上 下
620 / 1,112

619.スラテール商会へ

しおりを挟む
 じっくりと考えながら選んだ俺達は、無事に会計を終わらせた。

 俺とハル用にはお勧めされてた木の実のケーキと、白と茶色に…黒のキャラメルを購入したよ。

 そう、黒のキャラメル買っちゃったんだよ。

 あんな理由を聞いちゃったら、さすがに黒は恥ずかしいから止めてって言いたかったんだよ。言いたかったんだけど、駄目なのかってしょんぼりと肩を落としたハルに寂しそうに言われたら、俺に拒否できるわけがないんだよね。

 やっぱり買っていいよっていったら一瞬で笑顔になってたけどね。あの笑顔が可愛かったから、俺の恥ずかしさぐらい我慢できる。

 あ、もちろん今夜の食事会のための、差し入れ用お菓子もちゃんと選んだよ。

 選択肢が多くてかなり悩んだけど、最終的に選ばれたのは淡いピンク色の生地に真っ白なアイシングが施された細長いケーキだった。

 このケーキはかなり甘めらしいけど、このお店で一二を争うぐらい人気の商品なんだそうだ。ハルと店員さんいわく、薄目に切って食べるのがお勧めの食べ方なんだって。

「ありがとうございました、またお待ちしております」

 店員さんの声に見送られながら店を出れば、ドアの横には遠くかでも目につきそうな派手な看板が立っていた。

「あ、看板出てるね」
「これがさっき言ってたやつ?」
「そうそう、今日は早く来て良かったね」

 ハルとそんな話をしながら、それぞれの魔導収納鞄へと手分けして荷物を押し込んだ。

「よし、差し入れも買えたし、次行こうか?」
「うん、行こう!」

 次の目的地は、スラテール商会のカルツさんの所だ。



 街の北側に位置するスラテール商会に向かうには、いくつかの路地を通る必要があるらしい。ハルの説明によると大通りから向かう事もできるけど、そっちはかなりの遠回りになるんだって。

 ハルの案内で歩く路地は、見た事のある場所もあれば初めてだと思う場所もあった。それぞれの道はぼんやり覚えていても、残念ながら頭の中で繋がってない感じだ。

 トライプールに来たばかりの頃に比べたら俺もだいぶ道も覚えられるようになってきたと思うんだよね。今度トライプールの街をもっといっぱい歩いてみようかな。そんな事を考えながら、俺達はどんどん路地を通り抜けて行った。

 ハルの案内で辿り着いたのは、ハルが生身を手に入れてからカルツさんと再会したスラテール商会横の小道だった。さすがに周りの人目があるとカルツさんと喋れないもんね。

 もしここにいなかったらスラテール商会の中に買い物に行くしか無いなってハルと相談してたんだけど、カルツさんはそこにぽつりと佇んでいた。声をかけて良いかなと視線を向ければ、気配を探っていたハルは笑って頷いてくれた。

「こんにちは、カルツさん」

 小声で声をかけると、カルツさんはバッとこちらを振り返った。

「おや、ハルさん、アキトさん。お久しぶりですね」
「お久しぶりです」

 ぺこりと目礼したハルに、カルツさんも同じように目礼を返した。

「カルツさんは何してたんですか?」
「つい先ほどまで息子のネオルがここで商品の仕分けをしていたんですよ」

 スラテール商会の製品は、太陽の光の下で仕分けをする方が違いが分かりやすいんだそうだ。天気が良い日にまとめて仕分けをするものなんですよと、カルツさんは穏やかな声で続けた。

「今日は何か用事があってこられたんですか?それとも通りすがりでしょうか?」

 どこまでも穏やかな声で、カルツさんはそう尋ねてきた。

「今日はカルツさんに用事があって来ました」
「私に用でしたか…お聞きしますよ?」

 柔らかい笑顔のカルツさんに、俺はすこし照れながらも口を開いた。

「あの、俺とハルが…伴侶候補になった事を報告したくて…」
「これが証拠です」

 ハルは俺とつないだままの手を、カルツさんが見えやすいようにとくいっと持ち上げてみせた。

「おめでとうございます、お二人とも」
「あまり驚いていないな」
「ええ、お二人ならいずれと思っていましたから…それに…」

 ふわりと笑ったカルツさんは、次の瞬間少し困ったように眉を下げた。

「すみません。実はお二人が伴侶候補になった事は既に知っていたんです」
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...