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636.カーディの惚気
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「よし、それじゃあ折角だし一緒に行くか!」
明るい笑顔でそう提案したカーディに、俺とハルは顔を見合わせてからすぐに揃って頷いた。
店の詳細までは聞いてないんだってハルも言ってたしね。そもそもどんな料理なのかすら知らないんだし、もしカーディの好きそうなお店がいくつかあったら、どれが正解かすら分からないっていう残念な事になる所だったんだ。
そんな行き当たりばったりの俺達の前に、まさかの本人が現れてお気に入りのお店に案内してくれるって言うんだから断る理由なんて無い。
「それにしても、今日はクリスは一緒じゃないんだな?」
三人で並んで歩き出すと、不意にハルが口を開いた。
ああ、確かに。クリスさんが一緒じゃないのには、俺もちょっとびっくりした。ずっと二人で一緒にいる所ばかり見てたから、それが普通のような気がしてたんだよね。
「こんな所に来るって言ったら絶対について来そうなのにな」
あーうん。人が多い場所にこんなに可愛いカーディを一人で行かせて何かあったら、心配でたまらないですとか言いそうだよね。クリスさんなら。
カーディはハルの質問に、苦笑を浮かべながら答えた。
「あー昨日さ、冒険者ギルドに行って報告した後から、あいつ、ず――――っとあの赤い魔石をいじってるんだよ」
「え、ずっと!?」
「ああ、ずっとだな」
「寝てないの?」
恐る恐る尋ねれば、カーディはいいやとあっさりと否定してくれた。良かった、寝てはいるんだ。ずっとってのは起きてる間はずっとって意味なのかな。そう考えを巡らせた瞬間、カーディは困った顔で続けた。
「クリスが一緒に寝ないなら俺も徹夜するって言って脅したら、何とか寝てはくれたんだ」
「脅した」
「えっとな…それぐらいしないと寝ないんだよ、クリスは」
魔道具の事に夢中になると自分の事は一切気にしなくなるのに、俺のためなら寝ないと駄目だって思うらしいから仕方なくなとそうさらりと続ける。愛されてるね、カーディ。
「じゃあクリスは家にいるのか」
「ああ、家というか店というか…多分俺が出てきたのにも気づいてないぞ」
あんなに自分の伴侶が大好きなあのクリスさんが、大事な大事なカーディの不在に気づかないって…そんな事ある?
びっくり顔で見つめてしまったけれど、カーディは重々しく頷いただけだった。
あ、うん。その反応で分かったよ。本当に気づかないんだな。
「なるほど…カーディさんは、一人で昼食の買い出しに来たのか」
「ああ。適当な飯を用意しても後で食べるって言うのが分かってるから、あえて俺の好物を買いたくてな」
「えっと、クリスさんの好物じゃなくて?」
「まあそこの屋台飯はクリスも好きだが…こういう時は俺の好物を用意して、お前のために俺がわざわざ買ってきたのに食べないのか?って言った方が食べるんだよ」
なるほど。こういう時のクリスさんにご飯を食べさせるための攻略法がそれって事か。
「それは…大変だな」
何と言えば良いのか言葉に悩んだらしいハルは、しばらく黙り込んでからぽそりとそう返した。きっと考えに考えてやっと出た言葉なんだろうな。俺なんて何て言って良いかわららなくて黙ったままだから、ハルはすごいと思う。
「うん…まあ、そうだな。正直に言えば楽では無いし大変なんだが…そういう所も可愛いと思うんだから仕方ない」
さらりと返ってきたカーディのそんな言葉に、俺は思わず頬を赤く染めてしまった。
何ていうかこう、カーディはクリスさんの事を愛おしいと思ってるんだなってのをしみじみ実感しちゃったんだよ。下手な惚気話よりも強烈な言葉だった。
「あれ、アキト、なんで赤くなってるんだ?」
カーディは不思議そうな顔だけど、隣を歩いているハルは気持ちは分かるよと言いたげな優しい笑みを見せてくれた。うう、ハルの優しさが染みる。
「さっきの言葉でカーディがクリスさんの事を大好きなんだなーって実感したからだよ。惚気話よりも強烈だったからね!」
恥ずかしくなってもおかしくないと思うと必死で主張した俺に、カーディはへらりと笑ってみせた。
「ああ、まあな。それにアキトもハルの事大好きだろうが」
揶揄ったらあっさり肯定された上に、予想外の返しが返ってきてしまった。
「あ…うん、それは…そうだね」
