルは手放しで褒めてくれるけど、この建物は例え看板が見えなくても忘れられないと思うんだよね。
まるで博物館とか美術館みたいな高級感のある建物なのに、本屋さんっていうギャップもあるからすごく印象深かったし。
「えっと、ありがと」
まあ、この世界ではそれが普通の本屋だって言ってたけど。
あ、もし出来る事なら、俺のいた世界の本屋さんをハルにも見てもらいたいな。無造作に山積みにされた本の平積みとか、この世界とは比べ物にならない本の値段とか、きっと色んなところに驚いてくれるんだろうな。
そんなくだらない想像をしていると、ハルはニッと笑みを浮かべると俺を振り返った。
「まだ時間もあるし、もし良ければ寄っていかない?」
「んー…」
実はあの時に買った本は、もうほとんどが読み終わっちゃったんだよね。旅行記とか楽しすぎて熟読しちゃったし、ハルのお父さんの冒険譚はもう何度も読み直してるぐらいだ。
うん、まだ時間があるなら、新しい本を買いたい。
「うん。新しい本も買いたいし、時間があるなら寄りたいな」
「それじゃあ行こうか」
ハルは俺の手を引いたまま、建物に向かって歩き出した。
ううん、近くで見るとやっぱりちょっと俺は場違いじゃないかなって思っちゃうな。威圧感すら感じる重厚感のある建物なんだよね。
でも前と違ってここの店員さんは優しいって知ってるから、前に来た時よりも気は楽だ。それに今日は生身のハルも一緒だしね。
二人揃って建物に近づいていくと、ドアの近くに待機していた店員さんが今日もすかさずドアを開いてくれた。やっぱり人力の自動ドアなんだな。
「いらっしゃいませ、マーゴット商会へようこそ」
柔らかい笑みを浮かべて迎え入れてくれたのは、偶然にも前に案内してくれたあの年配の店員さんだった。たしかジェイデンさん――だったよね。
知ってる店員さんに会えた事で、更に肩の力が抜けた気がする。
あ、でも俺にとってはたった一人の知ってる店員さんだけど、ジェイデンさんにとっての俺はたくさんいる客の内の一人でしかない筈だ。
そう思って黙ったまま会釈を返した俺に、ジェイデンさんは柔らかく笑いかけてくれた。
「いらっしゃいませ、アキト様、お待ちしておりました。本日のご案内も、私ジェイデンが担当させて頂いてよろしいでしょうか?」
不意打ちでされた名前での呼びかけに、正直に言えばかなりびっくりしてしまった。だってたった一回来ただけなのに?名前まで覚えてるの?びっくりしたけど、次の瞬間にはじわじわと嬉しさが湧いてきた。
「はい、ぜひお願いします」
「それでは、お連れ様もご一緒にこちらへどうぞ」
入り組んだ船着き場の裏路地までしっかり把握してるんだから、すごいよね。さすがハルだとずっと思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったな。
「アキト、次の次の角を左に行くよ」
「うん、分かった」
俺だったら閉鎖してるから迂回してって言われたら、とりあえずその路地だけを避けると思うんだよね。
でもハルは違う。
あの路地が閉鎖されたらこっちに迂回する人が多いから、きっとこの道は混雑すると思うから行かない。そこから左に続く道は閉鎖された道に繋がってるから、そこも閉鎖されてるかもしれないから避けよう。
そんな風に俺に説明をしつつ、最善のルートをさらりと決めていくんだ。
ハルの頭の中には、本当にきっちりした地図があるんだな。
いつか俺もハルぐらいのレベルで道を把握できるようになるんだろうか。さすがに無理かもしれないなんて弱音が一瞬だけ浮かんだけど、すぐに消えていった。
ハルだって最初から完璧だったわけじゃない筈だ。
それに、別に詳しい説明なんてしなくても良いのに、その道を選ぶ理由までちゃんと説明してくれてるのはきっと俺のためだよね。
期待してくれてるなら、頑張りたい。
見覚えのある建物や目印になりそうな物がないかとウロウロと視線を彷徨わせながら、路地の中を進んでいく。
「次を右だよ」
ハルの指示に従って道を曲がると、視界の端に気になる建物が飛び込んできた。
あれ、このすっごく重厚感のある建物、見た事がある気がする。
「あれ?ハル、ここってもしかして…前にも来た本のお店?」
そう尋ねれば、ハルはにっこりと嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん、確かにここは本を取り扱ってるマーゴット商会だよ。それにしてもアキト、一度しか来てない上に看板も見えない位置なのに、よく気づいたね」
さすがアキトだとハルは手放しで褒めてくれるけど、この建物は例え看板が見えなくても忘れられないと思うんだよね。
まるで博物館とか美術館みたいな高級感のある建物なのに、本屋さんっていうギャップもあるからすごく印象深かったし。
「えっと、ありがと」
まあ、この世界ではそれが普通の本屋だって言ってたけど。
あ、もし出来る事なら、俺のいた世界の本屋さんをハルにも見てもらいたいな。無造作に山積みにされた本の平積みとか、この世界とは比べ物にならない本の値段とか、きっと色んなところに驚いてくれるんだろうな。
そんなくだらない想像をしていると、ハルはニッと笑みを浮かべると俺を振り返った。
「まだ時間もあるし、もし良ければ寄っていかない?」
「んー…」
実はあの時に買った本は、もうほとんどが読み終わっちゃったんだよね。旅行記とか楽しすぎて熟読しちゃったし、ハルのお父さんの冒険譚はもう何度も読み直してるぐらいだ。
うん、まだ時間があるなら、新しい本を買いたい。
「うん。新しい本も買いたいし、時間があるなら寄りたいな」
「それじゃあ行こうか」
ハルは俺の手を引いたまま、建物に向かって歩き出した。
ううん、近くで見るとやっぱりちょっと俺は場違いじゃないかなって思っちゃうな。威圧感すら感じる重厚感のある建物なんだよね。
でも前と違ってここの店員さんは優しいって知ってるから、前に来た時よりも気は楽だ。それに今日は生身のハルも一緒だしね。
二人揃って建物に近づいていくと、ドアの近くに待機していた店員さんが今日もすかさずドアを開いてくれた。やっぱり人力の自動ドアなんだな。
「いらっしゃいませ、マーゴット商会へようこそ」
柔らかい笑みを浮かべて迎え入れてくれたのは、偶然にも前に案内してくれたあの年配の店員さんだった。たしかジェイデンさん――だったよね。
知ってる店員さんに会えた事で、更に肩の力が抜けた気がする。
あ、でも俺にとってはたった一人の知ってる店員さんだけど、ジェイデンさんにとっての俺はたくさんいる客の内の一人でしかない筈だ。
そう思って黙ったまま会釈を返した俺に、ジェイデンさんは柔らかく笑いかけてくれた。
「いらっしゃいませ、アキト様、お待ちしておりました。本日のご案内も、私ジェイデンが担当させて頂いてよろしいでしょうか?」
不意打ちでされた名前での呼びかけに、正直に言えばかなりびっくりしてしまった。だってたった一回来ただけなのに?名前まで覚えてるの?びっくりしたけど、次の瞬間にはじわじわと嬉しさが湧いてきた。
「はい、ぜひお願いします」
「それでは、お連れ様もご一緒にこちらへどうぞ」
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