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647.路地の閉鎖

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 二人並んで椅子に座ってゆっくりとフライドチキンを堪能した後は、さっき来た広場の中の道をそのまま戻る事になった。

 ハルによるとこの広場は防衛がしやすいように、わざと広場の奥から街中へは抜けられないような造りになってるんだって。一応いざという時のための抜け道というのも存在してはいるらしいけど、その場所は一般市民に公開はされていないし厳重に鍵がかかっているんだそうだ。

 うーん、この言い方だと、ハルはその抜け道の場所も知ってるんだろうな。まあそんな秘密の話をわざわざ聞こうとはしないけど。

「やっぱりマルックスのグリルが良いな」
「おれの今日の気分は甘いクリームの入ったパンかな」

 すれ違った人達が今日は何を食べようかと相談しているのを流し聞きながら、俺達は更に道を進んでいった。

「あ…」

 視界に飛び込んできた光景に、思わず声を洩らしてしまった。 

「ん?どうかしたの?ってああ、ハーレの屋台か」
「…まだ混んでるんだね」

 結構ゆっくり食べてたからそれなりに時間も過ぎてるのに、まだこんなに混んでるのか。さっきよりはマシとはいえ、まだ列も出来ているみたいだ。

「アキトが気にしなくて大丈夫だよ」
「…そうかな?」
「むしろ見てよ、おじいさんのあの表情」

 ハルの言葉に恐る恐る屋台の方へと視線を向ければ、客の隙間からちらりと店員のおじいさんの姿が見えた。もちろん忙しそうなんだけど、なんだか誇らしそうな笑みを浮かべているみたいだ。

「それにあのおじいさんは根っからの商人って感じだったから、むしろ稼ぎ時だって喜んでるよ。俺が保証する」
「そう…だと良いな」

 少なくとも迷惑そうでは無いなとようやく納得した俺に、ハルは悪戯っぽい笑みを浮かべて囁いた。

「アキトのおかげで人気店の仲間入りかもね」

 揶揄うような言葉に俺はううんと首を振ったた。

「俺のおかげじゃなくて、あのおじいさんの料理の腕のおかげだよ。美味しかったからね」
「うん、まあ確かにそうだね」

 またハーレも食べに来ようねと、ハルは優しく笑ってそう提案してくれた。



 無事に広場を抜け、のんびりと路地を進んでいく。ハルの案内で何度目かの曲がり角を曲がった時、路地の先に三人の衛兵さん達が立っている事に気が付いた。

 俺はびっくりしたけど、ハルは普通の表情だったから多分曲がる前から気づいてたんだろうな。

 トライプールの街中で衛兵さんを見かけるのは、別に珍しい事じゃない。巡回や警備中の衛兵さんにはよく遭遇するし、揃いの鎧も見慣れたものだ。

 ただ、今は雰囲気が違っていた。

 ピリピリとした気配に、普段はあまり見せない険しい表情。明らかに周囲を警戒しているし、腰に付けた武器には手がかかっている。

 何かあったのかなとハルに尋ねるよりも前に、どうやら隊長らしき男性が俺とハルに気づいたみたいだ。男性はさっと険しい表情を隠すと、うっすらと笑みを浮かべて俺達の方へと近づいてきた。

「申し訳ないが、今はこの路地は閉鎖中なんだ」
「…何か、あったのか?」

 ハルは男性の顔をじーっと見つめてから、直球でそう尋ねた。

 えっと、衛兵さんが閉鎖までしてるなら何かはあったんだろうけど、普通の人に理由なんて教えてくれないんじゃない?守秘義務とかあるよね?

 そう思ったけれど、衛兵さんは俺の予想に反してすぐに口を開いた。

「ああ、手配中の盗賊が出たって話があってな。念のために確認中だからこの路地は迂回してくれるか?」
「そうか、分かった」
「ああ、もし路地の案内が必要なら俺が説明するが…?」

 親切にもそう声をかけてくれた衛兵さんに、ハルは大丈夫だとズバリと即答で答えた。なんだか人当たりの良いハルらしくない切り返しだなと思った瞬間、衛兵の男性はくしゃりと笑みをこぼした。

「まあお前ならそう言うよな。可愛い伴侶候補さんじゃないか」
「…あーアッシュか…?」
「おう、正解だ」

 まさかお前が伴侶候補を得るとは思わなかったけどお幸せになとさらりと口にした衛兵さんは、俺にも小さく手を振ると他の衛兵さんの方へと歩いていった。

「アキト、こっち」

 少しも迷わずに歩き出したハルに手を引かれながら、俺は違う路地へと足を向ける。

「さっきの人、知り合いだったんだね」
「ああ、イーシャルでアキトも会った、元部下だったアッシュの友人だな」

 美味しい塊肉の串焼き店を教えてくれた、あのティーさんの相棒さんか。

「へぇーそうなんだ」
「あーアキトには言ってなかったんだが…実はアッシュに俺が伴侶候補を得たって話を広めても良いかって前にこっそり聞かれたんだよ」
「そうなの?」
「ああ、勝手に許可してごめん」

 トリク祭りを一緒に回れるのが嬉しくて言うのを忘れてたんだと、ハルは肩を落とした。

「別に謝らなくて良いよ。ハルの伴侶候補だって事は、別に誰に知られても困らないし」

 異世界人だとか幽霊が見えるだとか、そういう俺が秘密にしたい事ってわけじゃないんだから何の問題も無い。

 それにさ、ハルは誰に対しても俺の事を隠したりしないんだなーって思えるから、むしろちょっと嬉しい気持ちもあるんだよね。

「そうか。ありがとう、アキト」
「俺もありがとう」

 俺の返事を聞いたハルは不思議そうだったけど、俺はそれには触れずに尋ねた。

「ハル、この次は右?左?」
「ああ、ここは左だね」
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