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611.【ハル視点】レーブンの誘い
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「アキト、受け取ってくれるみたいだよ?」
あっさり説得できたのは、アキトの涙目のおかげなんだけどね。そんな事を考えながらもそう声をかければ、アキトは嬉しそうに笑ってお礼を口にしてくれた。貰ってもらえるならと大急ぎで鞄に手を入れるアキトを、レーブンは申し訳なさそうに見つめている。
「あの、これなんですけど」
そう言いながらアキトが鞄から取り出したのは、ずんぐりとした変わった形の瓶に入った北ノールの酒と、布で出来た袋に入ったつまみだ。袋の中身は、数種類のチーズと炒った木の実の詰め合わせだ。
この辺りでは料理に使う事が多いチーズや木の実を、北国ではそのままつまみとして食べるらしい。俺はそうなのかと正直すこし驚いたが、アキトは俺の反応にこそ驚いていた。店員からはお兄さんは知ってるみたいですねと嬉しそうに言われていたな。否定はせずに誤魔化しておいたが、多分これはアキトの世界での知識だろう。
少し味見させてもらったが、想像よりも美味しかったから俺もこっそりと買って鞄に潜ませている。アキトとお酒を飲む時にでも出すつもりだ。
「へぇ、すごいな、これは北ノールの酒じゃねぇか」
レーブンは感心した様子で瓶を見つめている。
北国ノールは雪に閉ざされるせいか、それとも酒豪が多いせいかきつい酒が多いんだよな。これも滅多に出回らない珍しい酒だが、どうやらレーブンは飲んだ事があるらしい。
「はい、北ノールのお酒です。美味しいけどけっこうきついって聞いたのでちょっと悩んだんですけど…レーブンさんはお酒に強いってハルに教えてもらったので」
「ああ、確かにこれはきつい酒だから贈る相手は選ぶよな」
そう言いながら瓶を受け取ったレーブンは、まじまじと手の中の瓶を見つめている。口の端が少しだけ上がっているから、これはかなり喜んでるな。
「こっちはおつまみです」
「北国ではチーズやナッツを料理に使わずに、つまみにするらしいよ?レーブン、知ってた?」
俺が横から尋ねれば、知識として知ってはいるが食べた事は無いと答えが返ってきた。
「アキト、ありがとうな」
「いえ、ゆっくり楽しんでください」
「いや…しかし、この酒は俺が一人で飲むのはもったいないな…アキトは酒は強かったよな?」
前に飲んで帰ってきてたもんなと続けたレーブンの視線は、アキトでは無くまっすぐ俺に向いていた。もし強くなかったとしても、アキトならレーブンさんと飲みたいと了承してしまうかもしれないって心配なんだろうな。レーブンは本当にアキト相手なら過保護だな。
「うん、アキトはかなり強い方だよ」
「そうか、それなら一緒にどうだ?」
「え?えっと…それはお土産なので…レーブンさんが飲んでください」
「まあそう言うなって、あのなアキト、俺の弟の事は知ってるよな?」
「弟って言うと、白狼亭のローガンさんですよね?」
アキトはすぐにそう返した。アキトがレーブンの息子のような存在なら、俺にとっては甥っ子だなんて言われていたな。気に入られているのは間違いない。
「ああ、そうだ。自分で言うのもなんだが、俺達は二人とも人気の宿と店をやってるせいで、同じ街に住んでいるのになかなかゆっくりと会う機会は無いんだ」
「え、そうなんですか?」
「まあたまに街中ですれ違っても、元気か?程度しか話さないんだがな」
そう言ってほのかに笑ったレーブンに、俺はその様子は想像できるよとついつい口を挟んでしまった。元気か?元気だ。そっちは?元気だ。そうかじゃあまたな。ああ。ってあっさり別れてしまうんだろう。
「だからたまには予定を合わせて休みを作って、二人で持ち寄った料理を食べる事にしてるんだ。そうでもしないとろくに会話もしないからなぁ…唯一の家族なのに」
レーブンとローガンが、二人揃って何を喋るんだろうなと想像してみる。会話も無くただ料理を摘まむ姿しか浮かばないな。そう思っていると、レーブンは基本的には料理の事を話すんだと口にした。
あそこの肉屋の肉は質が良くなったとか、最近冒険者に人気の香草の美味しい使い方とか、持ち寄った料理の改良点についてとかを話すらしい。それなら、まあ想像はできるな。
「料理の事でも、喋らないよりは良いだろうって事でな」
あれ?もしかして…?俺は湧いてきた疑問をレーブンに尋ねてみた。
「ローガンがアキトの事を聞いた事があるって言ってたのは、その食事会での話なのか」
「ああ、そんな事もあったな」
さらりと流したレーブンは、にこりと笑いながらアキトに向かって口を開いた。
「それが、次はちょうど明日の夜なんだ」
「え、明日ですか?」
「そう、明日だ。今回はここの食堂で、二人で飯を食う予定だったんだが…一緒にどうだ、ハル、アキト」
アキトはきっと喜ぶだろうと思ったんだが、困ったように眉間にしわを寄せた。
「え…でも、家族で食事をするための時間なんですよね?」
「ああ、そうだな」
「それなのに、俺達がいても良いんですか?」
「アキトも家族みたいなもんだし、ハルもアキトの伴侶候補なら身内みたいなもんだ」
そうだろう?と笑ったレーブンの笑顔に、一切の嘘は無い。家族での食事会だからこそ、参加して欲しいんだなとすぐに理解できた。
言葉に詰まったアキトの背中を俺はぽんっと軽くたたいてから、優しく見つめた。
「アキト、ここまで言ってくれてるなら、参加させてもらっても良いんじゃない?」
