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633.言い訳を考える

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「何か情報を得たら黒鷹亭まで会いに行きますね」

 カルツさんは柔らかい笑みを浮かべて、そう言ってくれた。

「ああ、助かる」
「ありがとうございます」
「そうだ、もし依頼で長期でどこかに行く前には、声をかけに来るよ」

 あ、そっか。そうしないと俺達がいないのにカルツさんが黒鷹亭まで来てくれるなんて事になっちゃうかもしれないのか。すれ違うかもしれないって俺は思いつかなかったや。さすがハルだな。

「ええ、了解しました」
「じゃあこれ解除するな」

 そう俺とカルツさんに宣言したハルは慣れた様子で、ささっと防音結界の魔道具を解除して鞄にしまった。途端に周りの音が聞こえるようになった。

「それじゃあ、また」
「カルツさん、また会いに来ますね」

 二人で並んで別れの挨拶を口にすると、カルツさんは微笑ましそうな笑みを浮かべた 

「ええ、必ずまた二人揃ってきてくださいね」
「「はい」」



 どちらからともなく手を繋ぎ、俺達は来た道を戻り出した。人けの少ない裏路地をのんびりと歩きながら、ちらりと隣を歩くハルを見上げる。

 異世界人を探している貴族がいるとクリスさんに聞いてから、ハルはずっとあんな風に周りを警戒してくれてたんだな。表情には出ていなかったとはいえ、自分じゃなくてカルツさんがハルらしくないって気づいたのが、何だか少しだけ悔しい。

 あーあと探されてるかもしれないなら警戒しようって思ったのに、全然警戒できてなかったのも反省しないと駄目だよな。噂されてたって聞いた時も、へー何で知ってるんだろう?ってのんきに考えてただけだったし。もっとちゃんと警戒しないと。

「アキト、どうかした?」

 こっそりと一人反省会を繰り広げていた俺に気づいたのか、ハルはどこか心配そうに俺の目を覗き込んでくる。

 あーどうしよう。変に誤魔化しても絶対にハルにはバレちゃうし、かと言って今の反省会の内容なんて口にしたら、きっと優しく慰められてしまう。それは駄目な気がする。

「…ううん、ちょっとお腹減ったなーと思って」

 必死で考えた言い訳がこれだった俺を、笑ってくれても良いんだよ。

 いやだってさ、ハルが納得してくれそうな理由なんて、これぐらいしか思いつかなかったんだよ。それにお腹が空いてきたのは本当だから、これならハルに嘘をつかずにすむしさ。

「ああ、そうだね。結構時間も経ってるし…」

 そういえば俺もちょっと空いてきたかもと笑って教えてくれるハルは、やっぱり優しい。

「あ、でも夜はレーブンとローガンとの食事会だから、あまりがっつり食べるのも良くないよね?」
「うん、せっかくのお招きなのに、お腹いっぱいで行くのは駄目だよね」

 楽しみにしておいてくれとまで言ってくれたレーブンさんに、お昼に食べすぎてお腹がいっぱいでとは絶対に言えない。悲しそうな顔をされるのが、簡単に想像できてしまう。

「それなら、やっぱりお昼は軽めにすませようか」
「うん、そうしよう」
「それなら…お店も良いけど、露店にでも行ってみる?」

 ハルの提案に、俺は思わず目を輝かせてしまった。

 この世界に来てから気づいたんだけど、俺露店って好きみたいなんだよね。

 トリク祭りで巡ったイーシャルの露店も、どれもすごく美味しかった。ただね、すごく美味しかったんだけど、料理が全部お祭り仕様って感じだったんだ。楽しかったしワクワクしたからお祭りの露店としては正解なんだけどね。

 でも普段のごはんとして食べるなら、トライプールの露店の方が好きだな。

「うん、行きたいな!久しぶりのトライプールの露店、嬉しい!」
「それは良かった。あーここからだと北大門の広場の方が近いんだけど、そっちでも良いかな?」

 黒鷹亭から近いのは南大門だから、俺達はどうしても南大門を使う事が多いんだよね。北大門の露店も何度か行った事はあるけど、そう回数は多くない。

「うん、楽しみ!どんなお店があるかな」

 新規開拓もありだよねとワクワクしながら口にすれば、ハルがそういえばと口を開いた。

「あ、北大門と言えば…北大門にはカーディさんのお気に入りの露店があるんだってクリスが言ってたよ」
「え、そうなの?」

 カーディのお勧めのお店か。興味あるな。

「ああ、あの伴侶自慢と恋人自慢の夜に情報交換したんだ」
「へーそこも行ってみたいな」
「うん、折角だし行ってみようよ。そこの角で曲がろうか」

 的確なハルの指示に感謝しながら、俺はワクワクしながら角を曲がった。久しぶりのトライプールの露店ご飯、楽しみだ。
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