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640.【ハル視点】昼食は屋台へ

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 情報提供を約束してくれたカルツさんは、柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。

「何か情報を得たら黒鷹亭まで会いに行きますね」
「ああ、助かる」

 しがらみの無い信用できる情報提供者は、何人いても良いからな。カルツさんへの礼はスラテール商会に返そうと俺は密かにそう決意した。

「ありがとうございます」

 情報を伝えに来てくれるなら、これだけは言っておくべきだろうな。

「そうだ、もし依頼で長期でどこかに行く前には、声をかけに来るよ」

 元々レーブンかメロウには声をかけていたし、カルツさんに声をかけに来るのも大した手間じゃない。そう思って口にした俺の提案にカルツさんは納得顔で頷いてくれたんだが、アキトはキラキラした目で俺を見つめてくれた。

 さすがハルとか思ってくれてるんだろうなと伝わってくる、尊敬に満ちた目がなんだかひどくくすぐったい。

「ええ、了解しました」
「じゃあこれ解除するな」

 一応二人に聞こえるようにそう声をかけた俺は、すぐに防音結界の魔道具を解除してから鞄にしまった。途端に賑やかな街中の声が聞こえてくるが、こちらに興味を持って探っているような気配は無さそうだ。

「それじゃあ、また」
「カルツさん、また会いに来ますね」

 二人で並んで別れの挨拶を口にすると、カルツさんは微笑ましそうな笑みを浮かべた 

「ええ、必ずまた二人揃ってきてくださいね」
「「はい」」



 どちらからともなく手を繋ぎ、俺達は来た道を戻り始めた。人けの少ない裏路地をのんびりと歩いていると、不意にアキトがちらりと俺を見上げてきた。

 じっともの言いたげに見つめてくる視線にすぐにでも反応したくなるけれど、いつもとどこかアキトの様子が違う気がした俺は気づかないふりで歩き続けた。

 何かアキトが悩むような事があっただろうか。さっきの俺とカルツさんのやりとりに何か思うところでもあったんだろうか。そんな事を考えながら、俺はアキトの手を引いて路地を進んでいった。

 しばらく待っても声をかけてこないのが気になって視線を向ければ、アキトは何かを反省しているかのように地面を見つめて歩いていた。

 これは様子を見てる場合じゃないな。俺は慌ててアキトに声をかけた。

「アキト、どうかした?」

 俺の質問にアキトはうろっと視線を彷徨わせると、へらりと笑って答えた。

「…ううん、ちょっとお腹減ったなーと思って」

 ああ、これは間違いなく誤魔化すための一言だよな。絶対他の事を考えていたんだと分かってはいるけれど、アキトが言いたくないって事を無理に聞き出したいわけじゃない。

 俺はアキトの誤魔化しに乗る事を即座に決めた。

「ああ、そうだね。結構時間も経ってるし…そういえば俺もちょっと空いてきたかも」

 そう笑って口にすれば、アキトはホッと息を吐いた。

「あ、でも夜はレーブンとローガンとの食事会だから、あまりがっつり食べるのも良くないよね?」
「うん、せっかくのお招きなのに、お腹いっぱいで行くのは駄目だよね」
「それなら、やっぱりお昼は軽めにすませようか」
「うん、そうしよう」
「それなら…お店も良いけど、露店にでも行ってみる?」

 こればっかりは地域にもよるんだが、ここトライプール領都にでている露店は基本的にそれほど量が多くない。軽めに食事を済ませる冒険者や商人が多いせいか、量も少なく値段も控え目な事が多いんだ。がっつりと食べたい時は、何店舗か巡るか数人前を購入するのが一般的だ。

 おかげで量の調整がしやすいんだよなと露店での食事を提案すれば、アキトはキラキラと分かりやすく目を輝かせてくれた。アキトは露店が好きみたいだから、乗り気みたいだ。

「うん、行きたいな!久しぶりのトライプールの露店、嬉しい!」
「それは良かった。あーここからだと北大門の広場の方が近いんだけど、そっちでも良いかな?」

 もしかしたら行き慣れている南大門の方が良いだろうかと一応聞いてみたが、アキトは北大門の露店に興味があるようだ。

「うん、楽しみ!どんなお店があるかな」

 ワクワクした様子でそう口にしたアキトに、俺はそういえばと口を開いた。

「あ、北大門と言えば…北大門にはカーディさんのお気に入りの露店があるんだってクリスが言ってたよ」
「え、そうなの?」
「ああ、あの伴侶自慢と恋人自慢の夜に情報交換したんだ」

 残念ながらだいたいの店の場所ぐらいしか聞き出せていないし、そこで出している料理すらはっきりとは知らないんだが。

「へーそこも行ってみたいな」
「うん、折角だし行ってみようよ。そこの角で曲がろうか」

 もし見つからなかったら、アキトが気に入った場所で食べれば良いさと一瞬で割り切った俺は笑顔で道案内を始めた。



 北大門前の広場まで到着すると、そこには一定の間隔を空けていくつもの屋台が並んでいた。

 昼時を少し超えたせいか露店を巡っている客足はまばらのようだが、かといって人がいなくて活気が無いという程でもない。これなら周りの目を気にせずゆっくり見て回れそうだ。

「とりあえず見て回ろうか」
「そうだね」

 アキトと手を繋いだまま、俺達は少し離れた所から色々な屋台をのぞいていく。

 広場の入口近くにあったパンの屋台は、野菜や果物を練りこんであるらしく色とりどりのパンがずらりと並んでいた。アキトはあの色とりどりさは苦手かもしれないな。

 その隣には、これまた色とりどりな果物を冷やして販売している果物の屋台、さらにその隣には香ばしく焼けた焼き魚串の屋台があった。

 良い香りが漂っているが、さすがに今食べたら船着き場で食べたあの焼き魚串と比べてしまいそうな気がするな。そう思ってアキトを見れば、アキトも困ったような顔で俺を見上げていた。

 どうやらアキトも同じ事を思ったらしい。
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