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638.屋台の料理は

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 俺達二人が抱いた疑問は、それはもう思いっきり顔に出ていたらしい。

 カーディは俺達の顔をじっと見つめていたけれど、不意に温かく微笑むと戸惑う俺達に答えを教えてくれた。

「んー説明するとなると難しいけど、そうだな。二人で楽しい事を探そうとする姿勢…かな?」
「二人で楽しい事を探そうとする姿勢…?」

 思わず繰り返しながらちらりと隣を見れば、ハルも俺と一緒になってゆるりと首を傾げている。姿勢って言われても、よく分からないよね。

「あー例えば俺とクリスだったら、そんなに曖昧な情報なら、どうせ正解が分からないなら行っても仕方ないな―ってそもそも行かないという結論を出すと思うんだ」

 えーそうかな?カーディは逆に宝探しみたいで楽しそうだって、ワクワクして探しに行きそうな気がするんだけど。あ、それかクリスさんの方がワクワクで探しに行って、カーディは仕方ないなって後からついていくっていう可能性もあるな。

「カーディ、俺の想像だと、二人とも普通に楽しんで探しに行きそうな気がするんだけど…?」

 そう小声で尋ねてみれば、カーディはすぐに左右に首を振った。

「いや。俺とクリスなら、まず情報をきちんと入手するまで動かないな」
「そうなの?」
「ああ、もし逆の立場なら、次に会う時に詳しく聞くまでは絶対に行かないな」

 本人がそこまで断言するって事はそうなのか。ちょっと意外だ。

「でも二人は例え曖昧な情報だとしても、二人で一緒なら楽しめるって考えてここまで来たんだろう?そういう所が良いなと思ったんだ」
「えーと…ありがとうであってる?」

 とりあえず褒められた事は間違いないよなと尋ねれば、カーディは褒めたからそれであってるよと笑って頷いてくれた。

「それで…ここって何のお店?」
「ああ、ここはマルックスを使ったフライドチキンだ!」


 高らかにそう口にしたカーディに、ハルは聞いた事のない料理だなと普通に答えているけど、俺はそれどころじゃない。

 今確かにカーディはフライドチキンって言ったよね。正確に言うならマルックスを使ったフライドチキンって言った…?

 そもそも、この世界にもチキンってあるの?いや無いからマルックスを使ったってわざわざ頭に付けてるのかな。その場合、もしかしてフライドチキンは料理名なんだろうか。

 思わず遠い目をしながら現実逃避していると、カーディは俺の態度を勘違いしたのか、やっぱり知らないよなと続けた。俺もこの店に来るまでは知らなかったんだと、わざわざフォローまで入れてくれた。

 もしこれが俺の思うフライドチキンだとしたら、知ってるどころか大好物だけどな。

「なんでも元々は異世界の料理らしいんだが、味付けをしたマルックスにころもをつけて、油で揚げて作るんだ」

 俺の思ってるフライドチキンだね。

「へぇ、異世界の料理なのか」

 感心した様子でそう答えながらも、ハルは不自然にならない程度にちらりと俺の方へと視線を向けた。ばっちりと合った目線に、動揺はしてるけど大丈夫だよと、とりあえずにこりと笑みだけを返した。

「…あれ、待って。でもさっき焼けたマルックスの香りがしたと思ったんだけど?」

 思わずそう口にすれば、ハルもそういえばそうだなとすぐに同意してくれた。

 だよね。さっきカーディが笑い続けてた間に、ハルと二人で感じたあのマルックスの焼ける香りは何だったんだろうってなるよね。

「ああ、それはいくつか隣の赤い屋根の屋台だな」
「赤い屋根っていうと…あれか?」
「そうそう、あそこはマルックスの香草焼きを売っててなーあれも美味いんだよ」

 あ、マルックスの香草焼きもあるんだ。うん、これもしカーディがいなかったら、確実にあっちを正解だと思って食べてたな。

「フライドチキンか…」
「想像以上に美味い事だけは保証するぞ」
「カーディさんがそこまで言うなら、期待できるな」

 ニコニコ笑ってそう答えたハルに、カーディも満足そうに笑っている。俺はと言うと楽し気な二人に挟まれながら、無言のままじっと考えこんでいた。

 そのフライドチキンっていうのは、どういうタイプなんだろう。はたしてそれは本当にフライドチキンそのものなのか、それともフリッターみたいなものなのか。あ、唐揚げとかって可能性もあるのかな。

 どれが来ても嬉しいんだけどさ。俺はワクワクしながら自分の番が回ってくるのをじっと待った。
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