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631.【ハル視点】話す決断
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踏み込まずにいようとしてくれるのは、カルツさんの優しさだ。ここで黙っていても、カルツさんは決して文句は言わないだろう。それどころか何事も無かったかのように、今まで通りの付き合いを続けてくれる。カルツさんはそういう人だ。
だが同時に、だからこそアキトがどこかの貴族に探されているかもしれない事を、話しておくべきじゃないかとも思う。
俺はバッと顔を上げて、カルツさんとアキトを順番に見つめた。
「ハル?」
不思議そうなアキトをじっと見つめながら、俺はもう一度考えてみた。
そもそもカルツさんは、アキトが異世界人である事を知っている数少ない存在だ。止める間もなく、アキト本人がさらりと明かしてしまったからな。幽霊だから他の人にも話せないだろうしというのが、アキトの言い分なんだが。
それに加えて、俺が消えた時にもカルツさんには世話になったとアキトは言っていた。ここで話しておけば、もし何かあった時にも助力を願えるかもしれない。
姑息な考え方で申し訳ないが、アキトを守るためなら俺はカルツさんだって利用する。
そう決意した俺に、カルツさんは不思議そうに声をかけてきた。
「どうかしましたか、ハルさん?」
「いや…無理に聞いてくるつもりは無いって事は分かってる。分かってるけれど、やっぱりカルツさんには言っておいた方が良いかなと思ったんだ…アキトはどう思う?」
「俺?俺はカルツさんなら何でも大丈夫だと思うよ」
よし、アキトが嫌がらないなら、話す事は確定だな。だが、いつ人が来るかも分からないここで、何の対策もせずに無防備に会話を続けるわけにはいかない。
「カルツさん、これ使っても良いかな?」
俺は魔導収納鞄の中から、防音結界の魔道具を取り出してみせた。
「それは…?」
「防音結界の魔道具だよ」
俺の説明を聞いたカルツさんは、興味深そうに魔道具に近づいてきた。
「へぇ、防音結界の魔道具を持ち運べるんですか?ああ…今はこんなに小さくなっているんですね」
「そんなに小さくないと思うんだが」
値段は各段に高くなるがもっと小型化された物もあるからなと俺が首を傾げながらぽそりと呟けば、カルツさんは苦笑を浮かべて答えた。
「私が知ってるのは二十年ほど前の防音結界ですからね――当時は大事な商談や会議を行う部屋の四隅に、巨大な魔石と一緒に設置されてたんですよ」
ちなみにこのぐらいの大きさでしたとカルツさんが手で示したのは、なんと俺の身長よりも大きなサイズだった。
二十年も前なら俺はまだこどもで、防音結界が張られているような部屋には行かなかったから知らなかったな。
カルツさんによれば当時の防音結界は、その魔道具で囲われた範囲にしか効かなかったらしい。つまり四対一組として使わなければ、発動すらしなかったという事だ。俺の身長よりも大きなものを四対一組か…。それは決まった部屋に設置する以外に、使い道は無いだろうな。
カルツさんはひとしきり魔道具を観察してから、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。
「すみません、あまりに小型軽量化されている事に驚きすぎて、すこし動揺しました」
「いや、気にしないでくれ」
「どうぞ、使って頂いて大丈夫ですよ。お二人が私に打ち明けてくれるというなら、どんな話でも聞きます」
さらりと見せられる信頼に、俺は自然と笑みを浮かべた。
「そうか…許可をありがとう、カルツさん」
「いえいえ」
俺は周囲を警戒するように視線を巡らせると、すぐに防音結界の魔道具を発動した。発動する前に結界内に入られると厄介だからな。
「こんなに小さいのに、これほどまでの精度ですか!」
「ああ、範囲はそれほど広くないけどな」
「いえ、むしろ広くない方が便利でしょう――こうして人目も場所も気にせずに秘密の会話が出来るんですから」
カルツさんはそう言って楽し気に笑いだした。生前にこれがあれば色々と役立ったでしょうねとさらりと口にする辺り、カルツさんはやっぱり根っからの商人なんだな。
「アキトが異世界から来たって話は覚えているか?」
「ええ。心のそこから驚きましたから、忘れたりしてませんよ」
「俺達も噂程度でしか知らない話なんだが…」
そう前置きをした俺は、とある国で異世界人が召喚された事と、その国の貴族が異世界人を探している事を話した。
「それはつまり、召喚された場所がズレてしまったという事ですか?」
