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617.リコーヴェ菓子店

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 今日の空には雲一つなかった。文句のつけようのないからりと晴れた晴天だ。

 太陽の光に照らされた明るいトライプールの街中を、俺とハルは二人並んで歩きだした。

 もちろんどちらからともなく差し出した手は、今日もしっかりと繋いでるよ。街の外だと危険だからってなかなか繋げないんだから、街中でぐらいは繋いでいたいからね。

 ハルと手を繋いでると、ただ街中を歩くだけでもデートみたいでワクワクする。いや、実際にこれってデート…かな?うん、間違いなくデートだな。

「アキト、もし良ければ先に菓子を売ってる店に行ってみない?」
「うん、どっちからでも良いよ」
「じゃあこっちだよ」

 ちょうどお昼時だからか、行き交う人の量は思ったよりも多いみたいだ。ちらりと見えた大通りはすごい人だったけど、ハルは今日も裏道を駆使して、見事な道案内を披露してくれた。さすがハルだよね。

 道案内中に教えてくれたんだけど、ハルがお勧めしたいお店は朝早くから開いてるんだって。しかも売り切れたらすぐに閉店しちゃうお店で、ほとんど毎日完売するらしい。それはすっごい人気店だね。

「だから早めに行っておきたいなと思って先にしたいって言ったんだ」
「うん、そうだね。売り切れたら大変だ」

 正直に言うとそんなに朝早くからお菓子のお店が開いてるってのには、ちょっとびっくりした。でもハルいわくそこのお菓子は、商人さんが商談で使ったりもするから早くから開いてるんだって。なるほど、そういう事か。

 そういえば、和菓子屋さんとかは、朝早くから開いてる所もあったな。

 一度母さんに開店時間調べて欲しいって言われて、調べてびっくりした事があったんだ。そんなに早くから開いてるんだとびっくりした時に、差し入れとか手土産、それにお祝い事にも使うからじゃないかなって言われたのを今思いだした。

 そっか、そういう感じなら早朝から開ける事もあるよね。

「店の名前はリコーヴェって言うんだけど、あそこの菓子はしっかり甘いものから、甘さ控えめのものまで種類も多いんだ」
「へーそうなんだ。楽しみ」
「焼き菓子なんかもあったから、アキトも気に入るんじゃないかな」

 ワクワクしながらお店を目指して歩き続け、無事に辿り着いたのは想像していた以上に小さな建物だった。壁の所々をツタが這っていて、何というか絵本とかに出てきそう、な可愛らしい森の家みたいな印象の建物だ。

 お菓子屋さんには見えない見た目だったけど、近づく前からここだろうなとは思ってたよ。

 だって、すっごい行列なんだ。ざっと数えただけでも二十人以上は並んでるんじゃないかな。しかも並んでいる人達は老若男女問わずと言いたくなるぐらい、性別も世代もバラバラなんだから更にすごいよね。

「すごい人だね、ハル!」
「うん、そうだね。でもまあ、これならまだ少ない方かもしれないよ」

 え、こんなに並んでるのに?とびっくりして見つめれば、ハルはクスクスと笑いながら本当だよと頷いた。

「前に一度、諦めるぐらい並んでた事もあったからね。アキト、とりあえず並ぼうか」
「うん」

 ずらりと並んだ列の最後尾にささっと並べば、あっという間に俺達の後ろにも列ができた。本当に人気店なんだなって実感してしまう。

「よし、今の所、看板は出てないね」

 ハルは列に並ぶなり身を乗り出して店の方を見つめてから、ぼそりとそう呟いた。

「…看板?」
「商品が減ってきたら、店の前に看板が出るんだよ」

 その看板が店の前に出てからは、並んでも何も買えないかもしれないですよーという合図らしい。一々出てきて説明してられないからって編み出された、この店独自の方法なんだって。分かりやすくて良いと思う。

「あ、看板はまだ出てないから大丈夫だ」
「やった!」
「ねえ、もしかして看板ある?」
「いや、今日はまだ無いみたいだ」
「よっしゃ!嫁に土産が買える!」
「俺は明日からの依頼の癒しに買っていくぞ」

 後ろの列からもそんな声が漏れ聞こえてくるのが、ちょっと面白い。看板が無いかどうかを確認して一喜一憂してる感じからして、みんな常連さんなんだろうな。

「ちなみに、ハルのお勧めは何?」
「そうだなーアキト好みなら、季節の木の実入りケーキかな」

 季節ごとに中身の木の実が変わるんだよと言われたら、ぜひとも食べてみたい。

「ハルが好きなのは?」
「俺は…ここだとキャラメルが好きかな」
「キャラメル」

 あまりに予想外な単語が出てきたから、思わず繰り返してしまった。
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