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645.【ハル視点】ふらいどちきん
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俺達二人が抱いた疑問は、おそらくしっかりと顔に出ていたんだろうな。
カーディさんは不意に温かく微笑むと、戸惑う俺達にすぐに答えを教えてくれた。
「んー説明するとなると難しいけど、そうだな。二人で楽しい事を探そうとする姿勢…かな?」
「二人で楽しい事を探そうとする姿勢…?」
カーディさんの言葉をそのまま繰り返したアキトは、不思議そうにゆるりと首を傾げた。どういう意味だ?と思わず一緒になって首を傾げれば、アキトはそんな俺をちらりと見て嬉しそうに微笑んだ。
「あー例えば俺とクリスだったら、そんなに曖昧な情報なら、どうせ正解が分からないなら行っても仕方ないな―ってそもそも行かないという結論を出すと思うんだ」
ああ、確かにカーディさんはともかく、クリスならそう言うかもしれないな。
穏やかで優しそうに見えるけれど、実はかなり合理的な考え方をする奴だと思う。もっともカーディさんがどこかへ行きたいと一言口にすれば、どんな曖昧な情報が元だとしても喜んで飛び出していくんだろうけどな。
その姿なら余裕で想像できる。
「えっと、カーディ、俺の想像だと、二人とも普通に楽しんで探しに行きそうな気がするんだけど…?」
不思議そうに尋ねたアキトに、カーディさんはすぐに左右に首を振って答えた。
「いや。俺とクリスなら、まず情報をきちんと入手するまで動かないな」
「そうなの?」
「ああ、もし逆の立場なら、次に会う時に詳しく聞くまでは絶対に行かないな」
あっさりとそう断言したって事は、カーディさんもクリスと同じ考え方だって事か。別にどちらが正解ってわけじゃない。カーディさんとクリスはそういう考え方で、俺とアキトは違うってだけの話だ。
いやよくよく考えれば、アキトに出会う前の俺は、どちらかと言うと二人の意見に近かったかもしれない。しっかりと情報がなければ動かないし、無駄な時間を使うなんてって思ってたな。
そんな俺が、気づけば色んな事を全力で楽しめるようになってたなんてな。アキトが一緒にいてくれるおかげなんだが、人というのは変われるものなんだな。
しみじみとそんな事を考えていると、カーディさんは笑って続けた。
「でも二人は例え曖昧な情報だとしても、二人で一緒なら楽しめるって考えてここまで来たんだろう?そういう所が良いなと思ったんだ」
「えーと…ありがとうであってる?」
どう反応すれば良いか迷ったのか直球でそう尋ねたアキトに、カーディさんは褒めたからそれであってるよと笑って頷いた。
「それで…ここって何のお店?」
改めて質問をしたアキトに、カーディさんは高らかに答えた。
「ああ、ここはマルックスを使ったフライドチキンだ!」
「…聞いた事のない料理だな」
ふらいどちきん…かと繰り返した俺は、視界の端で困ったような顔をしたアキトに気が付いた。一体どうしたんだろうと気にはなったが、俺がアキトに声をかけるよりも前にカーディさんが口を開いた。
「なんでも元々は異世界の料理らしいんだが、味付けをしたマルックスにころもをつけて、油で揚げて作るんだ」
笑顔で教えてくれた情報のおかげで、さっきのアキトの表情の理由が分かった。ふらいどちきんとやらは、アキトにとっては馴染みのある料理だったんだろう。
「へぇ、異世界の料理なのか」
おおげさに感心した様子でそう答えながら、俺は不自然にならない程度にちらりとアキトの方へと視線を向けた。ばっちりと合った目線だけで大丈夫かと尋ねれば、アキトはにこりと笑みを返してくれた。
動揺はしてるみたいだけど、不自然な反応では無いな。おそらくあのみたらしの一件があったから、アキトも気を使ってるんだろう。
「…あれ、待って。でもさっき焼けたマルックスの香りがしたと思ったんだけど?揚げるって言わなかった?」
アキトが口にした疑問に、そういえばそうだなと俺もすぐに同意した。
さすがに焼いたものと揚げたものの香りの違いぐらいは分かると思うんだが。アキトと二人でまたしても揃って首を傾げれば、カーディさんは笑って教えてくれた。
「ああ、それはいくつか隣の赤い屋根の屋台だな」
「赤い屋根っていうと…あれか?」
ちらりと見える屋根を指差せば、カーディさんはすぐに頷いた。
「そうそう、あそこはマルックスの香草焼きを売っててなーあれも美味いんだよ」
カーディさんの好物だとアキトが教えてくれた、マルックスの香草焼きの屋台もあったのか。もしカーディさんがいなかったら、間違えてたかもしれないな。
まあアキトと一緒ならどこの屋台でも楽しめる自信があるから、もし間違えたとしても何も問題は無いんだが。
「フライドチキンか…」
「想像以上に美味い事だけは保証するぞ」
「カーディさんがそこまで言うなら、期待できるな」
ニコニコ笑ってそう答えた俺に、カーディさんは満足そうに笑った。
