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618.耐性不足
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予想外すぎてついつい繰り返してしまっただけだったけど、ハルは俺がキャラメルという単語の意味が理解できずに繰り返したと受け取ったらしい。すこし困った顔で悩みながらも、ハルは口を開いた。
「うーん、俺も作り方までは知らないんだけど、キャラメルっていうのは濃厚な甘みのある柔らかい飴のような…いや、飴では無いか…?じゃあ何って言われると困るんだが…」
ハルは一体どう説明すれば通じるのかと、真剣な表情で頭を悩ませてくれている。
うん、確かにキャラメルを知らない食べた事のない人に、キャラメルがどんなものかを言葉だけで理解してもらうのって難しいと思う。せめて作り方を知ってれば何とか説明できるかもしれないけど、知らないとかなりの難題だよね。
俺は慌てたハルに向かって声を上げた。
「ハル、ごめん。俺多分だけどキャラメルは知ってる…と思う」
「あれ?そうなの?」
少し不思議そうに尋ねてきたハルに、ここでその単語が出てくると思ってなかったからびっくりしただけなんだと謝った。
「いや、謝らなくて良いよ。俺が勝手に勘違いしたんだし」
「それなら…説明ありがと、ハル」
謝罪じゃなくお礼を口にすれば、ハルはどういたしましてとにっこりと笑ってくれた。
常連さんが多いからなのか、並んでいる列の進みは思ったよりも速かった。ハルと楽しくおしゃべりをしていると、あっという間に俺達の順番が回ってきた。前に二十人以上も並んでいたとは思えない速さだったよ。
「いらっしゃいませ、リコーヴェ菓子店へようこそ。ゆっくりご覧になってください」
明るい笑みを浮かべた店員さんに迎え入れられた店内には、様々な種類のお菓子がずらりと並んでいた。俺にはいっそ毒々しくみえてしまうぐらい派手な色のお菓子から、見慣れたきつね色の焼き菓子までごちゃ混ぜだ。
店内には数組の客だけを入れているみたいで、決まった人から購入して出ていくスタイルらしい。ゆっくりと吟味している人もいれば、あっと言う間に注文を告げてすぐに出ていく人もいる。慌てて選ばなくて良いってのは嬉しいな。
「アキト、どれにする?」
「さっきハルがお勧めしてくれてた木の実のケーキってまだある?」
完売してないかなと尋ねてみたけど、もしハルがお勧めしてくれたのがあのものすごく派手な複数の蛍光色で作られたマーブル模様のケーキだったら、ちょっと買う勇気は無いかもしれない。だいぶ心配になりながらもこっそりと尋ねた俺に、ハルはあれだよとすぐに指差して教えてくれた。
指の向いた方にさっと視線を向ければ、この世界の人が言うところの地味な――俺にとっては本当に美味しそうな色のケーキが並んでいた。小ぶりな焼き菓子って感じですごく美味しそうだ。
あーうん、これは絶対食べたいな。さすがハル、俺の好みを分かってくれてるんだな。じんわりと胸が温かくなる。
「うん、すごく美味しそう!」
「実際美味しいよ。あ、今の時期だと、トスの木の実を使ってるんだって。少し硬めだけどアキトは好きだと思うよ」
その木の実の事は全く知らないけど、ハルが勧めてくれるなら絶対美味しいやつだ。それは買おう。
「えっと、ハルの好きなキャラメルは?」
「あの辺りだね」
ハルが教えてくれた辺りには、俺の想像よりもだいぶ大き目に切り分けられた色とりどりのキャラメルが並んでいた。
うーん、キャラメルもすっごくカラフルだな。まあ味が違うなら色が違うのも当然なのかな。何といってもこの世界は果物も野菜もカラフルなんだし。
「ちなみに、ハルが好きなのはどの色なの?」
「前は白と茶色が好きだったんだけど…」
白と茶色か。たしかにミルクとチョコって感じの色で美味しそうだ。あの黒っぽい赤色のやつとか言われなくて良かったな。
「…ん?前は?」
「今回はね、黒も買ってみようかなと思ってるんだ」
「へー黒は食べた事無いの?」
「うん、無いね」
何種類か試してみたんだけど白と茶色が特別に好きだなって思ったから、ハルも全色制覇はしてなかったんだって。ずーっと白と茶色を買ってた、と笑って教えてくれた。そんなハルが黒を買いたいって言うなんて、なんでだろうと不思議に思うよね?
