上 下
640 / 1,103

639.フライドチキンは

しおりを挟む
 しばらく行列に並んだ末にようやく買う事が出来たフライドチキンは、食べやすい大きさに切り分けられた後、大きな葉っぱに載せて提供されていた。ちょこんと竹串みたいなものが刺さってるから、どうやらこれで食べるみたいだ。

「あ、俺は二人分持ちかえりで頼む」

 注文時にさらりとそう頼んでいたカーディの分は、お皿代わりの大きな葉っぱを折りたたんで器用に包みこまれていた。何か異国感あって良いなーあの包み方と見つめていると、カーディはすぐに自分の魔道収納鞄へと包みをしまいこんだ。

「あー…俺はクリスと食べるからここでは食べられないんだが、アキトとハルはすぐに食べるんだよな?」
「ああ、そうだな」
「うん、早く食べたいっ!」

 うっかりぽろりと本音がこぼれおちてしまった。だって明らかに出来立てなんだよ。出来立ての揚げ物は熱いうちに食べたい。

「よし、それじゃあこっち来て」

 笑顔で歩き出したカーディの案内で辿り着いたのは、ずらりと椅子が並んだ一画だった。

 広場の中でも特に奥まったこの辺りには、こうやって椅子を設置する事も許可されてるんだって。ちなみにこれはこの屋台だけのためにあるものじゃなくて、何を食べても良いってものらしい。

 並んでいる椅子の造りや種類がバラバラなのは、屋台や近所の人の寄付で集まったものだからなんだって。それが逆にお洒落に見えるんだから、ちょっと不思議だ。

 ハルとカーディから椅子についての説明を聞きながら、俺はそっと周りを見回してみた。

 茄子に似たハーレの串焼きを食べてる人、魚の串焼きを食べている人、パンのような物に齧りついている人、それに魔道収納鞄からお弁当を取り出している人までいるみたいだ。

 みんな自由に食事と会話を楽しんでいて、なんだかフードコートみたいだ。

「ほら、二人ともここ座って」

 ニコニコ笑顔で椅子の前に立ったカーディの言葉に甘えて、俺とハルは空いている椅子に腰かけた。

「じゃあ遠慮なく」
「ああ!」
「「いただきます!」」

 俺とハルは二人で声を揃えてから、それぞれ竹串へと手を伸ばした。

 結構大きめにカットされているらしいフライドチキンをそっと持ち上げてみれば、まだ揚げたてで熱々だった。ふーふーと息を吹きかけて軽く冷ましてから、俺は大きく口を開いてがぶりと齧りついた。

 こういうのは豪快に食べた方が絶対美味しいんだよね。

 ちらりとそんな俺の行動を見たハルも、真似をするように大きく口を開いて齧りついた。あ、想像以上に熱かったのか、ハフハフと息を逃してる。ごめん、ちょっと可愛いとか思ってしまった。

 薄い衣に歯が入った途端、サクリと軽い音が響いた。あーこれ、衣がサクサクのタイプなのか。俺こういう食感好きなんだよねと考えていると、ぶわりとジューシーな肉汁と旨味が一気に口内に広がった。

「ーっ!」

 異世界のフライドチキンは、俺の知ってる中では塩味の唐揚げが一番近いかな。

 元々ジューシーで美味しいマルックスと唐揚げの相性は抜群みたいだ。あ、こういう時に唐揚げって思ってると、うっかり口にしちゃうかもしれないよね。こういう所から異世界人バレが起こるのかもしれないんだから、油断は禁物だ。

 これは塩唐揚げじゃなくてフライドチキン。これは塩唐揚げじゃなくてフライドチキンっと。頭の中でそう繰り返しながら、ゆっくりと口を動かす。

 じっくりとフライドチキンと呼ばれるマルックスの料理を堪能する俺とハルを、カーディは何も言わずにただじっと待っていた。俺達の感想が気になるから、それを聞いてからクリスさんに届けに行くらしい。

「これがフライドチキンか!これはうまいな!」

 先に食べ終えたハルは、ひどく興奮した様子でそう声を上げた。明らかに目を輝かせてるから、お肉が大好きなハルの好みにぴったりだったらしい。

「うん、これは美味しいね!」

 そう素直な感想を口にすれば、カーディは嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべてみせた。

「俺のお気に入りの料理が二人にも気に入ってもらえて良かったよ!それじゃあ、俺はそろそろクリスにこれを食べさせてくるわ」

 自分の魔道収納鞄をポンポンと軽く叩いたカーディは、俺とハルに別れを告げると手を振りながら去っていった。

「アキト、これ本当に美味しいね」
「うん、このフライドチキンは、また食べに来たいな」
「ああ、もちろん。また来ようね」

 ハルの優しい笑顔に、俺も満面の笑みを返した。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

平凡モブの僕だけが、ヤンキー君の初恋を知っている。

天城
BL
クラスに一人、目立つヤンキー君がいる。名前を浅川一也。校則無視したド派手な金髪に高身長、垂れ目のイケメンヤンキーだ。停学にならないせいで極道の家の子ではとか実は理事長の孫とか財閥の御曹司とか言われてる。 そんな浅川と『親友』なのは平凡な僕。 お互いそれぞれ理由があって、『恋愛とか結婚とか縁遠いところにいたい』と仲良くなったんだけど。 そんな『恋愛機能不全』の僕たちだったのに、浅川は偶然聞いたピアノの演奏で音楽室の『ピアノの君』に興味を持ったようで……? 恋愛に対して消極的な平凡モブらしく、ヤンキー君の初恋を見守るつもりでいたけれど どうにも胸が騒いで仕方ない。 ※青春っぽい学園ボーイズラブです。

処理中です...