上 下
647 / 1,103

646.【ハル視点】異世界の料理

しおりを挟む
 列が進んでいくにつれて、屋台の中の調理風景も徐々に見えるようになってくる。

 熱した油に豪快に放り込まれた大きな塊肉には、正直に言うと驚いた。カーディさんはうまそうだなと笑っているしアキトは興味深そうに見つめているが、あれは食べ難いんじゃないだろうか?

 揚げたてのあんな大きな塊に齧りつけるか?

 少しだけ不安に思いながらもじっと見つめていると、揚がったばかりの塊肉を店員が器用に切り分けていくのが見えた。ああ、なるほど。食べやすい大きさに切り分けてからベールの葉に載せて、食べる用の串を刺して提供しているのか。

 うん、それなら食べやすそうだ。ちゃんと考えられていて良かったと密かに胸を撫で下ろしてしまった。



 列に並んだまましばらく待つと、ようやく俺達の順番が回ってきた。

「いらっしゃい…ってカーディじゃねぇか」

 黒髪の日焼けした青年は、カーディさんに気づくなりにっこりと笑みを浮かべた。

「よう、今日は友人を連れてきたんだ」
「おお、そいつはありがとよ。兄さん達もいらっしゃい。何人前にする?」

 にっこりと笑みを浮かべた店員は、俺とアキトに向かってそう尋ねた。

「二人前で頼む」

 俺はすぐにそう答えた。行列に並んでいる間に、アキトとはきちんと相談済みだ。ふらいどちきんは美味そうだが、今日はレーブンとローガンとの食事会があるからな。

 もし気に入ったらまた来れば良い。

「カーディは?クリスがいねぇって事は、今日は持ちかえりか?」
「おう、二人分持ちかえりで頼むわ」

 屋台飯というのは基本的に持ちかえって食べるものじゃないのかとすこしだけ不思議に思ったが、店員の手元をのぞけばすぐに納得がいった。

 持ちかえり用は大きめのベールの葉を上手く利用して、くるりと全体が包み込まれているみたいだ。これなら魔導収納鞄が無い人でも持ちかえりやすいな。なかなか面白い事を考える。

 感心しながら見守っていると、カーディさんは受け取った包みをすぐに自分の魔道収納鞄へとしまいこんだ。

「ありがとな。兄さんらも食べて気に入ったら、また来てくれよー」

 人懐こい店員は笑顔でそう言うと、次の客にお待たせと声をかけた。



 受けとったふらいどちきんは、本当に揚げたてらしく湯気が出ていた。アキトはキラキラと目を輝かせているから、元々好きな料理だったりするんだろうか。

「あー…俺はクリスと食べるからここでは食べられないんだが、アキトとハルはすぐに食べるんだよな?」

 俺達を振り返ったカーディさんの質問に、俺はすぐに頷いた。

「ああ、そうだな」
「うん、早く食べたいっ!」
「よし、それじゃあこっち来て」

 歩き出したカーディさんの案内で辿り着いたのは、ずらりと椅子が並んだ一画だった。

 広場の中でも特に奥まった辺りにはこうやって椅子を設置する事も許可されていると聞いた事はあったが、あれは本当だったんだな。ちなみにカーディさんいわく、これはこの屋台だけのためにあるものではなく、何を食べても良い場所だと決まっているらしい。

 並んでいる椅子の造りや種類がバラバラなのは、屋台や近所の人の寄付で集まったものだからなんだそうだ。ごちゃごちゃした雰囲気ではあるが、なんだか楽しい場所だな。

 そっと周りを伺ってみれば、入口近くの屋台飯を持ち込んでいる人もいれば、俺達と同じくふらいどちきんを食べている人もいる。その隣では魔道収納鞄から弁当を取り出している人もいるな。

 へぇ、本当に何を食べていても良いのか。

 これなら入口から少しずつ買い集めてここで食べるなんてのも楽しそうだな。いつかアキトとやってみようかと考えながら、俺はカーディさんの背中を追った。

「ほら、二人ともここ座って」

 ニコニコ笑顔で椅子の前に立ったカーディさんの言葉に従って、アキトと俺は空いている椅子に腰かけた。

「じゃあ遠慮なく」
「ああ!」
「「いただきます!」」

 アキトと俺は二人で声を揃えてから、それぞれ刺さっている串へと手を伸ばした。

 こうして見ると、切り分けていた時よりも大きい気がするな。アキトが嬉しそうに齧りついたのを見て、俺もかなり存在感のある肉に思いっきり齧りついた。

 サクリと軽い音がしたなと思ったら、ぶわりと熱い肉汁と旨味が一気に口内に広がった。揚げたてなんだから当然熱いと分かってはいたんだが、想像以上だった熱さに俺はハフハフと息を逃した。

 ああ、かなり熱いがこれは美味いな。
 
「これがフライドチキンか!これはうまいな!」

 マルックスの肉は元々好きな方だったが、これは今までに食べたことのない料理だ。

「うん、これは美味しいね!」

 俺達の感想を聞いたカーディさんは、嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべた。

「俺のお気に入りの料理が二人にも気に入ってもらえて良かったよ!それじゃあ、俺はそろそろクリスにこれを食べさせてくるわ」

 自分の魔道収納鞄をポンポンと軽く叩いたカーディさんは、アキトと俺に別れを告げると手を振りながら去っていった。早くクリスに食べさせたいんだろうな分かったから、俺達も引き留めずに見送った。

「アキト、これ本当に美味しいね」
「うん、このフライドチキンは、また食べに来たいな」
「ああ、もちろん。また来ようね」

 俺も気に入ったと告げれば、アキトは嬉しそうに笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...