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643.【ハル視点】予想外の肯定

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「よし、それじゃあ折角だし一緒に行くか!」

 なるほどとすぐに納得してくれたカーディさんは、ニコッと明るい笑みを浮かべるとそう提案してくれた。

 もしこの提案をしたのがカーディさんじゃなければ、もしかしたらアキトと二人だけで行きたいのになと少しぐらいは思ったかもしれない。だが、相手がカーディさんなら話は違ってくる。何といってもアキトの友人でもあるし、大事にしている伴侶がいるからアキトにそういう意味での興味を持つ心配も無いからな。

 お勧めの屋台に連れていってくれるというなら、提案に乗るのは当然だ。アキトと俺はお互いに顔を見合わせてから、すぐに揃って頷いた。

 三人で並んで歩きながら、俺はさっきから気になっていた事を尋ねる事にした。

「それにしても、今日はクリスは一緒じゃないんだな?こんな所に来るって言ったら絶対について来そうなのにな」

 たくさんの人で混雑しているこんな場所に、あのクリスがカーディさんを一人で来させるとは思えなかった。むしろカーディさんがクリスに内緒で抜け出してきた――なんて事は無いだろうか。

 もしそうだとしたら、俺とアキトと一緒にいる所を見られたら面倒な事になりそうだな。そんな事を考えながらの質問に、カーディさんは苦笑いを浮かべて口を開いた。

「あー昨日さ、冒険者ギルドに行って報告した後から、あいつ、ず――――っとあの赤い魔石をいじってるんだよ」
「え、ずっと!?」
「ああ、ずっとだな」
「寝てないの?」

 恐る恐るそう尋ねたアキトに、カーディさんはいいやとあっさりと否定を返した。

 魔道具に関する事となると他がおろそかになるんだとクリス本人も言っていたが、ちゃんと寝てはいるのか。思ったよりは自制できてるじゃないかと感心したのは一瞬だけだった。

「クリスが一緒に寝ないなら俺も徹夜するって言って脅したら、何とか寝てはくれたんだ」

 あーなるほど。クリスが自制できてるんじゃないな。ただカーディさんが世話を焼いてくれた結果、睡眠がとれてるだけか。

「脅した」

 アキトはびっくり顔で、カーディさんの言葉を繰り返した。

「えっとな…それぐらいしないと寝ないんだよ、クリスは。魔道具の事に夢中になると自分の事は一切気にしなくなるのに、俺のためなら寝ないと駄目だって思うらしいから仕方なくな」

 まあクリスならそうだろうな。自分のための睡眠は必要ないと切り捨てられても、愛しい伴侶の睡眠時間確保のためならすぐに寝るだろう。すごく簡単に想像できてしまった。

「じゃあクリスは家にいるのか」
「ああ、家というか店というか…多分俺が出てきたのにも気づいてないぞ」

 カーディさんは元冒険者だけあって、気配を消すのが上手い。逆にクリスは戦闘とは縁のない魔道具技師であり商人だ。カーディさんが本気で抜け出したら、気づけないのも無理はない…か。

「なるほど…それでカーディさんは、一人で昼食の買い出しに来たのか」
「ああ。適当な飯を用意しても後で食べるって言うのが分かってるから、あえて俺の好物を買いたくてな」
「えっと、クリスさんの好物じゃなくて?」
「まあそこの屋台飯はクリスも好きだが…こういう時は俺の好物を用意して、お前のために俺がわざわざ買ってきたのに食べないのか?って言った方が食べるんだよ」

 普段からそういうやりとりをよくしてるんだろうな。そう思わせる慣れた様子に、カーディさんの苦労が透けて見える気がする。

「それは…大変だな」

 ぽそりとそう呟けば、カーディさんはへらりと笑みを浮かべた。

「うん…まあ、そうだな。正直に言えば楽では無いし大変なんだが…そういう所も可愛いと思うんだから仕方ない」

 さらりと自然体で返ってきたそんな言葉に、アキトは頬を赤く染めた。アキトの気持ちはすごくよく分かる。下手な告白や愛の言葉よりも、よっぽどクリスへの愛情がこもった一言だった。

 なんでクリスはここにいないんだろうな。いたとしたら俺の伴侶がこんなにも可愛いと大騒ぎだっただろうに。お前、魔道具に集中しすぎたせいで貴重なシーンを見逃しているぞ。俺は心の中でそっとクリスに語りかけた。

 まあ遠距離で会話ができる手段なんて無いから、何を語りかけても一切伝わらないんだが。覚えていたら、次回会った時にでも教えてやろう。

「あれ、アキト、なんで赤くなってるんだ?」

 カーディさんは不思議そうにアキトにそう尋ねている。本当に無自覚に出た言葉だったんだな。

「さっきの言葉でカーディがクリスさんの事を大好きなんだなーって実感したからだよ。惚気話よりも強烈だったからね!」

 恥ずかしくなってもおかしくないと思うと必死で主張するアキトに、カーディさんは笑って答えた。

「ああ、まあな。それにアキトもハルの事大好きだろうが」

 照れるでもなく即肯定したカーディさんに、アキトはうっと返す言葉に詰まった。恥ずかしがり屋なアキトの事だ。いきなりそんな事を言われても頷けないだろうなと思いながら見つめていると、アキトは頬を真っ赤に染めたまま頷いた。

「あ…うん、それは…そうだね」

 あーこれは反則だろう。そんなに恥ずかしそうなのに、それでも肯定してくれるのか。じわじわと湧き上がってくる嬉しさを噛み締めながら、俺は繋いだままだった手をキュッと握りなおした。

 俺の伴侶候補がこんなにも可愛い。
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