生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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646.【ハル視点】異世界の料理

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 列が進んでいくにつれて、屋台の中の調理風景も徐々に見えるようになってくる。

 熱した油に豪快に放り込まれた大きな塊肉には、正直に言うと驚いた。カーディさんはうまそうだなと笑っているしアキトは興味深そうに見つめているが、あれは食べ難いんじゃないだろうか?

 揚げたてのあんな大きな塊に齧りつけるか?

 少しだけ不安に思いながらもじっと見つめていると、揚がったばかりの塊肉を店員が器用に切り分けていくのが見えた。ああ、なるほど。食べやすい大きさに切り分けてからベールの葉に載せて、食べる用の串を刺して提供しているのか。

 うん、それなら食べやすそうだ。ちゃんと考えられていて良かったと密かに胸を撫で下ろしてしまった。



 列に並んだまましばらく待つと、ようやく俺達の順番が回ってきた。

「いらっしゃい…ってカーディじゃねぇか」

 黒髪の日焼けした青年は、カーディさんに気づくなりにっこりと笑みを浮かべた。

「よう、今日は友人を連れてきたんだ」
「おお、そいつはありがとよ。兄さん達もいらっしゃい。何人前にする?」

 にっこりと笑みを浮かべた店員は、俺とアキトに向かってそう尋ねた。

「二人前で頼む」

 俺はすぐにそう答えた。行列に並んでいる間に、アキトとはきちんと相談済みだ。ふらいどちきんは美味そうだが、今日はレーブンとローガンとの食事会があるからな。

 もし気に入ったらまた来れば良い。

「カーディは?クリスがいねぇって事は、今日は持ちかえりか?」
「おう、二人分持ちかえりで頼むわ」

 屋台飯というのは基本的に持ちかえって食べるものじゃないのかとすこしだけ不思議に思ったが、店員の手元をのぞけばすぐに納得がいった。

 持ちかえり用は大きめのベールの葉を上手く利用して、くるりと全体が包み込まれているみたいだ。これなら魔導収納鞄が無い人でも持ちかえりやすいな。なかなか面白い事を考える。

 感心しながら見守っていると、カーディさんは受け取った包みをすぐに自分の魔道収納鞄へとしまいこんだ。

「ありがとな。兄さんらも食べて気に入ったら、また来てくれよー」

 人懐こい店員は笑顔でそう言うと、次の客にお待たせと声をかけた。



 受けとったふらいどちきんは、本当に揚げたてらしく湯気が出ていた。アキトはキラキラと目を輝かせているから、元々好きな料理だったりするんだろうか。

「あー…俺はクリスと食べるからここでは食べられないんだが、アキトとハルはすぐに食べるんだよな?」

 俺達を振り返ったカーディさんの質問に、俺はすぐに頷いた。

「ああ、そうだな」
「うん、早く食べたいっ!」
「よし、それじゃあこっち来て」

 歩き出したカーディさんの案内で辿り着いたのは、ずらりと椅子が並んだ一画だった。

 広場の中でも特に奥まった辺りにはこうやって椅子を設置する事も許可されていると聞いた事はあったが、あれは本当だったんだな。ちなみにカーディさんいわく、これはこの屋台だけのためにあるものではなく、何を食べても良い場所だと決まっているらしい。

 並んでいる椅子の造りや種類がバラバラなのは、屋台や近所の人の寄付で集まったものだからなんだそうだ。ごちゃごちゃした雰囲気ではあるが、なんだか楽しい場所だな。

 そっと周りを伺ってみれば、入口近くの屋台飯を持ち込んでいる人もいれば、俺達と同じくふらいどちきんを食べている人もいる。その隣では魔道収納鞄から弁当を取り出している人もいるな。

 へぇ、本当に何を食べていても良いのか。

 これなら入口から少しずつ買い集めてここで食べるなんてのも楽しそうだな。いつかアキトとやってみようかと考えながら、俺はカーディさんの背中を追った。

「ほら、二人ともここ座って」

 ニコニコ笑顔で椅子の前に立ったカーディさんの言葉に従って、アキトと俺は空いている椅子に腰かけた。

「じゃあ遠慮なく」
「ああ!」
「「いただきます!」」

 アキトと俺は二人で声を揃えてから、それぞれ刺さっている串へと手を伸ばした。

 こうして見ると、切り分けていた時よりも大きい気がするな。アキトが嬉しそうに齧りついたのを見て、俺もかなり存在感のある肉に思いっきり齧りついた。

 サクリと軽い音がしたなと思ったら、ぶわりと熱い肉汁と旨味が一気に口内に広がった。揚げたてなんだから当然熱いと分かってはいたんだが、想像以上だった熱さに俺はハフハフと息を逃した。

 ああ、かなり熱いがこれは美味いな。
 
「これがフライドチキンか!これはうまいな!」

 マルックスの肉は元々好きな方だったが、これは今までに食べたことのない料理だ。

「うん、これは美味しいね!」

 俺達の感想を聞いたカーディさんは、嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべた。

「俺のお気に入りの料理が二人にも気に入ってもらえて良かったよ!それじゃあ、俺はそろそろクリスにこれを食べさせてくるわ」

 自分の魔道収納鞄をポンポンと軽く叩いたカーディさんは、アキトと俺に別れを告げると手を振りながら去っていった。早くクリスに食べさせたいんだろうな分かったから、俺達も引き留めずに見送った。

「アキト、これ本当に美味しいね」
「うん、このフライドチキンは、また食べに来たいな」
「ああ、もちろん。また来ようね」

 俺も気に入ったと告げれば、アキトは嬉しそうに笑みを浮かべた。
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