「アキト、来てくれるか?」
「っ!はいっ!…楽しみにしてますっ!」
あっさり説得できたのは、アキトの涙目のおかげなんだけどね。そんな事を考えながらもそう声をかければ、アキトは嬉しそうに笑ってお礼を口にしてくれた。貰ってもらえるならと大急ぎで鞄に手を入れるアキトを、レーブンは申し訳なさそうに見つめている。
「あの、これなんですけど」
そう言いながらアキトが鞄から取り出したのは、ずんぐりとした変わった形の瓶に入った北ノールの酒と、布で出来た袋に入ったつまみだ。袋の中身は、数種類のチーズと炒った木の実の詰め合わせだ。
この辺りでは料理に使う事が多いチーズや木の実を、北国ではそのままつまみとして食べるらしい。俺はそうなのかと正直すこし驚いたが、アキトは俺の反応にこそ驚いていた。店員からはお兄さんは知ってるみたいですねと嬉しそうに言われていたな。否定はせずに誤魔化しておいたが、多分これはアキトの世界での知識だろう。
少し味見させてもらったが、想像よりも美味しかったから俺もこっそりと買って鞄に潜ませている。アキトとお酒を飲む時にでも出すつもりだ。
「へぇ、すごいな、これは北ノールの酒じゃねぇか」
レーブンは感心した様子で瓶を見つめている。
北国ノールは雪に閉ざされるせいか、それとも酒豪が多いせいかきつい酒が多いんだよな。これも滅多に出回らない珍しい酒だが、どうやらレーブンは飲んだ事があるらしい。
「はい、北ノールのお酒です。美味しいけどけっこうきついって聞いたのでちょっと悩んだんですけど…レーブンさんはお酒に強いってハルに教えてもらったので」
「ああ、確かにこれはきつい酒だから贈る相手は選ぶよな」
そう言いながら瓶を受け取ったレーブンは、まじまじと手の中の瓶を見つめている。口の端が少しだけ上がっているから、これはかなり喜んでるな。
「こっちはおつまみです」
「北国ではチーズやナッツを料理に使わずに、つまみにするらしいよ?レーブン、知ってた?」
俺が横から尋ねれば、知識として知ってはいるが食べた事は無いと答えが返ってきた。
「アキト、ありがとうな」
「いえ、ゆっくり楽しんでください」
「いや…しかし、この酒は俺が一人で飲むのはもったいないな…アキトは酒は強かったよな?」
前に飲んで帰ってきてたもんなと続けたレーブンの視線は、アキトでは無くまっすぐ俺に向いていた。もし強くなかったとしても、アキトならレーブンさんと飲みたいと了承してしまうかもしれないって心配なんだろうな。レーブンは本当にアキト相手なら過保護だな。
「うん、アキトはかなり強い方だよ」
「そうか、それなら一緒にどうだ?」
「え?えっと…それはお土産なので…レーブンさんが飲んでください」
「まあそう言うなって、あのなアキト、俺の弟の事は知ってるよな?」
「弟って言うと、白狼亭のローガンさんですよね?」
アキトはすぐにそう返した。アキトがレーブンの息子のような存在なら、俺にとっては甥っ子だなんて言われていたな。気に入られているのは間違いない。
「ああ、そうだ。自分で言うのもなんだが、俺達は二人とも人気の宿と店をやってるせいで、同じ街に住んでいるのになかなかゆっくりと会う機会は無いんだ」
「え、そうなんですか?」
「まあたまに街中ですれ違っても、元気か?程度しか話さないんだがな」
そう言ってほのかに笑ったレーブンに、俺はその様子は想像できるよとついつい口を挟んでしまった。元気か?元気だ。そっちは?元気だ。そうかじゃあまたな。ああ。ってあっさり別れてしまうんだろう。
「だからたまには予定を合わせて休みを作って、二人で持ち寄った料理を食べる事にしてるんだ。そうでもしないとろくに会話もしないからなぁ…唯一の家族なのに」
レーブンとローガンが、二人揃って何を喋るんだろうなと想像してみる。会話も無くただ料理を摘まむ姿しか浮かばないな。そう思っていると、レーブンは基本的には料理の事を話すんだと口にした。
あそこの肉屋の肉は質が良くなったとか、最近冒険者に人気の香草の美味しい使い方とか、持ち寄った料理の改良点についてとかを話すらしい。それなら、まあ想像はできるな。
「料理の事でも、喋らないよりは良いだろうって事でな」
あれ?もしかして…?俺は湧いてきた疑問をレーブンに尋ねてみた。
「ローガンがアキトの事を聞いた事があるって言ってたのは、その食事会での話なのか」
「ああ、そんな事もあったな」
さらりと流したレーブンは、にこりと笑いながらアキトに向かって口を開いた。
「それが、次はちょうど明日の夜なんだ」
「え、明日ですか?」
「そう、明日だ。今回はここの食堂で、二人で飯を食う予定だったんだが…一緒にどうだ、ハル、アキト」
アキトはきっと喜ぶだろうと思ったんだが、困ったように眉間にしわを寄せた。
「え…でも、家族で食事をするための時間なんですよね?」
「ああ、そうだな」
「それなのに、俺達がいても良いんですか?」
「アキトも家族みたいなもんだし、ハルもアキトの伴侶候補なら身内みたいなもんだ」
そうだろう?と笑ったレーブンの笑顔に、一切の嘘は無い。家族での食事会だからこそ、参加して欲しいんだなとすぐに理解できた。
言葉に詰まったアキトの背中を俺はぽんっと軽くたたいてから、優しく見つめた。
「アキト、ここまで言ってくれてるなら、参加させてもらっても良いんじゃない?」
「アキト、来てくれるか?」
「っ!はいっ!…楽しみにしてますっ!」
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