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644.【ハル視点】奥の屋台
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三人で広場を奥へ奥へと進んで行けば、目的の屋台の近くにはすぐに辿り着いた。
「あ、見えてきたぞ。あの白い屋根の屋台がそうだ!」
そう言ってカーディさんが元気に指差した方向に視線を向ければ、一際大きな屋台が目に飛び込んできた。真っ白な屋根が特徴的なその大きな屋台は、奥まった場所にあるにも関わらずたくさんの人で賑わっているようだ。
へぇ、こんな屋台もあったのか。
俺は元々トライプールの北大門広場の屋台では、比較的浅い所を利用していた。
奥の方にも美味しい店があるという噂自体はよく聞いていたが、屋台を利用する時は基本的に一人で手早く食事をするときが多かった。だからこそさっと食事ができる浅い場所で済ませていた。
それに騎士団の部下や相棒との食事となると酒場に行く事が多かったし、奥の方の屋台には縁がなかったんだよな。
見慣れない人混みに驚いたのは、俺だけじゃなかったらしい。
「うわーすごい人!人気なんだね!」
アキトは嬉しそうにそう声を弾ませた。
「な、すごいだろー?」
自分の事のように自慢げに笑ったすこしこどもっぽいカーディさんの表情に、クリスがいたら今頃大騒ぎしてるんだろうなとついつい考えてしまった。
まあ、魔道具製作に夢中になりすぎたクリス自身が悪いんだが。なんで俺だけが見てるんだと後で怒られそうだな。
「それじゃあ俺達も並ぼうか」
「うん、そうだね」
「ああ、並ぼうか」
いそいそと三人で行列の最後尾へと並べば、俺達の後ろにもあっという間に列が出来ていった。本当に人気の店らしい。
「そういえば、カーディ…?」
「ん?どうした?アキト?」
「聞きたい事があるんだけど」
「ああ、何でも聞いてくれて良いぞ?」
「――ここって何のお店なの?」
アキトが口にした質問に、カーディさんはきょとんと目を見開いて、そのまま固まってしまった。俺も聞きたかった事なんだが、よっぽど予想外だったらしい。
どうしようと困った様子のアキトが俺に視線を向けた瞬間、カーディさんはブハッと思いっきり噴き出した。
「待ってくれ、何を売ってるのかも知らなかったのか?」
「え、うん」
「何を売ってるかも知らないのに、列に並んでからそれを聞くのか?」
「だってカーディがお勧めっていう屋台だよ?そりゃあ並ぶよ!俺好き嫌い無いし!」
元気にそう言い返したアキトに、カーディさんはひーひー笑いながら俺にちらりと視線を向けた。
「もしかして…ハルも…知らないのか?」
笑いがおさまらないせいで途切れ途切れの質問に、俺はすぐに頷いた。
「ああ、カーディさんのお気に入りの屋台がこのあたりにあるって事だけ、クリスから聞いたんだ」
カーディさんは俺の答えを聞くなり、それはもう楽しそうに笑い続けた。
「そんなに面白い事言った?」
「いや、そんな事は無いと思うんだが…」
これはもう落ち着くまで待つしかなさそうだな。まだ笑っているカーディさんを一瞥して、俺はアキトに向き直った。
「あ、でも良い香りする」
「本当だな。肉のやける香り…?」
「やっぱりマルックスかな?」
アキトと俺はのんびりとそんな事を話しながら、カーディさんの復活を待った。
「はー笑った笑った」
「あ、落ち着いた?」
「ああ、悪かったな」
笑いすぎてごめんと謝ってくるカーディさんの謝罪を、アキトと俺は笑って受け入れた。何がそんなに面白かったのかは分からないが、律儀に謝られてまで怒るほどの事でも無い。
「それにしても…ハルならどんな店かって全力で聞き出しそうだと思うんだが?」
もしかしてアキトが気に入るかもしれないって思うから、そういう情報は聞き逃さないだろう?とカーディさんは不思議そうにそう尋ねてきた。
「あー…普段ならそうなんだが…この屋台の事を聞いたのは、あの恋人と伴侶の惚気話の時だからな…」
「あ、なるほど。それどころじゃないぐらいクリスが暴走したのか…すまなかったな」
たったそれだけの説明で事の成り行きを一瞬で察したらしいカーディさんは、心底申し訳なさそうにそう呟いた。あーこれは屋台の料理について詳しい事を尋ねる前に、どんどん話が脱線したってバレてるな。
「いや、それはお互い様だから別に良いんだが…どんな料理かも知らないから、正直に言えばどの店が正解かも分からない所だったんだ…」
「そうだよね。俺もさっき気づいて、カーディいてくれて良かったって思ったよ」
アキトもすぐに同意してくれたが、カーディさんは楽し気に笑みを浮かべた。