その言葉を否定もできないからと頬を赤く染めながら肯定すれば、繋いだままだった手がキュッと握られた。
明るい笑顔でそう提案したカーディに、俺とハルは顔を見合わせてからすぐに揃って頷いた。
店の詳細までは聞いてないんだってハルも言ってたしね。そもそもどんな料理なのかすら知らないんだし、もしカーディの好きそうなお店がいくつかあったら、どれが正解かすら分からないっていう残念な事になる所だったんだ。
そんな行き当たりばったりの俺達の前に、まさかの本人が現れてお気に入りのお店に案内してくれるって言うんだから断る理由なんて無い。
「それにしても、今日はクリスは一緒じゃないんだな?」
三人で並んで歩き出すと、不意にハルが口を開いた。
ああ、確かに。クリスさんが一緒じゃないのには、俺もちょっとびっくりした。ずっと二人で一緒にいる所ばかり見てたから、それが普通のような気がしてたんだよね。
「こんな所に来るって言ったら絶対について来そうなのにな」
あーうん。人が多い場所にこんなに可愛いカーディを一人で行かせて何かあったら、心配でたまらないですとか言いそうだよね。クリスさんなら。
カーディはハルの質問に、苦笑を浮かべながら答えた。
「あー昨日さ、冒険者ギルドに行って報告した後から、あいつ、ず――――っとあの赤い魔石をいじってるんだよ」
「え、ずっと!?」
「ああ、ずっとだな」
「寝てないの?」
恐る恐る尋ねれば、カーディはいいやとあっさりと否定してくれた。良かった、寝てはいるんだ。ずっとってのは起きてる間はずっとって意味なのかな。そう考えを巡らせた瞬間、カーディは困った顔で続けた。
「クリスが一緒に寝ないなら俺も徹夜するって言って脅したら、何とか寝てはくれたんだ」
「脅した」
「えっとな…それぐらいしないと寝ないんだよ、クリスは」
魔道具の事に夢中になると自分の事は一切気にしなくなるのに、俺のためなら寝ないと駄目だって思うらしいから仕方なくなとそうさらりと続ける。愛されてるね、カーディ。
「じゃあクリスは家にいるのか」
「ああ、家というか店というか…多分俺が出てきたのにも気づいてないぞ」
あんなに自分の伴侶が大好きなあのクリスさんが、大事な大事なカーディの不在に気づかないって…そんな事ある?
びっくり顔で見つめてしまったけれど、カーディは重々しく頷いただけだった。
あ、うん。その反応で分かったよ。本当に気づかないんだな。
「なるほど…カーディさんは、一人で昼食の買い出しに来たのか」
「ああ。適当な飯を用意しても後で食べるって言うのが分かってるから、あえて俺の好物を買いたくてな」
「えっと、クリスさんの好物じゃなくて?」
「まあそこの屋台飯はクリスも好きだが…こういう時は俺の好物を用意して、お前のために俺がわざわざ買ってきたのに食べないのか?って言った方が食べるんだよ」
なるほど。こういう時のクリスさんにご飯を食べさせるための攻略法がそれって事か。
「それは…大変だな」
何と言えば良いのか言葉に悩んだらしいハルは、しばらく黙り込んでからぽそりとそう返した。きっと考えに考えてやっと出た言葉なんだろうな。俺なんて何て言って良いかわららなくて黙ったままだから、ハルはすごいと思う。
「うん…まあ、そうだな。正直に言えば楽では無いし大変なんだが…そういう所も可愛いと思うんだから仕方ない」
さらりと返ってきたカーディのそんな言葉に、俺は思わず頬を赤く染めてしまった。
何ていうかこう、カーディはクリスさんの事を愛おしいと思ってるんだなってのをしみじみ実感しちゃったんだよ。下手な惚気話よりも強烈な言葉だった。
「あれ、アキト、なんで赤くなってるんだ?」
カーディは不思議そうな顔だけど、隣を歩いているハルは気持ちは分かるよと言いたげな優しい笑みを見せてくれた。うう、ハルの優しさが染みる。
「さっきの言葉でカーディがクリスさんの事を大好きなんだなーって実感したからだよ。惚気話よりも強烈だったからね!」
恥ずかしくなってもおかしくないと思うと必死で主張した俺に、カーディはへらりと笑ってみせた。
「ああ、まあな。それにアキトもハルの事大好きだろうが」
揶揄ったらあっさり肯定された上に、予想外の返しが返ってきてしまった。
「あ…うん、それは…そうだね」
その言葉を否定もできないからと頬を赤く染めながら肯定すれば、繋いだままだった手がキュッと握られた。
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