「俺がアキトと出会ったのは森の中だった」
「アキトさんが探されているかもしれないと思ってるんですね」
察しの良いカルツさんに、俺は重々しく一つ頷いてみせた。
だが同時に、だからこそアキトがどこかの貴族に探されているかもしれない事を、話しておくべきじゃないかとも思う。
俺はバッと顔を上げて、カルツさんとアキトを順番に見つめた。
「ハル?」
不思議そうなアキトをじっと見つめながら、俺はもう一度考えてみた。
そもそもカルツさんは、アキトが異世界人である事を知っている数少ない存在だ。止める間もなく、アキト本人がさらりと明かしてしまったからな。幽霊だから他の人にも話せないだろうしというのが、アキトの言い分なんだが。
それに加えて、俺が消えた時にもカルツさんには世話になったとアキトは言っていた。ここで話しておけば、もし何かあった時にも助力を願えるかもしれない。
姑息な考え方で申し訳ないが、アキトを守るためなら俺はカルツさんだって利用する。
そう決意した俺に、カルツさんは不思議そうに声をかけてきた。
「どうかしましたか、ハルさん?」
「いや…無理に聞いてくるつもりは無いって事は分かってる。分かってるけれど、やっぱりカルツさんには言っておいた方が良いかなと思ったんだ…アキトはどう思う?」
「俺?俺はカルツさんなら何でも大丈夫だと思うよ」
よし、アキトが嫌がらないなら、話す事は確定だな。だが、いつ人が来るかも分からないここで、何の対策もせずに無防備に会話を続けるわけにはいかない。
「カルツさん、これ使っても良いかな?」
俺は魔導収納鞄の中から、防音結界の魔道具を取り出してみせた。
「それは…?」
「防音結界の魔道具だよ」
俺の説明を聞いたカルツさんは、興味深そうに魔道具に近づいてきた。
「へぇ、防音結界の魔道具を持ち運べるんですか?ああ…今はこんなに小さくなっているんですね」
「そんなに小さくないと思うんだが」
値段は各段に高くなるがもっと小型化された物もあるからなと俺が首を傾げながらぽそりと呟けば、カルツさんは苦笑を浮かべて答えた。
「私が知ってるのは二十年ほど前の防音結界ですからね――当時は大事な商談や会議を行う部屋の四隅に、巨大な魔石と一緒に設置されてたんですよ」
ちなみにこのぐらいの大きさでしたとカルツさんが手で示したのは、なんと俺の身長よりも大きなサイズだった。
二十年も前なら俺はまだこどもで、防音結界が張られているような部屋には行かなかったから知らなかったな。
カルツさんによれば当時の防音結界は、その魔道具で囲われた範囲にしか効かなかったらしい。つまり四対一組として使わなければ、発動すらしなかったという事だ。俺の身長よりも大きなものを四対一組か…。それは決まった部屋に設置する以外に、使い道は無いだろうな。
カルツさんはひとしきり魔道具を観察してから、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。
「すみません、あまりに小型軽量化されている事に驚きすぎて、すこし動揺しました」
「いや、気にしないでくれ」
「どうぞ、使って頂いて大丈夫ですよ。お二人が私に打ち明けてくれるというなら、どんな話でも聞きます」
さらりと見せられる信頼に、俺は自然と笑みを浮かべた。
「そうか…許可をありがとう、カルツさん」
「いえいえ」
俺は周囲を警戒するように視線を巡らせると、すぐに防音結界の魔道具を発動した。発動する前に結界内に入られると厄介だからな。
「こんなに小さいのに、これほどまでの精度ですか!」
「ああ、範囲はそれほど広くないけどな」
「いえ、むしろ広くない方が便利でしょう――こうして人目も場所も気にせずに秘密の会話が出来るんですから」
カルツさんはそう言って楽し気に笑いだした。生前にこれがあれば色々と役立ったでしょうねとさらりと口にする辺り、カルツさんはやっぱり根っからの商人なんだな。
「アキトが異世界から来たって話は覚えているか?」
「ええ。心のそこから驚きましたから、忘れたりしてませんよ」
「俺達も噂程度でしか知らない話なんだが…」
そう前置きをした俺は、とある国で異世界人が召喚された事と、その国の貴族が異世界人を探している事を話した。
「それはつまり、召喚された場所がズレてしまったという事ですか?」
「俺がアキトと出会ったのは森の中だった」
「アキトさんが探されているかもしれないと思ってるんですね」
察しの良いカルツさんに、俺は重々しく一つ頷いてみせた。
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