アキトが笑顔を浮かべたまま何かを考えこんでいるのが気になるが、少なくとも嫌いなものでは無いんだろうな。
アキトが気に入ると良いなと考えながら、俺は自分の番が回ってくるのをじっと待った
カーディさんは不意に温かく微笑むと、戸惑う俺達にすぐに答えを教えてくれた。
「んー説明するとなると難しいけど、そうだな。二人で楽しい事を探そうとする姿勢…かな?」
「二人で楽しい事を探そうとする姿勢…?」
カーディさんの言葉をそのまま繰り返したアキトは、不思議そうにゆるりと首を傾げた。どういう意味だ?と思わず一緒になって首を傾げれば、アキトはそんな俺をちらりと見て嬉しそうに微笑んだ。
「あー例えば俺とクリスだったら、そんなに曖昧な情報なら、どうせ正解が分からないなら行っても仕方ないな―ってそもそも行かないという結論を出すと思うんだ」
ああ、確かにカーディさんはともかく、クリスならそう言うかもしれないな。
穏やかで優しそうに見えるけれど、実はかなり合理的な考え方をする奴だと思う。もっともカーディさんがどこかへ行きたいと一言口にすれば、どんな曖昧な情報が元だとしても喜んで飛び出していくんだろうけどな。
その姿なら余裕で想像できる。
「えっと、カーディ、俺の想像だと、二人とも普通に楽しんで探しに行きそうな気がするんだけど…?」
不思議そうに尋ねたアキトに、カーディさんはすぐに左右に首を振って答えた。
「いや。俺とクリスなら、まず情報をきちんと入手するまで動かないな」
「そうなの?」
「ああ、もし逆の立場なら、次に会う時に詳しく聞くまでは絶対に行かないな」
あっさりとそう断言したって事は、カーディさんもクリスと同じ考え方だって事か。別にどちらが正解ってわけじゃない。カーディさんとクリスはそういう考え方で、俺とアキトは違うってだけの話だ。
いやよくよく考えれば、アキトに出会う前の俺は、どちらかと言うと二人の意見に近かったかもしれない。しっかりと情報がなければ動かないし、無駄な時間を使うなんてって思ってたな。
そんな俺が、気づけば色んな事を全力で楽しめるようになってたなんてな。アキトが一緒にいてくれるおかげなんだが、人というのは変われるものなんだな。
しみじみとそんな事を考えていると、カーディさんは笑って続けた。
「でも二人は例え曖昧な情報だとしても、二人で一緒なら楽しめるって考えてここまで来たんだろう?そういう所が良いなと思ったんだ」
「えーと…ありがとうであってる?」
どう反応すれば良いか迷ったのか直球でそう尋ねたアキトに、カーディさんは褒めたからそれであってるよと笑って頷いた。
「それで…ここって何のお店?」
改めて質問をしたアキトに、カーディさんは高らかに答えた。
「ああ、ここはマルックスを使ったフライドチキンだ!」
「…聞いた事のない料理だな」
ふらいどちきん…かと繰り返した俺は、視界の端で困ったような顔をしたアキトに気が付いた。一体どうしたんだろうと気にはなったが、俺がアキトに声をかけるよりも前にカーディさんが口を開いた。
「なんでも元々は異世界の料理らしいんだが、味付けをしたマルックスにころもをつけて、油で揚げて作るんだ」
笑顔で教えてくれた情報のおかげで、さっきのアキトの表情の理由が分かった。ふらいどちきんとやらは、アキトにとっては馴染みのある料理だったんだろう。
「へぇ、異世界の料理なのか」
おおげさに感心した様子でそう答えながら、俺は不自然にならない程度にちらりとアキトの方へと視線を向けた。ばっちりと合った目線だけで大丈夫かと尋ねれば、アキトはにこりと笑みを返してくれた。
動揺はしてるみたいだけど、不自然な反応では無いな。おそらくあのみたらしの一件があったから、アキトも気を使ってるんだろう。
「…あれ、待って。でもさっき焼けたマルックスの香りがしたと思ったんだけど?揚げるって言わなかった?」
アキトが口にした疑問に、そういえばそうだなと俺もすぐに同意した。
さすがに焼いたものと揚げたものの香りの違いぐらいは分かると思うんだが。アキトと二人でまたしても揃って首を傾げれば、カーディさんは笑って教えてくれた。
「ああ、それはいくつか隣の赤い屋根の屋台だな」
「赤い屋根っていうと…あれか?」
ちらりと見える屋根を指差せば、カーディさんはすぐに頷いた。
「そうそう、あそこはマルックスの香草焼きを売っててなーあれも美味いんだよ」
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まあアキトと一緒ならどこの屋台でも楽しめる自信があるから、もし間違えたとしても何も問題は無いんだが。
「フライドチキンか…」
「想像以上に美味い事だけは保証するぞ」
「カーディさんがそこまで言うなら、期待できるな」
ニコニコ笑ってそう答えた俺に、カーディさんは満足そうに笑った。
アキトが笑顔を浮かべたまま何かを考えこんでいるのが気になるが、少なくとも嫌いなものでは無いんだろうな。
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