生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
621 / 1,179

620.噂の元は

しおりを挟む
「黙っているのも、何だか騙すようで嫌だなと思ったんですが…突然こんな話をしてすみません」

 そう申し訳なさそうに続けたカルツさんに、俺は一体どこで知ったんだろうとただただ不思議に思っていた。

 こういう時に察しの良いハルなら説明してくれるかなとちらりと視線を向けてみたけど、珍しくも視線は全く合わなかった。ハルは何も言わずに黙り込んだまま、強張った顔でカルツさんを見つめていた。

「なあ、カルツさん。その情報をいつ、どこで、どんな奴から聞いたのか…聞いても良いか?」

 不意に口を開いて質問したハルの声が、あまりに冷えきっていて驚いてしまった。こんなハルの声は、今まで一度も聞いた事は無いと思う。表情も明らかに強張っているし、纏う空気までピリピリしてるように感じる。

「ええ、もちろんです。実は昨日、冒険者らしき方々が話しているのを聞いたんです」
「冒険者らしき奴ら…そいつらの見た目や特徴は説明できるか?」

 警戒心を露わにしたハルの質問に、カルツさんは慌てた様子で手を振った。

「あの、そんなに警戒する必要はありませんよ」
「警戒する必要が無い…とは?」

 ハルのいっそ睨むような視線にも怯まずに、カルツさんは答えた。

「ええ。紛らわしい言い方をしてしまいましたね…おそらくあの方々は、お二人のお知り合いなのだと思います」
「…知り合いだと判断した理由は何だ?」

 疑うように尋ねられても、カルツさんの穏やかな笑みは少しも揺らがなかった。

「まさかハルとアキトが伴侶候補になるとはなと一人が口にしたら、別に意外でも無いだろうと他の人達が笑っていたから…ですね」

 あれは間違いなく、話題の人達に対しての親しみのこもった声色でしたとカルツさんは続けた。

「元商人の目を信じて頂けるなら、決して警戒するような開いてでは無かったんです」
「そう…か…」

 そう呟くなり黙って何事かを考えこんでいたハルは、ハッと何かに気づいた様子で視線をあげた。

「あーすまない、カルツさん。思い当る奴らが浮かんだよ…もしかしてそいつらは四人組だったか?」
「ええ、確かに四人組でしたよ」

 ハルはその答えを聞くなり、ふうーっと思いっきり息を吐いた。

「なるほど、ルセフ達か」
「ええ、確かにそんなお名前でしたね。後はウォルさんと、ブレイさん、あとファリーアさん…でしたか」
「ウォルターに、ブレイズ、それにファリーマだな」

 律儀にみんなの名前の訂正をしているハルは、もう普段通りの柔らかい笑顔を浮かべている。

「つまり…ルセフさん達がこの近くを通りかかったって事?」
「ああ、そうみたいだな。まあよくよく考えてみれば、黒酒を売ってるラルトの酒屋っていうのは、ちょうどこの近くにあるんだ…だから不思議って訳でも無い」
「えっと…黒酒を売ってるお酒屋さんって、ルセフさん達と連絡を取れるって言ってたあの?」

 ブレイズがそんな事を教えてくれたなと思いだしながら口にすれば、ハルは笑って頷いた。

「ああそうだ。つまりあいつらはこの近くに住んでるって事になる。自分たちの家の近くで普通に世間話として俺達の事を喋っていたのを、たまたまカルツさんが聞いたんだろう」

 へーこの近くに住んでるのか。

「そういう事か」
「カルツさん、焦らせてすまなかった」

 勝手に警戒して質問責めにしてしまった事を、ハルはすぐに丁寧に謝罪した。

「お気になさらず」

 カルツさんもそう言うと、あっさりとハルの謝罪を受け入れてくれた。うん、やっぱりカルツさんも癒し系だよな。あの優しい声で話かけられると、それだけで空気も和む気がする。

「それにしても、ハルさん…何か、ありましたか?」
「何か…とは?」
「元々アキトさんに関しては過保護でしたが、あんな風に誰かに噂されていたってだけでピリピリしたりしない人だったでしょう?」

 すこし不思議そうにそう尋ねてきたカルツさんに、ハルは苦笑を浮かべた。

「最近、色々あってな…しばらくは警戒を怠れないんだ」

 それだけを答えたハルに、カルツさんはそれ以上は何も聞かなかった。ただにっこりと笑うと、話したいと思ったらいつでも聞きますからねと声をかけてくれた。

 こういう気づかいが、カルツさんの大人の余裕だな。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...