「アキトとハルはそういう所が良いよな」
え、どういう所だ?と俺はアキトと顔を見合わせてしまった。
「あ、見えてきたぞ。あの白い屋根の屋台がそうだ!」
そう言ってカーディさんが元気に指差した方向に視線を向ければ、一際大きな屋台が目に飛び込んできた。真っ白な屋根が特徴的なその大きな屋台は、奥まった場所にあるにも関わらずたくさんの人で賑わっているようだ。
へぇ、こんな屋台もあったのか。
俺は元々トライプールの北大門広場の屋台では、比較的浅い所を利用していた。
奥の方にも美味しい店があるという噂自体はよく聞いていたが、屋台を利用する時は基本的に一人で手早く食事をするときが多かった。だからこそさっと食事ができる浅い場所で済ませていた。
それに騎士団の部下や相棒との食事となると酒場に行く事が多かったし、奥の方の屋台には縁がなかったんだよな。
見慣れない人混みに驚いたのは、俺だけじゃなかったらしい。
「うわーすごい人!人気なんだね!」
アキトは嬉しそうにそう声を弾ませた。
「な、すごいだろー?」
自分の事のように自慢げに笑ったすこしこどもっぽいカーディさんの表情に、クリスがいたら今頃大騒ぎしてるんだろうなとついつい考えてしまった。
まあ、魔道具製作に夢中になりすぎたクリス自身が悪いんだが。なんで俺だけが見てるんだと後で怒られそうだな。
「それじゃあ俺達も並ぼうか」
「うん、そうだね」
「ああ、並ぼうか」
いそいそと三人で行列の最後尾へと並べば、俺達の後ろにもあっという間に列が出来ていった。本当に人気の店らしい。
「そういえば、カーディ…?」
「ん?どうした?アキト?」
「聞きたい事があるんだけど」
「ああ、何でも聞いてくれて良いぞ?」
「――ここって何のお店なの?」
アキトが口にした質問に、カーディさんはきょとんと目を見開いて、そのまま固まってしまった。俺も聞きたかった事なんだが、よっぽど予想外だったらしい。
どうしようと困った様子のアキトが俺に視線を向けた瞬間、カーディさんはブハッと思いっきり噴き出した。
「待ってくれ、何を売ってるのかも知らなかったのか?」
「え、うん」
「何を売ってるかも知らないのに、列に並んでからそれを聞くのか?」
「だってカーディがお勧めっていう屋台だよ?そりゃあ並ぶよ!俺好き嫌い無いし!」
元気にそう言い返したアキトに、カーディさんはひーひー笑いながら俺にちらりと視線を向けた。
「もしかして…ハルも…知らないのか?」
笑いがおさまらないせいで途切れ途切れの質問に、俺はすぐに頷いた。
「ああ、カーディさんのお気に入りの屋台がこのあたりにあるって事だけ、クリスから聞いたんだ」
カーディさんは俺の答えを聞くなり、それはもう楽しそうに笑い続けた。
「そんなに面白い事言った?」
「いや、そんな事は無いと思うんだが…」
これはもう落ち着くまで待つしかなさそうだな。まだ笑っているカーディさんを一瞥して、俺はアキトに向き直った。
「あ、でも良い香りする」
「本当だな。肉のやける香り…?」
「やっぱりマルックスかな?」
アキトと俺はのんびりとそんな事を話しながら、カーディさんの復活を待った。
「はー笑った笑った」
「あ、落ち着いた?」
「ああ、悪かったな」
笑いすぎてごめんと謝ってくるカーディさんの謝罪を、アキトと俺は笑って受け入れた。何がそんなに面白かったのかは分からないが、律儀に謝られてまで怒るほどの事でも無い。
「それにしても…ハルならどんな店かって全力で聞き出しそうだと思うんだが?」
もしかしてアキトが気に入るかもしれないって思うから、そういう情報は聞き逃さないだろう?とカーディさんは不思議そうにそう尋ねてきた。
「あー…普段ならそうなんだが…この屋台の事を聞いたのは、あの恋人と伴侶の惚気話の時だからな…」
「あ、なるほど。それどころじゃないぐらいクリスが暴走したのか…すまなかったな」
たったそれだけの説明で事の成り行きを一瞬で察したらしいカーディさんは、心底申し訳なさそうにそう呟いた。あーこれは屋台の料理について詳しい事を尋ねる前に、どんどん話が脱線したってバレてるな。
「いや、それはお互い様だから別に良いんだが…どんな料理かも知らないから、正直に言えばどの店が正解かも分からない所だったんだ…」
「そうだよね。俺もさっき気づいて、カーディいてくれて良かったって思ったよ」
アキトもすぐに同意してくれたが、カーディさんは楽し気に笑みを浮かべた。
「アキトとハルはそういう所が良いよな」
え、どういう所だ?と俺はアキトと顔を見合わせてしまった。
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