俺も疑問に思って聞いてみたんだけど、ハルの答えはあっさりしたものだったよ。
「アキトの髪の色だからね」
店員さんもお客さんもたくさんいる店内、耳元で囁かれたその言葉に俺は息を吞んで固まった。不意打ちの口説き文句への耐性は、まだまだ足りないみたいだ。
「うーん、俺も作り方までは知らないんだけど、キャラメルっていうのは濃厚な甘みのある柔らかい飴のような…いや、飴では無いか…?じゃあ何って言われると困るんだが…」
ハルは一体どう説明すれば通じるのかと、真剣な表情で頭を悩ませてくれている。
うん、確かにキャラメルを知らない食べた事のない人に、キャラメルがどんなものかを言葉だけで理解してもらうのって難しいと思う。せめて作り方を知ってれば何とか説明できるかもしれないけど、知らないとかなりの難題だよね。
俺は慌てたハルに向かって声を上げた。
「ハル、ごめん。俺多分だけどキャラメルは知ってる…と思う」
「あれ?そうなの?」
少し不思議そうに尋ねてきたハルに、ここでその単語が出てくると思ってなかったからびっくりしただけなんだと謝った。
「いや、謝らなくて良いよ。俺が勝手に勘違いしたんだし」
「それなら…説明ありがと、ハル」
謝罪じゃなくお礼を口にすれば、ハルはどういたしましてとにっこりと笑ってくれた。
常連さんが多いからなのか、並んでいる列の進みは思ったよりも速かった。ハルと楽しくおしゃべりをしていると、あっという間に俺達の順番が回ってきた。前に二十人以上も並んでいたとは思えない速さだったよ。
「いらっしゃいませ、リコーヴェ菓子店へようこそ。ゆっくりご覧になってください」
明るい笑みを浮かべた店員さんに迎え入れられた店内には、様々な種類のお菓子がずらりと並んでいた。俺にはいっそ毒々しくみえてしまうぐらい派手な色のお菓子から、見慣れたきつね色の焼き菓子までごちゃ混ぜだ。
店内には数組の客だけを入れているみたいで、決まった人から購入して出ていくスタイルらしい。ゆっくりと吟味している人もいれば、あっと言う間に注文を告げてすぐに出ていく人もいる。慌てて選ばなくて良いってのは嬉しいな。
「アキト、どれにする?」
「さっきハルがお勧めしてくれてた木の実のケーキってまだある?」
完売してないかなと尋ねてみたけど、もしハルがお勧めしてくれたのがあのものすごく派手な複数の蛍光色で作られたマーブル模様のケーキだったら、ちょっと買う勇気は無いかもしれない。だいぶ心配になりながらもこっそりと尋ねた俺に、ハルはあれだよとすぐに指差して教えてくれた。
指の向いた方にさっと視線を向ければ、この世界の人が言うところの地味な――俺にとっては本当に美味しそうな色のケーキが並んでいた。小ぶりな焼き菓子って感じですごく美味しそうだ。
あーうん、これは絶対食べたいな。さすがハル、俺の好みを分かってくれてるんだな。じんわりと胸が温かくなる。
「うん、すごく美味しそう!」
「実際美味しいよ。あ、今の時期だと、トスの木の実を使ってるんだって。少し硬めだけどアキトは好きだと思うよ」
その木の実の事は全く知らないけど、ハルが勧めてくれるなら絶対美味しいやつだ。それは買おう。
「えっと、ハルの好きなキャラメルは?」
「あの辺りだね」
ハルが教えてくれた辺りには、俺の想像よりもだいぶ大き目に切り分けられた色とりどりのキャラメルが並んでいた。
うーん、キャラメルもすっごくカラフルだな。まあ味が違うなら色が違うのも当然なのかな。何といってもこの世界は果物も野菜もカラフルなんだし。
「ちなみに、ハルが好きなのはどの色なの?」
「前は白と茶色が好きだったんだけど…」
白と茶色か。たしかにミルクとチョコって感じの色で美味しそうだ。あの黒っぽい赤色のやつとか言われなくて良かったな。
「…ん?前は?」
「今回はね、黒も買ってみようかなと思ってるんだ」
「へー黒は食べた事無いの?」
「うん、無いね」
何種類か試してみたんだけど白と茶色が特別に好きだなって思ったから、ハルも全色制覇はしてなかったんだって。ずーっと白と茶色を買ってた、と笑って教えてくれた。そんなハルが黒を買いたいって言うなんて、なんでだろうと不思議に思うよね?
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「アキトの髪の色だからね」
店員さんもお客さんもたくさんいる店内、耳元で囁かれたその言葉に俺は息を吞んで固まった。不意打ちの口説き文句への耐性は、まだまだ足りないみたいだ。
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